春のチャレンジ2025『強き心の魔法』
「はあ」
その短髪の少年、レアはそうため息をついて学校の窓を見た。ここはアラネス魔法学校。魔法を学ぶ学校で様々な生徒が日々魔法を学んでいる。
「僕ももっと上手く使えたらなあ」
そう言いながらため息をつく。レアは魔法がさほど使えないいわゆるところの落ちこぼれというやつで、他の同級生はかなり高度な魔法を使えるようになっているのだがなかなか上達しない。
「よお!どうした?浮かない顔して」
「ああ、アシェルくん」
隣で声をかけてきたのはアシェル。少し小太りの同じクラスの仲のいい友人だ。
「大丈夫か?」
「うん」
「そうか?ならいいんだけど」
「ちょっと!いつまで待たせんの!?」早く来て!」
向こうから女の声が聞こえ、アシェルは「今行くー」と言って小さく挨拶をして向こうへと行った。それを見てレアは「いいなあ」とつぶやく。
アシェルを呼んだのはこのクラスのマドンナ、イーチェだ。金髪に長い髪とその美しい容姿は「容姿端麗」という言葉が当てはまるほどで、クラスのみならず誰からも好かれている。冴えない感じのアシェルだったが、そんなマドンナのイーチェと付き合うようになり、そんな順風満帆な彼が羨ましいかった。
「ああパッとしない僕もアシェルくんみたいになりたいなあ」
そんなことを呟きながらため息をついた。そしてレアは次の授業の事を思い出し「あっ!」という声を出して立ち上がる。次は魔法の実践の授業なので急いでその教室へと向う。
「間に合った...」
レアはそう言いながら廊下を怒られない程度に小走りする。途中で何やら壁の一部が崩れている場所が見えた。確かここはこの前ライオンの魔物が大暴れしたとかなんとか。
「っと!早く行かないと!」
その廊下を進むと広い部屋が見えてくる。中入るとはもうすでに大勢の生徒が授業の開始を待っている。
「ではみなさん!授業をはじめますよ」
「はーい」
白髪の頭を団子のように丸めてシワシワの顔に小さいメガネをかけている年がそこそこいった女性の先生がそういうと全員その先生の方を向く。今日は炎の魔法の練習ということで部屋の隅に3つほどある耐熱性の布が巻かれた人型の人形に炎を撃つことになった。
「はっ!」
レアは魔法で炎の球を出すが、ひょろひょろと弱々しく放たれ人形に命中するとシュッという情けない音と共に消えてしまった。
「うーん..?」
「どうした?うまくいかないのか?」
「あ、アシェルくん」
「そうだな...こう、なんていうかフッ!って感じで」
そう言ってアシェルは炎の球を飛ばす。レアのものより格段に大きくかなりの勢いで人形の方へと飛んでいった。
「すごい...」
「まあこんな感じ...て言ってもよくわからないよな。まあ、頑張れ」
うまく伝えられなかったのを恥ずかしがってかそう言ってアシェルはそそくさと退散する。レアは「やー!」と言ってもう一度炎の球を出すがやはりひょろひょろとしたのばかりだ。
「はあ」
そう言って角に行き座り込む。自分にはセンスがないのか...そう思いながらレアはため息をつく。
「知ってるか?あの先生栄養ポーションを学校に持ってきて飲んでるらしいぞ?」
「マジ?」
「ああ、魔法準備室に円錐の入れ物に入れた赤いやつ、あれがそうらしいぞ」
やる気のない生徒たちのそんな雑談を聞きながらレアはもう一度ため息をついた。
「うおおおお!」
「すげえ!!」
向こうでそんな盛り上がりを見せる。それは同じクラスのウェルネスという男がレアの出したものの数倍の大きさの炎の球を放ったのだ。ウェルネスは完璧超人でなんでもできる。レアはそんな人物と自分を見比べて劣等感を抱いていた。
「はー」
「そんなため息ついていると幸運が逃げるわよ
そう言って近づいてきたのはアシェルだ。
「だって...自信なくて」
「自信か。俺もなかったけどそんなものは意外とどうでにもなるものだ」
「そうかな...」
「そうだ!そういえばこの学校に魔法の力をめっちゃ強くするっていう秘薬があるって聞いたぞ!それをちょっと拝借すればいいんじゃないのか?」
「いいの!?」
レアはそんな事をしたら怒られてしまうのではないかと心配したが、アシェルは「ヘーキヘーキ」と余裕そうだ。
「それってどんなやつなの?」
「えっとそれはだな...えーっと」
しどろもどろになるが「思い出したかのように赤い液体でとか中身の話をする。
「うーんでも...」
レアは最初少し迷ったがそれを使えば...そう思い決行することにした。
「ここだ」
放課後になり、レアたはこっそりとその秘薬とやらはとある教室にやってきた。中を覗き誰もいないことを確認しこっそりと侵入した。右側に大きな棚があり、そこにはたくさんの薬品などが置いてある。
「あれ!」
そこには見張りなのか黒い犬が寝ている。聞いたことがある。番犬を生み出す魔法で侵入者には容赦なく襲いかかってくるのだという。
「怖いなあ...でも!」
そう言って恐る恐る棚に近づく。怪しい気配を察知したのか番犬は耳をピクッと動かして起き上がり、辺りを見回す。そして徘徊し出したのを見て気づかれないように机に隠れながら棚へと進もうとしたその時だった。
「あっ!」
机にぶつかり置いてあった透明なガラスの瓶が床に落下した。バリン!という割れる音と共に番犬がこちらの気づく。
「グルル!」
「っ!」
相手が先生の作った番犬。おそらく真正面から戦って勝てる相手ではないだろう。小さい炎で足止めしようとするが全くといていいほど効いていない。
「グルルオォ!」
「この!」
襲いかかってくる番犬はレアの腕に噛みついてくる。なんとか引き離そうとするがなかなか離れない。
「く...この!!」
腹を蹴り上げ口に炎の魔法をねじ込む。流石に聞いたからか番犬は怯んで少しの間動かなくなった。
「この隙に..!」
「これだ」
そう言ってアシェルは棚を開けて一つの円錐の瓶を取り出した。赤い液体でなんか色々言っていたがおそらくこれだろう。
レアは蓋を取り中に入っている赤い液体を一気に飲み干す。なんだか変な味が口に広がってくる。飲んではみたが言うほど変化があるようには見えなかった。そこで炎の魔法を撃ってみようと言うことになった。そうすればどのぐらい変化したかがわかるだろう。
「とりあえずここから逃げよう!そう言ってレアは誰かがこないうちにそそくさと退散していった。
「さて、今日も魔法を放つ授業です」
次の日、また魔法の授業があり目の前の人形を見る。
レアは自分がすごい魔法を使っている姿を想像し炎を放った。すると授業でウェルネスが放ったものよりかなり大きな炎が飛び、人形を破壊した。
「すげえ!!」
「やればできるじゃないか!!」
「これが...僕の...」
そう言って自分の力を確信したレアは自信満々にもう一度炎を放った。
「なんだそりゃ!すげえ!」
「お前いつの間にそんな魔法が!?」
驚いた生徒たちが集まってくる。まさか自分にそんな力が...レアはそんなことを考え、何かを決断したように拳を握りしめた。
その授業内で、先生の栄養ポーションが無くなったという事件が報告されたという。