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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
賢者編
133/144

45-3話

 ……うわぁ。

 

 もともと合法ロリと言われていたから、覚悟はしていた。かと言って、こう2次元をまんま現実世界に持ち込んでみました的なテンプレっぽいヒトが現れるのは、ある意味予想外である。

 私の頭の上で腕組をし、ふよふよ浮かんでいる少女は、アラジンなどで出てくるようなふんわりとしたパンツを履き、ロングコートのようなものを羽織っていた。さらに頭はより大きく見せるかのような帽子をかぶっていて、まさにコスプ――もとい、今まで出会った誰よりも異国風の装いだ。


「なんじゃ?わらわに用があってきたのじゃろ。ヒトの顔を見て呆けるとはどういう了見じゃ?」

 ……あ、頭が痛くなってきた。

 じゃじゃ言葉に、一人称がわらわ。ネタとしてやっているとしか思えない状況だけど、本人はいたってまじめな様子。きっと私が何で呆けたような顔をしているのか、絶対分かっていないだろう。

「まるで前館長みたいなしゃべり方だな」

「ははは」

 確かにアスタが言うとおり、前図書館の館長もじゃじゃ言葉だった。でも館長の場合は、本物のお爺さんだったから似合っていたわけで。あ、でもトキワさんは合法だからババアな可能性もあるのか。

 合法ロリどころか、まさかのロリババア。いや、ロリババアは色々複雑で、ただ長生きをしていれば認定されるわけではなかったから、この場合は、のじゃロリというのが正解か――。

 ――ああ。また一つ、自分の残念な前世知識が見つかってしまった。


「あー、えっと。初めまして。トキワさん……ですよね?」

 あまりに残念すぎる前世の知識をこれ以上思い出しても余計に切なくなってきてしまうだけだ。なので私は気を取り直し、名前を確認してみた。

 というか、こんな絵に描いた合法ロリが、ゴロゴロいる世界はちょっと嫌だ。もしも時の精霊全員が、ロリショタだったらどうしよう。かわいいは正義……ある意味楽園か?いやいやいや。そんな新しい世界への目覚めはいらない。

「いかにも。わらわは、時を司りし神に仕える高位精霊のトキワじゃ」

 トキワさんは踏ん反りかえるような姿勢で空に浮かびながら、偉そうに答えた。地面に降りればいいのにと思ったが、その時はっと私は気がついた。

 合法ロリと呼ばれるだけあってトキワさんの身長はかなり低い。もしも地面に降りたら、全員から見下ろされるような位置に頭が来るだろう。もしかしたら、それを回避しているのかもしれない。

 何故そんな口調なのかは分からないが、小さい事を気にするその気持ちだけはよく分かる。

 全く理解しがたい存在に思えたが、少しだけ親近感が湧いた。


「時を司りし神?」

 アスタのいぶかしげな声に、私もあれ?っと気がついた。外見の奇抜さというか、狙いすぎだろというところに目がいってしまい、トキワさんの言葉を流しそうになったが、確かにおかしい。

 以前カンナさんから、時の女神が混融湖に溶けたという話は聞いていたが、それはとても昔の話。私が知る限り、この世界の神様に時を司っているものはない。

「いかにも。わらわは時の神に仕えるモノ。最後の時の女神が居なくなってからは時の管理を代行し、待ち続けておるモノじゃ」

 ……このヒト、一体いくつなんだろ。

 最後の時の女神が居なくなってからという事は、つまり混融湖ができた辺り――文献にも載っていないほど昔の時代の事である。一族で管理をしてきたという事と思いたいが、今のセリフからは、トキワさんがずっと代行をしてきたという言葉に聞こえる。

 もしも本当にそうなら、合法どころの騒ぎではない。


「待つって――」

「じゃが、最近、時の流れをひっちゃかめっちゃかにして、いくつもの並行世界を生み出している愚か者がおってのう」

 そう言うと、トキワさんは、大きな紫色の瞳を私の方へ向けた。……えっと。もしかして、もしかしなくても、それって私ですか?

 もしくは、コンユウやエストの可能性もあるというか、全員な気がしてたまらない。

「その件を含め、わらわはオクトと2人きりで話がしたいんじゃが、駄目かのう?」

「駄目に決まっているだろ」

「そうですね。オクト嬢を1人にしては、私がクロに怒られてしまいます。ですからここで話をしていただきたいのですが」

 どうしようかと私が考えていると、私より先にアスタとカズが断った。

 しかしトキワさんは2人へ目を向ける事もなく、じっと私だけを見つめる。


「わらわはオクトに聞いておるんじゃが」

「私は……」

「わらわは、オクトが知りたい事を知っておる。しかし部外者がおるならば、わらわはこれ以上しゃべる気はない」

「えっ?!」

 って、それは困る。

 わざわざホンニ帝国にやってきたのは、トキワさんに色々話を聞くためなのだ。

「駄目だ。俺が居る前で話せないような内容なら、帰らせてもらう」

「アスタ、ちょっと待って」

 私の腕を掴み、本当に帰ろうとするアスタからさっと逃げると、私はトキワさんを見た。

「何でここじゃ駄目なんですか?」

「時の管理に関わる事は、本来他者に漏らしてはならないからじゃよ」

 あー、いわゆるタイムパラドックスを防ぐためとかそういう話だろうか。だったら私も聞くのは不味い気がするが、私は一応トキワさんと契約をしている。もしかしたら、トキワさんは、私が知りたい事をママについてや、ママが手紙に残した前世についての話だと思っているのかもしれない。

