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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
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13-1話  大変な入学準備

 龍玉大陸は『緑、青、黄、赤、白、金、黒』の7つの大地からできていた。それぞれ治める龍神が違い、私が住んでいる国は、緑の大地に属する。

 またこの世界にある魔法は『樹、水、風、火、地、光、闇』の7属性に分かれ、大地ごとに使いやすい魔法も違う。ちなみに緑の大地では樹が使いやすいとされる。

「魔法を使うのに場所まで関係するなんて……」


 なんて面倒な。


 魔法学校へ入学を決意してから2年の月日がたった。5歳児だった私も7歳になったわけだが、いまだに学校には通えておらず、アスタの家で日々勉強をしている。5歳の時よりは一応進歩はしており、今では龍玉語をすらすら読んで書けるまでになった。

 家庭教師なんかやってられないぜ的だったアスタだが、さすがに娘の勉強をみるのは親の仕事と思ったのか休みの日は色々教えてくれている。ただし魔法に関してはいまだに理論を出ず、実技には程遠いのだけれど。正直魔法を舐めていた。覚える事が多すぎる。


 前世でやったゲームなどでは、火より水の方が強いとかその程度の内容を覚え、ボタンひとつで済むのに、実際は違った。当たり前といえば、当たり前だ。

 まず魔法を使うには魔力又は魔素というものを使う。人体で生み出しているものを魔力、大気中にあるものを魔素と呼ぶだけで大して変わらないように思うが、これが結構違う。ヒトは生まれながらに属性というものがあり、魔力はその属性を帯びている。例えば樹属性のヒトならば、自分の魔力で樹の魔法が使えるが、その他の転移魔法などは使えない。もしも使いたい場合は、一度魔力から属性を消し去るという作業をして、さらに転移魔法用に加工する事で、初めて使えるのだ。

 魔素を使う場合はあらかじめ必要なものを選び使う事となるが、場所によってその量は変わり、これまたややこしい計算が必要となる。

 他にも色々覚える事があり、勉強すればするほど、正直マスターできる気がしない。魔法学校に通いたいなんて少し早まったかもしれない。


「そもそも魔法学校って何歳から?」

 この国にあるウイング魔法学校は、入学前に試験がある。今まで勉強らしい勉強をしてこなかったので、慌てて基礎知識を積み上げている最中なのだが、最近何歳で入学するのが普通なんだろうという事に気がついた。少し気がつくのが遅いかもしれないが、アスタがまったくその事に触れなかったのだから仕方がない。

 日本の学校を想像すれば、6歳くらい?と思うが、この国には小学校がない。また学校に行くようなヒトは家が裕福で幼い時から家庭教師を付けていたりする事が多い。そう考えるともう少し年齢が上がってからかもしれない。

「確かライ達が12歳の時にはもう通っていたような……」


「僕たちは11歳に入学したかな。特に年齢制限は引いていないはずで、知識と最低ラインの魔力があれば入学は可能だよ。ほら、魔力の度合いとか種族によって成長具合が違うからね」

 振り返れば、王子様。

 ……ない。普通はない光景だ。ここが王宮なら分かるが、ここは王宮勤めのヒトが借りている宿舎で、しかも王宮の外に設置された場所である。ほいほい王子様が出てきていい場所ではない。いくら元家庭教師の家でもだ。

 彼らと出会ってしばらくして、ようやくその事実に気がついた。しかしその事を認識しても勝手に来るものを追い払うわけにもいかず、結局は迎え入れるしかない。王子の意見を一般ピープルが覆せるはずもないのだ。


「カミュ王子、それにライ。学校は?」

「午後から休みなんだよ」

「そう」

 私は心の中でため息をつきながらお茶を入れる為立ち上がった。

 何が休みだ。大方、テストさえちゃんと点数が取れれば問題ない科目をさぼったのだろう。魔法学校はその名の通り、魔法科目に重点を置いている。基本科目である国語、数学、魔法、社会のうち、魔法だけが唯一出席日数が足りないと留年するが、その他の科目はテストの点さえ取れれば進級できるのだ。というのも生徒は、家庭教師などを付けて勉強しているお坊ちゃん、お嬢ちゃんが多く、すでに勉強済だったりするからだ。同じ授業料ならば、出席した方が得なのになぁと思うが、そんなもの貴族は知った事ではないだろう。

