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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
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13-2話

「アスタ、そろそろ魔法学校の入試を受けようと思うんだけど」

「まだ早いんじゃないか?」

 ……ですよねぇ。


 アスタと夕食を食べながら、今日思った事を切り出してみたが一蹴された。

 国語と数学だけならちょっと自信があるのだけれど、魔法と社会は明らかに最低ラインをひた走っている。まだ社会はこれから本を読み続ければレベルアップできる見込みがあるが、魔法がヤバい。

 アスタのような最高レベルの魔法使いに家庭教師をしてもらっているのに、何だこの伸び率の悪さはみたいな状況だ。アホの子ですみません。


「でも、そろそろ入試対策にのっとった勉強をするべきかと。読み書きは問題なくなったわけだし」

「入試に合わせた勉強なんてしても、今後意味をなさないよ。ちゃんと基礎を積み上げるべきだと俺は思うけど?」

 うっ。これまた正論だ。


 過去問とかをやれば結構出題される場所は分かると思う。しかし悲しいかな。それは一時しのぎにすぎない事もまた事実だ。社会は卒業後に使わなさそうだし問題ないが、魔法は違う。

 少なくとも私は、転移魔法をマスターしたいと思っているのだ。その他、火を付ける魔法――できれば強火や弱火など火力調節できるとなおいい――や、保冷魔法、水を召喚する魔法、植物の成長を促す魔法など、自給自足する時に楽になる魔法も覚えたい。また薬草を年中楽に栽培する事になると考えれば、日照時間を誤魔化す、光魔法や闇魔法もあると便利だろうし……と考えると、かなりオールマイティーに魔法が使えるようになる必要があった。

 どれもこれも些細なものだが、属性がバラバラな事を考えると、真面目に勉強する必要がある。大がかりな攻撃魔法とか、空を飛びたいとかそんな夢のある魔法からは程遠い次元なのに、何でこんなに難しいのだろう。


「確かにその通りだけど、私は魔法薬学を学びたいから、12年は通うことになる。20歳ぐらいで独り立ちすると考えると、来年には入学しないといけないと思うんだ」

「20で独り立ちっ?!」

 ……おや?

 アスタが衝撃的な顔をしている。成人って、20歳ぐらいじゃないの?ああ、でも種族によっては成長スピードが違うからそれぞれ違うのかもしれない。特に魔族は遅そうだ。

「人族だとそれぐらいで成人だと聞いていたけれど」

「それは魔力が少ない人族の話だろ。オクトは20歳になっても、まだこんなに小さいよ」

「いや、それ。今の私より小さいから」

 アスタはテーブルより下に手を下げたが、悪いがすでにテーブルよりは頭が上だ。2年前ならそうだったかも知れないが、私だって成長する。

「それに今のところ人族とさほど私の成長は変わらないように思う。ならば20歳で独立するのが妥当じゃないかと」

「でもオクトは魔力が高いし、必ず途中で成長スピードが落ちるよ。20なんて早いって」


「魔力……高いの?」

 それは初耳だ。

 私のつぶやきにアスタはしまったというような、苦虫を噛んだような顔をしている。言うつもりはなかったのだろう。アスタにしては珍しい。20歳で独立って、そんなに焦るほど早いのだろうか?

「あー……事前に言っておくけれど、魔力が高いから、優秀な魔術師というわけじゃないから」

「うん。それは分かっている」

 いくら魔力が強くて、色々ごり押しできたとしても、正確に理論を理解していなければ、応用は使えない。軍に入って、攻撃魔法を使うだけというならばそれでも構わないだろうが、私の将来設計に攻撃魔法はいらないのだ。


「オクトに流れている血は、エルフ族、人族、精霊族、獣人族の4つだろ。この中で魔力が強い種族はエルフ族と精霊族。特に精霊族は魔力の塊みたいなものなんだ。それとは逆に魔力が低い種族は獣人族。彼らは魔力が低い代わりに、優れた聴覚や視覚、腕力や脚力などを持っている」

「つまり獣人族の特徴が全く出ていないから、他の種族の特徴が出ているという事?」

 腕力、脚力のなさは、常々不便に思ってきた。年相応だから仕方がないと割り切っても、もう少し筋肉が欲しいと今も思っている。また聴力や視力などの五感も並みぐらいで、アスタとそんなに変わらない様に思う。獣人らしい能力には全く恵まれていない。


「そう。あと、これは練習しなければ見えないのだけれど、オクトの周りには低位の精霊がよく集まっているんだ。魔力が強くて垂れ流し状態だとそういう事が起こるんだよ」

「えっ、いるの?精霊?!」

 きょろきょろ見渡すが、やはり見えない。練習が必要と言ったが、どうやって見るのだろう。でも見えたら見えたで、アレか。普通見えないものが見えるという事は、精神科を勧められそうな気がする。混ぜモノってだけで嫌われているのに、精神も疑われるのはちょっと嫌だ。

