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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

召喚勇者が魔王を討ったその後

私は魔術師アナスタシア。二ヶ月ほど前に王宮が召喚した勇者コウキと共に魔王を討伐した。


苦難も多かったが、仲間と、正義感に溢れ──昆虫に臆病過ぎるのを除けば── 勇敢な勇者との旅路は良い思い出だ。


王都に帰還した私たちは賞賛を浴び、祝祭の主に飲食を楽しんだ。乾燥肉には飽き飽きしていたので、当時は報酬金など目に入らないくらいだった。


食べ過ぎたコウキを路傍の隅で介抱したのが懐かしいな。


異変が起き始めたのはそれから一ヶ月ほど経った頃だ。正確には、魔王を倒した時から始まっていたのだが。


魔王を討てば、世界は平和になる。何故か。


全ての魔物の力の起源は魔王にあるからだ。


実際、魔王を倒した次の週には北の山脈から竜の咆哮が聞こえることも、市民が森に出ても魔物に襲われることもなくなった。


そんなある日、料理の途中、指を切ってしまったので、治癒魔法をかけた。


しかし、傷が治りきらなかった。旅をしていた頃の半分くらいの効き目しかなかったのだ。


当時は体調が悪いのだろうと思っていたが、すぐに原因が判明した。


数日後、国の研究者が発表したのは、普通の植物や動物に含まれる魔力量が激減しているということだった。


魔物の絶滅。それは、普通の生物が魔力を得る栄養源の消滅でもあったのだ。


当然、王国はこれを予期していたようで、人体や農作物に害はないこと、そして、魔術で生計を立てていた者には手当と、望むなら別の研究職が与えられることが宣言された。


王都で魔術が使える人間は人口の1%にも満たず、それを専業にしている者となると数えられる程であり、当面の問題はないと思われた。


しかし、それからすぐ後のことだ。


多くの農家から虫害の報告があり、魔術と共に生物に親しんでいた私は研究者として出向き、その惨状を目にした。


どの畑も、ほとんど全滅していた。農家に尋ねても、これほどの虫害は経験したことがないと言っていた。


葉に大量に止まっていた大きな赤い複眼をもつ、腹の黄色い、二枚羽の昆虫とその卵らしきものを採取し、図鑑と見比べるが、どれとも特徴が合致しない。


その後、王国の研究室を訪ねると、研究者達はみな混乱していた。王国で急激に蔓延した病や、病の対処に用いられる大陸で最も一般的な薬草である太陽草が激減していることなどへの対処に追われていた。


病の病原体や私が採取した昆虫は、やはり、どの生物学者も見たことがなかった。その後、それらは新種であると断定された。


そして、老研究者が起源は異世界にあるのではないかと言った。

それを否定する論拠は存在しなかった。


つまり、勇者召喚や、その実験により、勇者コウキのいた異世界の生物が誤って流入していたという王国にとって致命的な事実が顕になってしまったのだ。


魔力を利用した動植物の抵抗力により、これまで気付かれることがなかったが、生物に魔力が失われつつある現在、燻っていた『魔力のない世界で進化した生物』が支配権を握ったということだろう。


もはや、隠蔽することもできない。


食材の高騰や異世界病により、国民の不満が募る中、王は演説を行なった。


「勇者が魔王を倒したことで、生物の魔力が薄れ、病虫への抵抗力が落ちた。そこで、勇者が異世界より呼び寄せた病虫が活性化し、今の事態になったのだ」


王は魔王へ宣戦布告した時のように、堂々と締め括った。


「全ての原因は勇者にある」


詭弁だった。

だが、疲弊した国民には、これまでの魔王のような、分かりやすい敵が必要だった。


力で勝てないから、と国民は日々コウキに誹謗中傷を繰り返し、コウキは精神を病んでしまった。


今、私はコウキと人里離れた小屋で暮らしている。


実は、私も異世界病に罹っているが、秘密にしている。コウキには免疫があるだろうし、何より心労を掛けたくないからだ。

古い干し肉を食べて、治癒魔法で抗っているけれど、正直、限界が近い。


私は何を恨めばいいんだろう。

王が保身したのは国を治める為だ。勇者召喚の副作用なんて、誰にも分からなかっただろう。

当然、コウキは被害者だ。けれど、加害者は誰になるのだろう。


そうだ。魔王だ。

魔王が生き物に甘い汁を吸わせたから、こんなことになったのだ。


昔のように、そう思い込んで、目を閉じた。

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