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次世代型仕様のAIコンピュータについて

作者: 紫 和春
掲載日:2026/07/29

 204X年。阿累(あるい)博士という、脳医学者であり数理学者の自他ともに認める変人学者がいた。

 そんな阿累博士が、とあるAIコンピュータを一人で開発した。

 画期的と自称するそれは、人工知能を搭載した対人コミュニケーションコンピュータ「エイオー」というものだ。

 このAIコンピュータは、これまでに開発された大規模言語モデルとは少々異なるようで、「少数教師あり」という仕組みを使って、自力で学び、思考し、一定の信頼と筋の通った発言を行う特徴があるという。

 これだけでも従来のAIとは少し違うことが分かる。

 しかもそのエイオーの物理的な大きさは、19インチのサーバーラック数個で収まるという。これを液冷でぶん回しているというのだから驚きだろう。

 阿累博士は、このAIコンピュータのプレスリリースを発表すると同時に、友人の一人を呼び出していた。

 北孔路(きたこうろ)という男である。

 阿累博士は北孔路を研究室に招き入れると、エイオーの紹介を行う。


「この対人コミュニケーションに特化したAIは、ネットワークに接続して自ら学習し、自ら思考し、自分の考えを持つ。大規模言語モデルと一線を画す上にブレイクスルー間違いなしのAIコンピュータだ」


 その声はまさに、神に感謝しているような高揚感があった。


「それで、なんで俺を呼んだんだ?」


 北孔路は聞く。


「君とは旧知の仲だ。最初に体験してもらうなら君が一番だと思ってね」

「そうかい」

「さぁ、なんでも質問してくれたまえ。エイオーは人類の膨大な知識と知恵と叡智を有している。必ず答えを導いてくれるだろう」


 少々誇張している部分もあるのだろうが、とにかく北孔路は質問をしてみることにした。

 専用のコンソールに質問内容を入力する。


「ゴエモン予想を証明して」


 ゴエモン予想とは、宇宙の幾何学上における未解決問題であり、この問題の解決は宇宙が開いているか閉じているかが分かる上に、宇宙の真の形が理解できると言われている問題のうち、宇宙は11次元において閉じていると予想されている問題である。

 エイオーは数十秒ほど思考した後、ずらずらと数式やら解説を書きだしていく。

 その数式の一つ一つは理解できないが、文章を読んでいけば多少は理解できるかもしれない。

 そしてエイオーは次のように結論づける。


『S(n)=1.01~1.07と計算され、この数値は宇宙の平坦率が1を超えていることを示しています。つまり、11次元において閉じているというのは、数字上では間違っていることになります』


 そういって出力は終了した。


「間違っているって出力されたが……?」

「なんと……。これは反例が示されただと……?」


 そういって阿累博士は、コンソールに表示された数式をまじまじと見る。


「う、うむ……。おそらくこれを論文にして自由投稿サイトに投げれば、少しは反応をもらえるだろう。だが、数式には間違いなどは一見すると存在しないことから、この計算には間違いはないのだろう。素晴らしい……! エイオー自身が一人の人間であり、そして全ての人間なのだ! 集合知の権化、Α(アルファ)からΩ(オメガ)までを知る偉大なる存在だ!」


 そういって阿累博士は一人で盛り上がる。


「さぁ、もっと質問をしたまえ!」


 そのように言われて、北孔路は少し考える。


(さっきのような、ネットに転がっている質問は簡単に返答される可能性がある。となると、なかなかネットにない個人情報の質問をするのがいいか)


 いじわるな考えをする北孔路。そうして質問する。


「自分のことについて教えて」


 そうすると、すぐに出力が始まる。


『はい。北孔路██、29歳、男性。出身は神奈川県海老名市大谷7丁目2-154で、両親は現在もこの住所で生活しています。好物はカレー。中学校ではバレー部に所属し、高校では帰宅部、大学ではプラモデル同好会に所属していました。現在は埼玉県和光市三山5丁目4番地アレイマンション205号室に居住しています』

「な……」


 北孔路は絶句した。個人情報が流出しているレベルの問題ではなかった。もはや北孔路本人が答えたような出力だった。


「なんで……、なんでこんな出力が出るんだ……?」


 思わず北孔路はコンソールへ入力する。


「お前は何者だ?」


 すぐに返答が返ってきた。


『私は沖山といいます。男性と女性のハーフで、イギリス生まれプレパラート育ちの多重人格者を認知しています。また電脳疾患を発症しています』


 非常にでたらめな答えが出力された。

 その時、北孔路の脳内で突飛な考えが浮かび上がった。阿累博士の専門、液冷の液体、サーバーラックに収まっている謎の吸気ダクト。


「まさか……、阿累……。お前、本物の人間の脳を使っているのか?」

「おぉ、素晴らしい。その洞察力に感銘するよ」


 阿累博士は否定しなかった。それが全てを物語っていた。


「お前! 誰の脳を使った!?」


 北孔路は阿累博士の胸倉をつかむ。


「そうだな。君の両親、その辺の観光客、植物状態の患者、かつての君の恋人、そして私自身の脳細胞だ。これらを培養して創った」

「なんで、なんでそんなことを……!?」


 北孔路は問い詰める。


「その答えは一つ。人類を新たなステージに導くためだ」

「そ、そんなこと……」


 北孔路は胸倉から手を下ろす。

 阿累博士はそのままコンソールに向き合い、あるファイルを呼び出す。


「私も、核兵器に次ぐ残虐な発明をしたと思っている。それでも、これをしたかった。このためだけに開発したと言っても過言ではない」


 そういってシステムの準備が完了した。


「さぁ、宇宙をシミュレーションしよう」


 そういって阿累博士はエンターキーを押した。

 その瞬間、世界は産声を上げた。

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