「精霊族は、高位と呼ばれる者以外は魔力で作ったレンズを目に貼り付ける事で、初めて見えるんだ。数は多い種族だよ」

「へぇ」


 つまり魔法使い又は魔術師にしか見えないという事か。……ん?だとしたら、魔力の少ない獣人と精霊が結婚するってどういう状況だ?自分の祖父母のどちらかは高位と呼ばれる精霊だったとか?でも高位は龍神の近くに住んでいるとかって前に聞いたような。でもってその龍神はめったにヒトには会わないわけで。確か会う事ができるのは……。

 ――何だか自分の家系図を遡ると複雑そうだ。

 母親がすでに他界している状況なので、実際遡る事は難しいだろう。だけどそもそも、考えない方が身の為な気する。面倒事には、関わらない。フラグはへし折るに限る。


「えっと、それは難しいの?」

 2年前、少し失敗ぎみではあったが既に転移魔法を使っていたカミュ王子達は、まだ精霊を見た事はないと言っていた。レンズを作る魔法は転移魔法よりも難しいのだろうか。もしくはあまり実用性がないから勉強をしていなかったのかもしれないけれど。

「魔法を使う事に慣れていないと難しいかな。オクトは精霊が見たいの?」

 何だか今にも見せてくれそうな言い回しだが、見たいかと言われると疑問だ。自分の周りに結構いるという事は、目に見えてしまうとかなり鬱陶しいのではないだろうか。四六時中誰かに見られていると思うとぞっとする。

 私は色々考えた結果、首を横に振った。

「いや。別にいい。聞いてみただけ」

「そう?見たくなったら言ってくれれば、いつでも見せてあげるよ」

 スープを飲みながら、アスタはこともなげに言った。こういう時、やっぱり凄い魔法使いなんだなと思う。


「あー……見せて欲しいというよりは、できれば私も魔法を使ってみたいというか……」

 アスタが教えないという事は、まだ私には無理なのだろう。アスタはいつも何事も基本が大切といい、勉強を教えてくれる。それは私も十分理解している。基礎ができていないのに魔法を使いたいというのは、足し算、引き算ができないのに、二次関数の問題を解こうというようなものだろう。

 でも理論だけ学んでいると、どうにも進歩したように思えないのだ。本は読めるようになったし、手紙も苦もなく書けるようになったから全く進歩していないわけではない。それでも魔法分野は進歩が感じられず、本当に魔術師になれるのか不安だった。

「でも無理なら、別にいい……」


「オクトはどんな魔法が使いたいんだい?」

 アスタは無理だと一蹴しなかった。食事の手を止め、ジッと私を見つめる。きっとただ使いたいでは、アスタは納得しないだろう。

 覚えたい魔法はいくつかあるが、今のところアスタのおかげでキッチン関係では今すぐ必要なものはない。転移魔法も、出かける場所が近場なので必要性は低い。それにあまり移動を魔法に頼り過ぎると、今度は運動不足で体力がなくなりそうだ。


「えっと……扇風機みたいなものとか?」

「は?」

「えっと。これから暑くなってくるから、部屋の中で小さな風を起こせるといいなと」

 今はまだ暖かいぐらいだが、これからどんどん暑くなってくる。海が近い所為か湿度が高く、おかげで去年は夏バテをしかけた。冷蔵庫の原理で部屋の中を冷やすのもいいかもしれないが、体の事を考えると、まずは扇風機だ。もしくは水魔法で除湿か。でもあまり乾燥すると、喉を痛めそうだしなぁ。


「ぷっ……あははははは。オクト、風を起こすだけでいいわけ?もっと派手なのじゃなくて?」

「派手?」

 何故か大笑いしているアスタを私は睨んだ。絶対馬鹿にしているだろ。ヒトが折角真面目に考えたというのに。

「悪い、悪い。馬鹿にしているんじゃないって。ちょっと想像と違っただけで。風を起こすなら、竜巻を起こしたいとか、空を飛びたいとか色々あるだろ」

「……竜巻を起こして、どうするの?それに空を飛んで買い物に行く利便性が見えない」

 むしろその発想の方が私には謎だ。

 首をかしげると、アスタは耐えきれないとばかりに爆笑した。やっぱり馬鹿にしているんじゃないだろうか。

 ひとしきり笑い終えたアスタは目にたまった涙を拭くとにっこり笑った。


「じゃあ明日、実践をやってみようか」 





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