表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
賢者編
110/144

38-1話  予想外な異世界事情

「混融湖に融けた女神について何か知っていますか?」


 聞きたい事は色々ある。ただ何処から聞けばいいのか分からないので、私は迷った挙句真正面からぶつかる事にした。

 神様は王族としか会ってはいけないという決まりなどがあるので、もしかしたらこういった話を一般人に話すのはタブーかもしれない。でも逆にこの話は話せないと言われたら、混融湖の神話は本当だと思ってもいいだろう。答えが聞けても、聞けなくても、それだけで見えてくるものがある。


「混融湖に融けたって、時の女神の事だよな。俺自身は実際に会った事はないんだけど、何かって具体的に何が知りたいわけ?」

「具体的にと言われると……って、えっ?!時の女神なんですか?」

 無理かなと思っていた所で、まさかの真相発表。あまりに自然でさりげなさ過ぎて私の理解が一瞬遅れた。秘密とかそんな臭い、全くない。

「確か最後に継いだのが女だったから、女神で間違いないはずだけどな」

「えっと、時の女神ということは、時を司っているということですか?」

「そうだけど?だからあの湖の中は違う時間に繋がっているわけだし」

 至極当たり前な顔で答えられて、私の方がびっくりだ。えっ?それ、秘密じゃないの?

 知りたくないわけではないし、むしろ知りたい情報ではあるが、あまりにあっさりと分かり過ぎて拍子抜けしてしまう。


「何だ、知らなかったのか?」

「はい。どの伝承にも載っていなかったもので……」

「まあ結構古い話だからな。別に隠していたわけじゃないけど、聞く奴もいないし」

 なるほど。

 神様は王族としか基本会わない。でもその王族が混融湖に興味を示し、なおかつ混融湖の謎が知りたいと思わない限り、神様もわざわざそのネタを語る事はないのだろう。


「そうですか。あれ?でも、混融湖は異世界にも繋がっているんじゃ?」

「いや?繋がってないだろ。空の神が消えたのは混融湖ができる前だし」

 マジですか?

 混融湖から繋がっているのは別の時間のみ。あれ?だとすると、アユムの例はどうなるんだ?それに私の前世も――。

 それに混融湖に流れ着く数々の物は一体何なのか。違う国又は未来から流れ着いているから、異界の物に見えてしまうのだろうか。なら将来この世界にも携帯電話が普及するという事なのだろうか?クロが住んでいた国のヒトが携帯電話に興味を持ったので、ありえない話ではないが……。

 

「むしろ、なんで異世界に繋がっているなんて思ったんだよ」

「いや。それが常識になっているといいますか。流れ着いた物も異界屋で取り扱うし……」

 コンユウやエストの事があったから少し変だなとは思ってはいたけれど、でもやっぱり、異界屋の物は同じ世界のものとは思い難い。……でもまあ、江戸時代にネコ型ロボットが現れたら驚くだろうし、大きく離れていればありえなくもないか。

「ああ。そうか。確かに同じ世界と表現すると語弊があるかもな」

「語弊?」

「あー、えーっと、世界が違うわけじゃないんだけど……。ああ、そうだ。文明。文明が違うから、ある意味異世界なんだろうな」

「は?」

 文明が違う?

 えーっと、つまりそれは、メソポタミア文明とエジプト文明みたいな感じの地域差という意味なのだろうか。


「ほら、最近オクトが魔力がまったくない子供を引き取ったって、手紙に書いていただろ。ソイツはたぶん俺ら神が生まれるより前の文明の子供だから体の作りが違うんだよ」

「……カンナさんが生まれる前?」

「違う違う。俺というか、今いる全ての神が生まれる前」

「はい?」

 神様が生まれる前って……そんな時間あるの?

 ちょっと待て。つまりどういう事だ?アユムは龍玉ができる前のヒト……いやいや。龍玉がなかったら何処に住んでいたというのか。そもそも文明が違うから体のつくりが違うっておかしくないだろうか。

 ヒトが文明を作るのであって、文明がヒトを作るのではない。


 上手く理解ができず、私は眉をひそめた。

「えーっと。風の神が記憶している時より前の事だから俺も上手く説明できないんだけどさ。元々この世界には魔素もなかったし俺らみたいな神という存在もいなかったんだよ。たぶんその時間帯の子供だから魔力がなくて、魔素の耐性もないわけ」

「魔素がなかった?」

 だったら何で今は魔素があるのか。それに最初はいなかったとしたらいつから神様はいるというのか。

「正確に言えば、地上にはなかっただな。ただし地中深くに魔素は眠っていて、ある震災をきっかけに地上に噴き出したらしい。で、魔素に耐性のないほとんどの生物が死に絶えて一つの文明が終わったんだってさ」

 話がかなり壮大になってきて、私は茫然としてしまう。混融湖の話を聞いていたはずなのに、まさかの人類滅亡説。この話を素直に鵜呑みにできるヒトがいたら、とても単純で純粋なのだろう。生憎と私の頭は常識で凝り固まっているので、上手く理解が追いつかない。


「つまり、魔素が出てきて、神様も生まれた?」

「いや。神が生まれるのはさらにもっと後だな。魔素で死に絶えたと思われたヒトだけど、中に魔素に耐性を持って魔力を作れるようになったヒトが現れた。そいつらが、今のヒトの始祖だな。で、そいつらは魔素のエネルギーに着目して、新しく魔素を使った文明を築いた」

