一章 1-5 大切なのは命?金?
「先手必勝!」
裕太の声と共にボッっと音がなり、ダンジョンの床に水柱が線を引きジャイアントラットを分断した。
「グハッ!」
スキルの使用を禁止されているのに、躊躇う事なくスキルを使った裕太に驚き、ジャイアントラットから目を離してしまった事により、腹部に体当たりをくらってしまた俺は、痛みと衝撃でタタラを踏むが、なんとか体勢を立て直すとバックステップでジャイアントラットから距離を取ると、槍を構え直し大きく息を吐いた。
(落ち着け!耐えられない痛みじゃない!)
キシャーっと威嚇するジャイアントラットに気圧されないように気合いを入れて腰を落とす。
「かかってこい!」
言葉を理解しているのかわからないが、俺の言葉を合図に威嚇していたジャイアントラットが大きく口を開け飛びかかってきた。
(それは悪手だ!)
慣れない槍で突き刺すなんて事はせずに、半円を描くように石突をかち上げると、狙い通りジャイアントラットの顎を捉え、吹っ飛ばした。
鈍い音を立て2メートル程吹っ飛んだジャイアントラットを追いかけ、すぐに穂先を突き刺すとギャギャっという断末魔を残して、ジャイアントラットは黒い塵となり消えていった。
(くそっ!嫌な感触だ…)
手に残る肉を裂く感触と、ドッドッドと心臓の音が耳に響く。モンスターとはいえ初めて生き物を殺した事実に揺らぐ感情を抑えようと、深く息を吐いた。
「良くやった。はじめてにしては上出来だったな。あっちもそろそろ終わるみたいだぞ」
宮前の言葉で裕太がまだ戦っていたことを思い出し様子を窺うと、二匹めを仕留めて塵に返したところだった。
「あれ~?テルの方が先に終わってたか~。やっぱりいきなり二匹を相手にするのは大変だったよ~」
手にしていてた槍を背に収めながら軽い口調で戻ってきた裕太は、宮前に向き合うと勢いよく頭を下げた。
「勝手にスキルを使ってスイマセンでした」
「いや、いい判断だったわ。そもそもスキルを使わせないと言ったのは、スキルに頼り切った戦闘になるのをさせないためだったからで、貴方は敵を分断したときだけしか使ってなかったし、あの時分断したのはいい判断だった。貴方は大丈夫だったかもしれないけど、お友達はそうでもなかったみたいだし…」
彼女の言葉に頭を上げた裕太は褒められたことに少し照れくさそうにしているが、俺は肩身が狭い…。上手くいったとはいいがたいうえに、命のやりとりをしている時に相手から目を離すミスをしてしまった。
「その様子なら私がアドバイスする必要はないみたいね。二人とも改善点はあるけれど初めての戦闘にしては上出来よ。後は反省点を生かして残りのノルマを狩っていくように」
俺の方を見てから頷き、俺たちに向かって人差し指を立てそう言った彼女は奥に向かって歩き出した。
裕太と顔を見合わせ頷き合うと、俺たちは彼女を追って歩を進めた。