プロローグ
あぁ、憂鬱だ…。
お祈りメールが届くのはこれで三十を超えた。
科学の発達したこの世界で、ファンタジーの代名詞といえる【ダンジョン】が発生してから三十年。世界中を覆った恐怖と不安が、期待と希望に変わって二十数年。新たなジャンルのあらゆる職業が増え、好景気に沸くこの時代に、就職氷河期と言われていた頃の大学生のような状態になってしまっている俺は、重い足を引きずるように帰宅していた。
「このままじゃヤバい…」
軽くなってしまった財布を開き、ため息を吐く。
電子マネーと合わせても、所持金が一万を切ってしまった。
大学生活を遊び回ったツケが今になって回ってきてしまった。
あの時、もっと就活を頑張っていれば…。〈後悔先に立たず〉という諺が頭の中で繰り返しながれる。
チャリリリ〜リ〜リ〜
「うるせーな!誰だよこんな時に!」
かかってきた電話に、理不尽な悪態を吐きながら、スマホの画面を見れば、俺と同じく就職氷河期の親友である、間半裕太だった。
「はい。こちら三笘」
「あ、テル〜?このあいだの結果どうだった?」
いつもなら、呑気な親友の声が、落ちていた気分を和らげてくれるが、今回ばかりはそうならなかった。
「惨敗だよこのヤロー!!」
当たるのは違うと分かっているが、どうしても強くなる言葉に自己嫌悪しながらも、抑えられないイライラに歯を食い縛る。
「そっかそっか。なら明日俺と一緒に講習でも受けにいかね?」
「はぁ?講習ってなんのだよ!つーか、講習代なんてねぇよ!こちとらあと2週間一万で乗り切らなきゃいけねぇんだぞ!」
「ちっちっち!金欠なのは知ってるさ!俺なんか五千しかないからな!そんな俺たちにピッタリな講習って言えば、アレしかないだろ?」
「アレってなんだよ!」
「なんだよ。わかんない?アレといったらアレ!ハ・ン・ター講習だよ」
(は?何言ってんだコイツは?)
「ハンターって、ダンジョンに入ってモンスターと殺し合うあのハンターの事か?」
「そうそう!調べてみたら講習には金がかからないし、実習で入るダンジョンで手に入ったアイテムなんかは自分たちのものなんだってさ!」
「えっ?それってマジ?」
「大マジも大マジ!上手くやれば、実習受けて、そのあと換金すれば次の給料まで凌げるんじゃね?と思ってんだけどさ」
「待ち合わせは、明日の何時に何処だ?」
「おっ?乗り気になってくれたか〜。じゃあ明日、8時に日佐奈駅の東口に集合な!」
「わかった。日佐奈駅の東口だな!遅れるなよ!」
「はいは〜い。じゃ、また明日〜」
切れたスマホをポケットに仕舞うと、思わず拳を握って「ヨシッ!」と口に出してしまった。すぐに気付いて辺りを見渡せば、変な人を見たかのように女子高生達が顔を逸らし足早に去っていく。
(うわっ、恥ずい〜!!!!!)
頬が一気に熱くなるのを感じながらも、明日への希望に俺は、若干軽くなった足で家へと向かった。