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偶然か否か

作者: 吉善

お久しぶりです。吉善きちよしです。

今回の作品は「偶然か否か」。

最後までお楽しみください。

 夏休み某日、地方の大学へ入学した友達が久々に帰ってくる事になり、俺は待ち合わせの場所へ行くため最寄りの駅で電車を待っていた時だった。

 駅のホームの白線近くで電車を待っていると、もしもし、そこのお方、と俺は背後から声をかけられた。

 振り返ってみると、そこには明らかに異様な風貌(ふうぼう)のした人物がベンチに座っていた。

 真夏の暑苦しい時期だというのに、ファンタジー小説にでも出てきそうな藍色のローブを身にまとい、黒い布を被せただけの小さな真四角のテーブルに両肘をついている。

 昔マンガか何かで見た事があるような、古典的な占い師を連想させる姿に、俺は少しきょとんとしてしまった。


「あなた、不幸な目に逢いますよ」

「は、はぁ……」


 いきなりそんな事を言われても、どういう反応をすればいいのか分らない。

 いや、それ以前に、こういうキャッチみたいなのには関わらないのが一番いい。

 そう考え、俺はその占い師の誘いを断り、そそくさと立ち去ろうとした。


 ……だが。


「はぁ……。そうですか。止めはしませんけど、あなた、不幸な目に逢いますよ」

 俺の足が、ピタリと止まるのが分った。

 追われれば逃げたくなる反面、逃げられれば追いたくなるというか。

 いや、それ以上に、この占い師の声のトーンには、言葉では表現し難い何か謎めいたものがあった。


「なんだよ。不幸って」


 占い師が、ニコリと笑みを浮かべた。



 そして俺はテーブル越しにある安っぽいパイプ椅子に腰かけ、その占いを受けることになった。

 占い師の名は、サトコ。

 ローブについていたフードをすっぽり被って口元ぐらいしか見えなくしているようだが、二十七、八くらいの女性であるようだ。


「ではさっそく。私が得意な水晶を……」


 そう言うと、サトコという占い師は水晶をなでるような手の動きを始めた。

 占い師曰く、姿を見ればその人の運勢が分るらしいが、詳しくは水晶を使わねば分らないのだという。

 なんだか急に胡散(うさん)臭くなってきたが、椅子に座った手前言いだし辛くなり、しばらくその占い師を観察する事にした。

 ベタな感じで見えます見えます、などと言っている訳ではない。

 だが、何か聞きとれない小さな声でブツブツとしゃべっているのが口の動きで分った。


「出ました」


 手の動きが止まると同時に、占い師はそう言葉を発した。


「……結果は?」


 俺はそう聞いてみたが、占い師はまるで時間が止まったかのように手も口も動きを止めてしまい、結果をすぐには言おうとしなかった。

 数秒そのまま固まった後、占い師は顔をゆっくりと上げた。


「その不幸は何の前触れもなく、突然やってきます。そしてそれに(あらが)うこともかなわず、あなたは災難に見舞われるでしょう」


 占い師は一息で結果を言いきり、俺はそれをただ沈黙したまま最後まで聞いてしまった。

 まだ正直、胡散臭いとは思っている。

 だが、いざ面と向かって言われると真に受けてしまいそうだ。


 お互いに沈黙が続く。

 そんな中、占い師はぼそりとつぶやいた。


「でも、大丈夫」


 思わず、えっ、と言葉が漏れ、俺は占い師の口元しか見えない顔を見た。


「あなたの目の前に救い人が現れ、不幸や災難から遠ざけてくれるでしょう……」

「……救い人?」

「はい……。その人との出会いは偶然であり運命……。災いと向かう道をさえぎってくれるでしょう……」


 …………。


 その言葉が耳に入りきってから十五秒ほど、俺の口は半開きになってしまっていた。

 なんだその……占い結果。

 不幸が起こるハズだったけど……やっぱり何も起こらない……って事か?

 つまり……。不幸なんか起こらないって事なのか……?

