9話 霧のゾンビ村 4
半分は外れて後方の家屋や地面を焼き、命中した火弾は櫓の支柱を弾け折った!
だが折れる角度が悪いっ。だいぶズレた方向にゆっくり傾きだす櫓っ!
「ラダ! 言ったじゃんかっっ」
「すいませんっっ、霧がっ」
こりゃブレッシング抜きなら折れてたどうかも怪しいぞ。ま、仕方ないかぁっ。
俺は霧の中、一番マシな強行突破ルートを定めようとしたが、
「ラダ、ストロングお願いしますっ!」
ヤポポは蔓を櫓の支柱に向かって放った! 正確とは言い難いがそこは身体の一部。距離は届くと先を操って緩慢に折れゆく支柱の燃えていない部位に絡めると引っ張って角度修正を始めた!! 屋根が軋むっ。
「ストロング! ディフェンド!」
剛力魔法をヤポポに、防御魔法をヤポポが踏ん張る『屋根』に掛けるラダっ。
「んごごごっっっでぇす!!!」
「大丈夫かよっ?」
「ヤポポがんばんなっ」
ヤポポが白眼を剥く勢いで蔓を引っ張りっ、櫓はゆっくりと・・ドドーンっ!! ゾンビ達を押し潰し、噴出した粉塵で一瞬霧を払って、屋根から一飛びすれば通れそうな砕けた櫓の道を作った。
「あっふぁ・・っっ」
昏倒するヤポポ! よくやったっ。
「よしっ! ギムオン、調査部員さんとラダを頼む! ユーレアは自力でっ」
「おうっ」
「はいはい自力ねっ」
俺は衝撃と霧の晴れ間に動揺するゾンビ達の隙を突いて槍を収納ポーチにしまい、ヤポポを抱え、1人で跳んだユーレアと共に呆けるゾンビどもを越えて! 砕けた櫓のマシそうなとこに着地!
一拍遅れて調査部員とラダを抱えたギムオンも轟音を立てて着地してきた。
「ギムオンっ、着地はソフティーにお願いしますっっ」
「いや俺はポーション飲んだから1人でいけたが・・」
「ボヤボヤし過ぎっ」
「祠までダッシュ! 威嚇はラダに任せるっ」
俺達は抱えたり担いだりなこの状態のまま、向かって来だしたゾンビに追い掛けられ、必死で外れの崖の祠へと走った。
櫓だが、さっき外れた火弾が積み藁か油壺にでも引火させたのか? 霧の向こうで派手に燃えてる。
担がれてるラダに、走るタイプのゾンビをヒートショットで撃退してもらいつつ祠へと俺達は走った。
「明かりはいい。先行するよっ」
封鎖された祠の入口に速駆けスキルで霧の中、駆け込んでゆくユーレア。
「降ろしてくれっ、弓くらいは使える」
「うむっ」
飛び降りるようにギムオンから降りる調査部員に、俺はポーチから引っ張りだした安価クロスボウと矢筒を投げ渡した。
逃げながら時折振り返って、走るタイプのゾンビの脚を撃って転倒させる調査部員。フェザーフット族は素早いな。
どうにか洞穴がベースになってる祠の前までたどり着くと、祠の封と扉の鍵は既にユーレアが解いていた。
「探知したけど、祠の奥にはいるね。それにほら」
扉の隙間から霧が流れ出ていた。
「中に入ったら箱を片さない限り袋小路だ? ほんとにやるんだな?」
残り少ない矢を撃ちながら調査部員は聞いてくる。
「今さらだけどさ、親玉、俺達で勝てそうだったかな?」
「モンスターとしてはそこまで強壮じゃない。『被害を拡大させ続ける事』そこに力を大きく振った結果だ。イカれてる」
・・もう大昔な気もするが、ギルドへの登録を連絡したら親は呆れるやら怒るやら、まず衛兵からして役所抱えの警備員くらいの感覚だったんだろな、て。
「やろう。この調子だと後続隊が組まれる前にババンバが襲われるし、あの規模の人口でゾンビ化したら、相当マズい」
「賢くないが、有望な新人の答えだ」
俺達は腹を括った。
中へ入るとノビてるヤポポに霊木の灰とポーションをぶっかけ(雑ではある。ラダはヒールが使えなかった)た。
祠の扉は閉じ、ラダがロックの魔法で封鎖。扉の番はギムオンとラダが担当。あとの4人で奥へ向かう!
残り2つの霊木の灰は俺とギムオンが1つずつ持ち、残り3つの魔法石の欠片は2つをラダ、1つを俺が持ち、光り玉と癇癪玉は纏めてユーレアが持つ事にした。
「霧のソーサラーは顔の仮面部分は特に実体があった気がした」
「わかった。ラダ、頼む」
「はい、追加の明かりの権限はユーレアにします。・・ライト、ストロング、ディフェンドっ。武運をマサル!」
追い付いたゾンビが封じられた扉に殺到しだすのをギムオンを抑える中、欠片を1つ対価にラダ魔法を行使した。
ディフェンドは全員に、余力を考慮してストロングは俺だけに掛け、2つ目の魔法の明かりはユーレアに託すラダ。
俺達はこのクエストの最終攻略を始めた!
祠といってもほぼただの穴を一定以上進むと、霧の中からゾンビではなくゴブリンの骨によるモンスター、スケルトンゴブリンがゾロゾロ現れるっ。
武器は甲羅製よりマシな岩鱗の盾と銅の小剣に切り替えてる。
まだ起きないヤポポを背負った調査部の人は拠点で見たらしい祠の見取図の記憶を頼りに、道案内に専念。ユーレアはパチンコで小石を撃って援護する。
「オォッ!」
動作は軽く単純になるが右腕を中心に魔力を込め、連打系片手剣スキル、重ね斬りを放って打ち払ってゆく。
骨屍鬼は武器を使うが緩慢で、一定以上ダメージを受けると骨に憑いた死霊が身体を保てなくなり滅びる。
直撃とある意味ゾンビ以上に死ぬまで怯まない性質に注意すればどうって事ない。
数が多いのと相手の群体にこっちから突っ込む形になってるのは大いに問題だがっ。
やがて、見えた! 霧の溢れる部屋っ。施された封はとっくに解かれているが扉は閉ざされ、その隙間から結構な勢いで負の霧が噴出している。
「対面して気持ちのいい相手じゃないぜ?」
「だろうね!」
俺はスケルトンゴブリンの頭を銅剣でカチ割りつつ応えた。