嫌いだったあなたへ
完結ー!
二年生の冬。
あれから色々あった。けど何故かまだガタは来ていない。喜ぶべきなのか、わからないけど。後一年もない。省長は間に合うと言っていたけど……それで安心はできない。最近、アンナの魔力が増え始めてる気がする。
神様、私は…
答えのない問いを虚空に投げ、祈るふりをして溜息を吐く。そんな均衡が、数日後、最悪な形で崩れ去った。
「…ルア、私、スラムのあの人たち助けたい。かわいそうだよ…あんなに小さな子が飢えて苦しんでるの」
華やかなサロンのソファに身を沈め、アンナがそんな夢物語を紡ぎ出した。彼女の視線は、自分が信じる未来を見ているかのようだ。
「アンナ、あのようなスラムにいるものは、何かしらの罪を犯し、裁かれた者です。あそこにいるものは日々を生きるため、盗みを犯しています。彼らは犯罪者ですよ」
私は目の前で潤むアメジストの瞳を見ながら、そう言った。これはこの国の貴族にとって当然の常識である。
「ルアっ!!!なんで?可哀想じゃん!たった一度の罪で!助けられる人を助けようともしないなんて、ルアには力があるのに!ひどいよ!!」
「………は?」
こいつ今なんて?なんて言った?いや一旦落ち着け、冷静に
「……重罪を犯してあそこにいるものもいますよ。それに力があると言うのなら、アンナだってそうでしょう?私よりあるではないですか」
「無理だよ、お父様は汚らわしいって、取り合ってくれないし…でもルアならできるよね?だk」
私の中で何かが切れ、言い終わる前に、私の右手が勝手に動いていた。
バシンッ!
乾いた音がサロンに響き、アンナの顔が横に飛ぶ。 菖蒲色の髪が乱れ、彼女は信じられないものを見るような目で私を見上げた。
「ふ ざ け る な っ!!世界に、大人に、神に、守られて、世界を知らないお前が!使用人に命じるだけで、自分では何も出来ないお前の!我が儘のせいで世界が悲鳴をあげて、私は死にかけて」
震える声で問い返す彼女を見下ろしながら、私は吐き出すように言葉を叩きつけた。
「何?なんで、どう言うこと」
「あぁそうだよね、知らないよね。教えてあげる。」
優しいような、けど温もりはない声色になる。
「お前は神々に愛されている。いや愛されすぎた。」
「神々の寵愛が一点に集まって仕舞えば、世界の均衡は崩れる。お前が何かをしたいと願うたび、神々が願いを叶えようとする。お前が誰かを嫌いだと思えばそいつは、世界から消える。」
「そんな状況を危惧した知恵神と樹木神が愛を奪い、均衡を維持する存在を作り出した。それが私。つまりお前の生贄。」
縋るような視線を一蹴し、私は冷酷な真実を暴き立てた。
「そん、そんな、嘘でしょ?私、そんなこと知らない」
「一番近くにいる人間がお前が原因で苦しんでいるのに、関係の無い犯罪者を救いたいだとか、戯言も大概にしてよ。誰かを救いたいとか願う前に魔力を制御する術を早く身につけてよ『難し〜ぃい』じゃねぇんだよ!お前が少し頑張るだけで、目の前にいる人間を救えるかもしれないのに!」
「温室でぬくぬく育って、たいした努力もしないで!魔力制御なんて子供でもできるのに!それに、あのスラムの住民の中には、お前が作った物のせいで職を失い罪を犯した人間もいる!お前のせいで!」
「ごめんなさ、ごめ、ご、ごめ、なさ」
「謝る時間があるなら、努力してください」
サロンの扉を乱暴に開け、私は外へ出た。冷たいサロンの中には、ロリアンナの嗚咽だけが響いて、消えていった。私は、ずっとロリアンナに「魔力制御を身につけて」と言っていた。
あれから一ヶ月が経つ。 レドラント様とは、学園でも社交の場でも、一度として顔を合わせていない。
けれど、不思議な変化があった。私の体内に絶え間なく流れ込み、焼き尽くそうとしていた彼女の魔力が、少しずつ、だが確実にその勢いを弱め、減り始めているのだ。
ロリアンナは変わった。 「難しい」と笑って逃げていた魔力制御の訓練に狂ったように打ち込み、血の滲むような努力の末に、溢れ出していた神々の寵愛を自らの内側に封じ込める術を身につけた。
十八歳の誕生日を迎える前夜。学園の裏庭にある大樹の下で、彼女はルアフィナを呼び出した。
「……ルア。本当に、今まで逃げていてごめんなさい」
深く、深く頭を下げた彼女の声は震えていました。
「ずっとわかったいたの。貴女が苦しんでいることも、私が誰かの人生を壊していたことも、全部……気づきたくなくて、目を逸らしていたの。ずっとあなたの中に私の魔力が見えていたのに。貴女を『生贄』にしていたのは、神様じゃなくて、私の甘えだった」
アメジストの瞳から零れ落ちる涙。しかし、その瞳には以前のような空虚な輝きではなく、一人の人間としての強い意志が宿っていた。
「…」
私は何も答えませんでした。
そして、運命の十八歳の誕生日。 卒業を間近に控えた春の陽光が、学園の礼拝堂を白く照らしていました。
魔法省の面々や、青い顔をした両親、シリウス様たちが見守る中、私とロリアンナは祭壇の前で対峙しました。
ロリアンナは、かつての幼馴染としての甘えを捨て、一人の「巫女」として、そして「友人」として、私を見ました。
ロリアンナは祭壇に手を触れ、天へと視線を上げました。 彼女の背後で、神々の寵愛が可視化されたかのような、圧倒的な黄金の光が膨れ上がります。本来なら、私を焼き尽くし、世界を歪めたはずの「愛」の奔流。
しかし、彼女はその光を拒絶するように、凛とした声で紡ぎました。
「神様方。私は、皆様に愛されて、本当に幸せなんです。……だけど」
光の中に、神々の意思が困惑したように揺れます。
「貴女様たちが私を愛しすぎるほど、私の大切な世界は壊れてしまう。貴女様たちが私を過剰に愛すれば愛するほど、私は……貴女様たちのことが、大嫌いになってしまいます」
その宣言は、神に対する最大級の拒絶でした。 神々は愛する者に嫌われることを恐れ、波打つ黄金の光は、見る間に収束していきます。彼女が自らの意志で神の寵愛を「拒絶」したことで、世界を繋ぎ止めていた不自然な因果が解けていくのがわかりました。
「一方的な愛ではなく、私を守る愛にしてください」
私は自分の心の中の重荷がようやく降ろせたような、長い夜が明けたような感覚になりました。
「終わりました」
そう言うとアンナはこちらを向き、まっすぐにこちらを見て、少し躊躇った後、口を開いた。
「ルア、ルアフィナ、さん、改めてお願いがあります。私とまたお友達に、幼馴染になってください」
私は最初、目を見ずに話し始めた。
「レドラント様、いえ、アンナ。ずっとあなたが嫌いでした。でもそれは、嫌いというより、怒り、悲しみ、虚しさ、アンナにぶつけたくて、言葉にできない感情を、「嫌い」とまとめて。まだあなをにまっすぐに見れないけど、今は嫌いだけじゃなくて、他の感情もあるんです。だから、」
そこで、話をやめ、今度はしっかりアンナを見て言う。
「今度は等身大の私たちで、幼馴染に」
「っ__うんっ!」
これは光の巫女と生贄になるはずだった少女たちの物語。
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