 本当に聞きたいのはそれではないのだが、どちらにしろ一度話をしなければならないだろう。そうでなければ、本当に欲しい情報をくれるのかどうかすら分からない。


「分かった」

「オクト駄目だ」

 アスタの目は真剣だ。

 できるなら、アスタを説得させてから行きたい。でもいまだに対等だと思ってもらえない私では、説得するにしてもとても時間がかかるだろう。特に今の心配性なアスタでは、中々難しそうだ。

 それにアスタが実力行使にでたら、私では太刀打ちできない。なので、私は先手を打たせてもらうことにした。

「アスタ、ごめん。……私には前世の記憶がありますっ!」

 私が叫んだ瞬間、アスタの動きが止まった。

 アスタだけではない。カズの動きも止まり、世界から音という音が消え、私は無音に包まれる。

「私には前世の記憶があります。私には前世の記憶があります。私には前世の記憶があります――」

 前世の話をしようとすると発動し、強制的に時を止めてしまう、時の女神の呪い。しかしこの呪いが発動中に、私自身が動けるのはすでに実証済みだ。

 ホンニ帝国の地理を知らない私では、ここでは上手く転移魔法を使えない。なのでアスタから逃げるには、時を止めるのが確実だろう。


「このように呪いを使われるとは、女神も思っておらんかったじゃろうな」

 世界が静寂に包まれている中、私とは別の声が聞こえた。どうやら時の精霊には、この手の呪いは関係がないようだ。

 呆れた目で見てくるトキワさんに、私は苦笑する。魔術に関しての知識や能力は、アスタの方が私よりもずっと上だ。そのアスタを出し抜くには、彼が思いつきもしない方法を使うしかない。

 それにしても、時が止まった中でトキワさんにどうやって色々伝えようかと思っていたので、呪いが時の精霊には関係しないというのはありがたかった。

「しかし時が止まっておっては、わらわも転移魔法を使えんぞ」

 トキワさんの言葉に私はうなづくと、『私には前世の記憶があります』と声を出しながら、出口に向かって歩き始めた。

 アスタはきっと怒るだろう。でもここで上手くいかないだろう説得をするよりも、この選択肢の方がずっと合理的だ。

「私には前世の記憶があります。私には前世の記憶があります。私には前世の記憶があります――」

 機械的に言葉を発していた私だったが、入口から出る前に、なんとなくアスタの方を振り返えった。アスタは私が居なくなった事にも気づかず、じっと扉とは反対の方を向いている。もちろん時間が止まっているのだから、当たり前なのだけど……なんだかいけない事をしている気分になってしまう。


 そういえば、ホンニ帝国に黙って行こうとした時もアスタは怒って追いかけてきたぐらいだ。突然居なくなったら、アスタはきっとショックを受けるに違いない。アスタを傷つけたくはないのだけど……どうしたものか。

「どうしたんじゃ?」

 私は鞄の中から魔法陣を描く為に持ってきた紙とペンをとりだすと、謝罪と終わり次第アスタが居る所へ戻る旨を書いた。

 すべてが終わったら、ちゃんとアスタと話し合おう。だから、今回はごめんっと思いつつ手紙を足元に置く。


 部屋の外へ出ると、日の光がまぶしくて、私は目を細めた。どうやら私たちが居た場所は、独立した建物だったようで、部屋の外は屋外につながっていた。

「私には前世の記憶があります。私には前世の記憶があります。私には前世の記憶があります――」

 どこまで離れればいいのか分からないが、とりあえず私は行くあてもなく歩いた。ただ城の真ん前で時を止めるのを止めたら、そこで働いているヒト達に不審者扱いされてしまう可能性がある。なので城からは離れるように進んだ。

 しばらく歩き、周りに人の姿がない事を確認したところで、私は呪われた言葉を吐くのを止めた。

「えっと、どこへ行きましょうか?」

 土地勘がないので、私ではここが城の中でもどのあたりに位置しているのかすら分らない。ただ先ほどの場所からはさほど離れてはいないので、ここでしゃべっていたらすぐにアスタに見つけられてしまいそうだ。

「わらわの部屋へ案内しようぞ。手をこちらへ」

 トキワさんに差し出された小さな手を握り返そうとしたところで、私は奇妙なデジャブを覚えた。


 あれ?前にもこんなことがあったような……。


 しかしどのタイミングでこの場面があったのか、さっぱり記憶から出てこない。そもそも、トキワさんとあったのは今日が初めてのようなもの。

「オクト、どうしたんじゃ?」

 もしかしたら、このデジャブは誰か別のヒトと手をつないだ記憶なのかもしれない。

「あ、すみません」

 何も不安になることなんてないのに……何故こんなに引っ掛かり覚えるのだろう。ただどれだけ引っ掛かりを覚えたとしても、私にはこの手をとる以外の選択肢などない。

 そう自分に言い聞かせ、私はトキワさんの手を掴んだ。

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