一章 1-2 大切なのは命?金?
講習会場の端に並んだ武具から、動き易そうな革鎧とバックラー、自身の身長ほどの槍を身につけた俺は、同じ様な格好になった裕太にこの後の行動について尋ねようとした時、一人の女性が声をかけてきた。
「準備はよさそうね。私は貴方達の担当官の宮前花蓮、三ツ星のB級よ」
まだ、10代と思われる彼女が、すで三ツ星だというのに驚くとともに、ちゃんと1グループに一人か二人の担当がつくことに安堵した。
(流石に初心者達だけで入ダンはさせないよな!)
「俺は、三笘輝真。こっちは間中裕太で、二人とも21で貴女よりも歳上になるだろうけど、敬語なんかは使わなくてもいいですよ。こちらは、教えを乞う立場ですから」
「そうそう!堅苦しいのはなしにしよ〜よ」
「いや!お前は敬語くらい使えよ!」
「へぇ。私が年下だって嫌味をいわないのね。貴方みたいな礼儀正しい大人は好ましいわ。そっちの貴方はぬけてそうだけど、私を馬鹿にしてる様子はないし。今回は当たりな方ね」
(あぁ、今までは年下だからってだけで嫌な思いをしてきたのか…)
彼女の言葉に、馬鹿馬鹿しさがこみ上げてくる。これからダンジョンに潜ろうって初心者が、自分よりも格上な上に経験豊富な人物を、さも格下の様に振舞ったらしたのだろう。俺からすれば、そんなヤツらはただの馬鹿か死にたがりだ。そんなヤツらのせいで俺達やこれからダンジョンに挑もうっていう後輩?達の待遇が悪くなるのは我慢ならん。
「なぁ?オレってそんなにマヌケそうに見えるの?」
「いや、マヌケっていうか、呑気そうにみえるんじゃないか?」
「あれ!?オレ、ディスられてる?」
「ディスってなんかねぇよ。いつも明るいのが裕太のいい所だって」
「そ、そお?」
「仲が良いのはわかったけど、そろそろ行かないと今日中に終わらないわよ」
彼女の言葉に周りを見れば、会場には俺たち以外誰も残っていなかった。
「今日中に終わらないってどういうことかな?」
「ちゃんと話を聞いてなかったの?実習では、スキル・ステータスの確認とモンスターを各人5体の討伐をしないと帰れないのよ」
「あ〜、そういえばテル、講義の後半なんか上の空って感じだったからな〜」
「はぁ〜。外にいる時はかまわないけれど、中に入ったら気を抜かないようにして。じゃないと怪我だけじゃ済まないわよ」
「あ、あぁ。気を引き締めていくよ」
「それじゃあ、行くわよ」
彼女の号令に頷き返し、俺たちは会場奥にある巨大な扉を通り抜けると、周囲を十メートルを越える巨壁に囲まれたサッカーグラウンド程の広場へと出た。更に奥にダンジョンへと続く頑強な扉があり、次々と入っていくハンター達の姿があった。
「ダンジョンに入る前に言っておくけど、余程のことがない限り、私は貴方たちを助けたりしないから。アドバイスはするけれど、ダンジョンでは全ての行動が自身の責任というのがハンターのルールだから自分達で考えて行動する事。わかった?」
「わかった」「了解だよ〜」
俺たちの返事に頷いた彼女は、慣れた足どりでダンジョンへと入って行った。すぐ後に俺たちもダンジョンの扉を潜り抜けた。