 先生も大変だ。


「オクトさん、今日のケーキは何?」

「……エッグタルト」

 何でさも当たり前のようにおやつを要求しているんだろう。王子様だからですね、分かります。

 小さな無言はなけなしの反抗心だが、週の半分は入り浸る彼らの為におやつを用意するのは日常となっており、食べてくれないと逆に余って対応に困る。食べきれなければ、近所におすそわけすればいいのかもしれないが、以前両隣にプレゼントをした後、大量の花束や良く分からない詩集などの贈り物が家の前に積まれた。あれはかなりの恐怖体験だ。何処の笠地蔵だよ。

 両隣にどんな人物が住んでいるのかいまだに知らないが、正直関わりたくない。うん。人生楽に生きる為には、引きこもるに限る。


 コンロでお湯を沸かし、冷蔵庫からタルトを取り出す。何気にこの部屋は最新調理システムになっている気がする。この国で1,2を争う魔術師なだけあって、アスタはこんなのが欲しいと頼むと、簡単に作ってくれた。娘の我儘を必ず聞いてくれるなんて、何とも甘いお父さんだ。

「オクトさん、それ何?」

「まな板」

「いや。魔方陣が書いてあるだろ、ソレ」

「魔方陣とは違う。切り分けやすいようにメモリが書いてあるだけ。というか、座って待てていいよ」

 タルトを切り分けていると、後ろからカミュ王子達が覗き込んだ。丸い形のものは中々切るのが難しいのだ。そこで事前にケーキ用のまな板を作り、そこに切り分ける線を書いてしまう事にした。決して魔方陣で美味しくなる魔法をかけようなんてセコイ事は考えていない。

 というか、ドーピングっぽくて、ソレちょっとどうよって感じだし。

「じゃあ、先にカップだけ持っていくな」

「どうも」

 定期的に入り浸るようになった彼らは、一応お客という立場だが、お茶を運ぶのを手伝ってくれる。5歳の時は腕力のなさに苦戦していた為だが、今はもう習慣のようなものだ。

 今もケーキを皿に盛ると、カミュ王子がテーブルまで運んでくれる。彼らにこんなことをさせていると知れたら、偉い人たちがひっくり返るかもしれない。今後も外で会う事などほぼ皆無の予定だが、一応外でフレンドリーにしないよう、気を付けた方がいいだろう。今も敬語で話したりもしていないし。

 沸いたお湯をポットに入れ運ぶと、テーブルがセッティングされていた。運ぶ時間も計算に入れてて紅茶を注ぐと、ふわりといい香りが漂う。完璧だ。


「そういえば、オクトさんはいつごろ入学するつもりなの?」

「早い方がいいぞ」

 そういうものなのか?

 ライ達が11歳で入学したなら、私はまだ4年は学校に通う必要はない。ただ、ライ達の入学したタイミングが早いのか、遅いのかも正直分からないのだ。

 アスタは今のところ入学試験を受けろとか言わないので、ゆっくりと構えていた。でもアスタは20代に見える、若づくりな高齢者だ。時間の流れがヒトと違って、のんびりしている可能性もある。


「普通、どれぐらいで入学するの?」

「10歳前後が多いか?でもカザルズ魔術師が8歳で入学して7年で卒業したのは有名だぞ」

「へぇ」

 それはかなり凄い。魔法学校はおおよそ10~12年通う学校だ。6年間基礎魔法を勉強し、その後細分化された学問を勉強をする。私が勉強したい魔法薬学科は6年だが、選んだ専攻によっては4年で卒業だ。カザルズがどの専攻を選んだのかは知らないが、飛び級制度を使った事は間違いない。

「その後は祖国である、ホンニ帝国で働いているそうだよ」

 つまりはエリートコースまっしぐらという事か。

 私の人生計画は、山奥でひっそり薬剤師をやる予定だ。なのでそういう華々しい学歴はいらない。しかし入学が遅くなれば、必然的に働けるようになるのも遅くなるという事で……。確かに入学は早い方がいいだろう。


 タルトにフォークをつきたてながら、私はどうするか思案した。

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