一章 1-6 大切なのは命?金?
宮前についてダンジョンの奥に進み戦闘することもなく第2階層に足を踏み入れたところで彼女から声がかかった。
「予想していたよりほかの講習生がいないようだからこの先はモンスターとの戦闘が多くなると思うわ。今のうちにノルマを達成してしまいましょう」
「了解で~す」「わかった」
俺たちの返答に満足したのかわずかに口元が上がった彼女は「好きなように散策してみて」と言って俺たちの後に下がった。
「それじゃあさっさと終わらせて、打ち上げしようぜ~」
いつもと変わらぬ緊張感の欠片もない裕太のセリフに苦笑しながらも言っていることには賛成するので、さっそく第二階層の散策をはじめた。
第2階層は第1階層と変わらず岩壁の洞窟なのだが少しだけ通路の幅が広くなっているようで、二人並んで槍を振り回しても問題ないようで、第一階層よりも戦闘が楽になりそうな感じがした。
「さっそくお出ましのようだ」
毎度ながら本気になった時の裕太の変貌ぶりに苦笑しそうになるが、奥から聞こえてくるタッタッタッタという複数の足音に気を引き締める。先ほどのようなミスは致命傷に直結する。同じミスはしてはいけないのだ。
「またジャイアントラットが三匹か。今度は俺が二匹やる。また分断を頼めるか?」
「任せとけ!」
頼もしいセリフをうけ、背にしていた槍を抜くのと同時に、ジャイアントラット達の間に水柱が立ち2:1に分断される。裕太に心の中でナイス!と投げかけながら、動きの止まったジャイアントラットに水平に振るった穂先をおみまいする。
目測を誤ったのか、柄の部分が当ってしまったが、ジャイアントラットが吹っ飛び壁にぶつかったのでもう一匹に標的を切り替え槍を振るうと、回避しようと後方に飛び跳ねたジャイアントラットの前脚を二本とも切り飛ばした。
(よし!これで実質残り一匹だ)
前脚をなくしたジャイアントラットは後でも処理できる。先に壁に吹き飛んだヤツからだと身体を翻すと、ジャイアントラットがヨロヨロと立ち上がったところだった。どうやら当たり所がよく、前脚の骨に異常がでたようで、地面に着いては離しを繰り返している。
そんあ大きい隙を逃してなるものかと、力強く踏み込んだ俺はヤクザキックよろしく、思いっきり前蹴りを喰らわせ、再び壁にぶつかりずり落ちたジャイアントラットに、素早く穂先を突き入れた。
ギャ!っと短く鳴いた後、塵となって消えゆくのを見届けることなく、放置したジャイアントラットに駆け寄ると、ギュッギュ!っと地を這いずり回るのを足で押さえつけると、苦しまないよう頭を突き刺しトドメをさす。
少し気が入りすぎ目測を誤るミスをしてしまったが、概ね思い通りにいった戦闘に胸をなでおろすように息を吐き、裕太の様子を窺えば、すでに戦闘は終わっており、何かを拾っているところだった。
「なんかきれいな石みたいなのが落ちてたんだけど、これって魔塊ってやつかな~?」
「そうよ。モンスターのドロップの半分がその魔塊で、第5階層までのモンスターの約6割がドロップするわ。その大きさだとたしか5,000円ほどだったはずよ」
「マジで!?やったぜ~!これで一週間は乗り切れる~!」
喜ぶ裕太を見ながらあんな豆粒ほどの石が5,000円もすることに驚いた俺は、自分が倒したジャイアントラットもドロップしていないか確認すると、一匹目にトドメを刺した方の地面にキラッと光るものを発見し、喜び勇んで駆け寄ると、光ったものを拾い上げる。
「あ~、残念だけどそれはジャイアントラットの歯ね。買取価格は確か200円だったかしら?」
裕太は5000円で俺は200円…。なんてツイてないんだ…。