一章 1-1 大切なのは命?金?
待ち合わせに30分も早く着いた俺は、スマホでダンジョンについて調べていた。義務教育で教えられる事以外に知っている事は、一般的な事だけでありそれほど詳しい訳ではない。
「へぇー。ハンターってのは儲かる仕事なんだな」
初めに目についたのは、ハンターと呼ばれる職業が儲かるという事だった。特に〈一星〉と呼ばれるハンター達の推定収入は億を一日で稼ぐ事もあるとの記事が印象的だった。
「お待たせ〜!いつもと同じで早いじゃん」
そう言う間半も待ち合わせの10分前に着いている。
「裕太だって早いだろ」
「まぁ、日本人の国民性だろうね。外国人が多くなったとはいえ、時間には正確なのが日本人の良い所ってね!」
世界中に現れたダンジョンの内、1割程が日本にあるために、出稼ぎの外国人が増えたらしい。政府の発表によれば、総人口の約2割が外国人とのことだ。おかげでダンジョン大国と呼ばれる程の好景気が訪れたと言われているが、俺には関係ない事だ。
「そんな事より、講習受けに行くぞ」
「なんだよ〜、やる気十分じゃん」
「当たり前だろ?生活がかかってるからな」
「よしっ!じゃあしゅっぱ〜つ!!」
意気込む裕太の後を着いて行くこと5分。到着したのは、ハンターズギルド日佐奈支部だった。
「予想はしてたけど、やっぱり協会で講習するんだな」
重苦しい金属製の扉を潜り中に入れば、雑多な喧騒が溢れるホールに様々な武装を身に纒うハンター達の姿があり、奥には各種受付が並んでいた。
「初めてギルドに入ったけど、なんかすげぇな…」
「これからオレ達もハンターになるんだから、慣れないとね〜」
「そ、そうだな」
気を取り直し、受付を済ませると、講習会場に向かいながら、俺達と同じように会場に向かう人達に目を向ける。まだ、高校生らしき集団も居れば、切羽詰まったような表情をした中年男性やら、遊びにでも来たかのような呑気な雰囲気の大学生らしき男女のグループやら、かなり多様な人達が今回の講習を受けるようだった。
俺達には関係ないだろうと、会場に用意されたパイプ椅子に座ったところで、軽鎧を身につけた四十代ほどの男性が入場してきた。顔には額から頬にかけて一筋の傷跡があり、軽鎧を纏っていてまわかる筋肉、そして身に纒う剣呑なオーラのようなものが、その男性が熟練のハンターである事を物語っていた。
「あー、時間になったので、講習を始めるぞ。現時点でこの場に居ない者は、今回のハンター講習は不合格として処理する。また、この場にいる者達は現時点でハンターとして登録されるので承知するように」
講師の発言に会場からざわめきがあがるが、ハンターの現状を知っている者達ならそれほど驚くようなことではないはずだと、ここに来る前にハンターについて調べていた俺は少し呆れた。
一人前と呼ばれる三ツ星ハンターやその上の二ツ星、一ツ星のハンターは、ここ数年減って居ないが、四ツ星や五ツ星と呼ばれるハンター達は減少しているらしいからだ。
「あー、混乱するのはわかるが、政府の方針なので苦情は受付けない。そもそもハンターになりに来た諸君らが、ハンターとして登録されることに安堵する事はあれ、反対もしくは拒否するというのは筋が違うんじゃないか?」
講師の言葉に会場のざわめきが収まる。まだ納得して居ないような顔の者達もいるようだが…。
「えー、ダンジョンについては義務教育で習っているだろうが、少しおさらいと、補足をしよう。ダンジョンにはモンスターと呼ばれる怪物がそこら中に跋扈している。俺達ハンターはそのモンスターを狩り、魔塊や素材を回収する事を生業にしているのは知っているだろう。またダンジョン内には稀に宝箱と呼ばれるアイテムの入った箱が出現する。最近では、宝箱から〈ゴルディアルシュ〉という魔剣が回収され日本円で127億円の値がついたのは知っているだろう。ダンジョンで手に入れたものは、全て入手した者の物なので、一攫千金を狙うなら、宝くじよりも確率は高いだろうというのが、ワタシの見解だ」
あぁ、コイツは喰えないヤツだと俺は思った。
ニュースで派手に放送された魔剣の話しを出せば、少なからず金に目が眩むのが人間の性だ。現に先ほどまで納得していなかったような者達の目が¥マークに変わっているように見える。
「これから諸君には、ダンジョンに入ってもらうが、知っての通り、ダンジョンに初めて入ると"天の声"と呼ばれるものが脳内に響くようになり、また〈ステータス〉が確認できるようになる。初入ダン時には、必ず一つ〈スキル〉が生えるが、これはダンジョンの宝箱やモンスターのドロップから入手される〈スキルオーブ〉でも覚えられる。初期のスキルが、どっかの馬鹿どもがハズレなんて評価しているスキルであっても、腐らずやっていればチャンスはやってくるので、諦めずに頑張ってほしい」
講師の話が進めば進むほど、俺は不安とも焦りともつかない気持ちになってきた。ここまで射倖心を煽る講師の姿に裏を感じるのは、俺が捻くれているからだろうか?
「長々と話してしまったが、これから実習のため、ダンジョンに入るので、各員、ギルド支給の武器、防具を受け取り、先輩ハンターの指示に従って行動するように」
悶々とした思考に耽っていた為に、いつの間にか講義が終わり実習に入ることになってしまっていた。