「はあ」

 魔素を使った文明……。今と似ているようで、ちょっと違う。魔素を使った魔法はあるが、その数は魔力を使ったものに比べてずっと少ない。


「ただ今度は魔素を使いすぎて、魔素不足に陥って、再びヒトは死にかけたんだよな。魔素の耐性がある奴らは、魔素がないと生きていけなくなっていたから」

 あっちゃぁ。

 つまり環境破壊で自滅したという事か。

 日本でも環境破壊は結構問題視されていたが、何処の時代でもヒトは同じ事を繰り返しているらしい。

「で、その時に一番発達していた生体魔法科学だったかか何だかよく分からないけれど、そこの研究者が今度は魔素を生み出せるヒトを作りだした。それが俺ら神という存在なわけ」

 えっ?……ええっ?!

 ヒトが神を作った?


 それは私が知っている神話とまったく真逆の発想だ。神がヒトを作ったのではなく、ヒトが神を作った?常識を基盤から崩すような内容に、私は茫然とする。

「マジですか?」

「マジだ。それでここからはちゃんと風の神も記憶してるんだけど、まあこの後も懲りずに何度もヒトは滅びて、神も数を減らして、ようやく今の世界になったんだよな。俺らが王族以外会ってはいけないとか、政治に関わってはいけないっていう制約はこの間の失敗で、できたんだよ」

「へえ……。ならこの世界を龍神が作ったというは――」

「嘘、嘘。あー、でもあの話を作った本人は、こうだったら面白いだろうなと思って作ったファンタジー作家みたいなものだから、別に悪意があるわけじゃないぞ」

 ……まあ、神話ってそうだよね。

 悪意で作るヒトはいないし。でもヒトが生きていたわけでもない、世界が始まる前の話をどうしてヒトが知っているのかと言われれば、空想というか妄想するしかない。だとすればそこに書かれているのは、真実ではなくファンタジーの可能性が大だ。


「まあこんな事、今更記憶しているのは神ぐらいなんだろうけどな」

「そうですね」

 何度も滅んだという記録すら読んだ事がないので、この世界のヒトが記録しているのは、一番新しい今の文明だけなのだろう。色んな技術が消えてしまったというのは残念だが、それでもヒトは生きている。


「それで混融湖で知りたかったのは、時の女神の事なのか?」

「あー」

 衝撃の事実を知ってぽんと抜けてしまったが、私は龍玉の歴史を知りたくてこの話を始めたわけではなかった。

 かと言ってどこからどう話を持っていけばいいのか。私自身に前世の記憶があることは呪いの所為で伝えられない可能性が高い。

「えっと、実は私、時属性を持っていて……なんというか、時属性が知りたいというか……」

 やはりあの湖に入らなければ時属性は身につかないものなのだろうか。


「それなら、俺より時の精霊がいいんじゃないか?あっちの方が、時の女神についても詳しいだろうし」

「時の精霊?……いるんですか?」

 生憎と私は基本属性の精霊としか契約を結んでいなかった。

 確かに時属性というものがあるなら、時の精霊がいてもおかしくはない。しかし一体どこにその精霊はいるのだろう。

 普通は同属性の魔素が多い場所とされるが……そうなると、混融湖の中となる。さすがにそれだと会うのは難しい。


「居るだろ。オクトとも契約しているんだし」

「へ?契約?」

 私はばっと袖をめくり自分の腕に視線を落とした。

 しかしそこにあるのは、火、水、樹、風、地、光、闇の7種だけのように思う。そんな時属性なんて特殊な痣はない。それとも私の痣の見方が違うのだろうか。


「えっと……契約はしていないような気が……」

 私はカンナにも見てもらえるように腕を前に突き出した。もしかしたら、私が精霊と契約したと聞いて、何か勘違いしているのかもしれない。

「いや、腕じゃなくてさ。ここ」

 カンナは少し苦笑いをすると、自分の右目を指差した。まじまじとカンナの顔を見つめてから、自分の右目に手をやった所で、ふと気がついた。


「えっ、これですか?」

「それじゃなかったらどれだって言うんだよ」

 いや、だって。

 私は産まれた時から付き合ってきた顔の痣に手をやる。これが、契約の証?待って、えっ?どういう事?

 意味が分からず混乱する。

「あ、あの。これは、混ぜモノだからあるんじゃ……」

 混ぜモノの顔には痣がある。だから見ただけで混ぜモノだと分かるわけだし。それにこれが契約の証ならば、私は産まれた瞬間に、時の精霊と契約した事になる。でもそんな事可能なのか?

 

「まあ、そう言っても間違いじゃないけどな。でもどちらかというと、それがなければ、混ぜモノは産まれないと言った方が正しいな。混ぜモノは例外なく高い魔力と魔素を持つから、精霊と契約しなければヒトの体の方が壊れる。オクトの顔の痣は時の精霊と風の精霊、それも高位のモノとの契約の証だ」

「はっ?」

 高位の精霊?契約?というか、魔素を持っている?

 意味はわかるけど、理解しがたい単語がぐるぐると頭をめぐる。私はさらなる衝撃の事実に、あんぐりと口をあけたまま固まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