 そこら中で人が不幸な目に逢う訳ないし……。



 なんだ。この人、色々と話に聞き入らせといて、結局はほとんど当たる事しか言わないじゃないか。

 要は、単なるペテン師だ。


 その事が分ると、わざわざこうやって向かい合って話しを聞いているのがバカみたいになってきた。

 水晶を使ったあたりからなんかウソっぽかったし。

 もう、けっこうです、と言って俺は席を立とうとした。

 その時だった。


『扉、閉まりまぁす』


 どこかからそんなアナウンスが聞こえ、俺はとっさに後ろを振り向いた。


「電車来てるっ!」


 閉まりかけた扉の隙間に走って入り込もうとする。

 だが、距離が半分にも縮まらないうちに扉は閉まってしまった。


「ちょっと君! 危ないよ!」

「あっ、すいません!」


 白線の手前で止まった俺に、駅員が注意を促す。


 やってしまった……。

 あの占い師の話を聞くのに夢中になり、電車を乗り損ねてしまった。

 なんだよあの占い師。さっそく不幸が起こったじゃねえか。

 それもお前のせいで……!


 怒り半分、やるせなさ半分といった気持ちで、占い師の方を振り向いた。


 さっそく俺に不幸が起こり、占い師はどんな表情をしているのだろう。

 だが俺は、その表情を確認する事が出来なかった。

 それもそのはず、つい先ほどまでいたはずの占い師の姿が、こつ然と消えていたのである。



 ――十五分後。

 俺は座席に腰を降ろすと、はぁ、と大きな溜息を吐いた。

 今座っているは、次に来た電車の座席だ。

 とりあえず次に来た電車に乗って目的地を目指す事にしたのだが、どうもやるせない。

 イライラを発散する相手がいれば、まだいいのだが……。


 あの占い師は、消えていた。

 どこかに逃げたのかと思い辺りを見回し、隠れられそうな柱の陰なども探したがその姿も無く、人が走っていくのをじろじろと見ている様子の人もいない。

 本当に、消えてしまっていたのだ。


 予定よりは遅れたが待ち合わせには何とか間に合う。

 考えても仕方ないため、俺はちょっとした不幸体験だと思って、その事は忘れる事にした。


 もういいや、とっとと待ち合わせ場所に行こう。

 ……それにしてもこの電車、いつになったら動きだすんだろう。

 俺が座ってから一分ほど経っているが、未だに扉が閉まってすらいない。

 他の乗客を見てみたが、普段よりものんびりと降車しているように見えるぐらいで、それ以外は何の変哲もない。


 あれ、でもなんでこの人達、皆ゆっくり降りてくんだ?

 扉が閉まるかもしれないのに。


 そんな事を考えながら俺が他の乗客を見ていると、向かいの座席に座っていたギャル風の格好をした女性二人が目に入った。

 なにやら、携帯電話のテレビを二人で見ているようだ。

 マナーの悪い奴らだなぁ、と思いながら俺はその二人から目を逸らしていた。

 そして次の瞬間、二人の口から発せられた言葉に、俺は耳を疑った。


 ――この電車ってさ、これの一つ前のやつだよね!

 ――うん絶対そう! こわーい。


 ……ええっ?


 慌てて俺も携帯電話を開いた。

 テレビではどのチャンネルでも臨時ニュースが流れており、キャスターが情報を読み上げ続けていた。

 俺が本来乗るハズだった電車が、横転している映像と共に……。



 これは後に知った事なのだが、俺が乗った電車は次の駅へ向かう途中に脱線事故を起こし、重軽傷者多数の事故を引き起こしていた。

 死者が出なかったのが、不幸中の幸いだった。


 俺の身に降りかかるハズだった脱線事故。

 その電車に乗ろうとしていた俺を引き留めた、占い師。

 そして、災いと向かう道をさえぎる、は電車の扉が閉まるという意味だとしたら……。


 あの占い師は、見事に未来を的中させた事になる。



 口から出まかせが的中しただけの偶然。

 単なる偶然だったのか。

 それとも、本当に未来が見えたのか。

 それを知る(すべ)は、俺には無い。


改めまして、吉善きちよしです。

なんやかんやで一周年。

これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。

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