8話 霧のゾンビ村 3
よく見れば、資料にあった調査部員だった!
「生きてたのかよっ?!」
「まずは天井裏へ! 上から霊木の灰を撒けば時間を稼げるっ」
「いい案ですっ、僕のマナハンドとヤポポの蔓で上がれます!」
マナハンドは念力魔法。ワープラントは背の肩甲骨の辺りから左右1本ずつ蔓を出せる。この蔓は結構パワーある。
「背の高過ぎな家具を倒した方がいいよねっ?」
「私とマサル君は最後でいい!」
そうなるよなっ。
「灰だけ先撒いといてくれる? 死にそうっ」
調査部員はもう灰のストックが無いようなのでユーレアが投げたのを撒きまくり(煙いのと視界が一時ヤバかったっ)、俺とギムオンが灰に焼かれ勢いは落ちたゾンビを窓と入口で退ける間に、残り3人は高い家具をドタドタ引き倒してから天井裏に上がっていった。
「窓が多いっ、限界だ!」
「わたし、小屋の壁面に沿ってターンアンデッド掛けてみますよぉ?!」
ヤポポが魔法石の欠片(買えば高い)1つを対価に除霊魔法を実行したっ。ザバァッ! と、少なくとも壁に張り付いてたヤツらは腕等の接触部位を砕かれ塵に変えられた。
「よし、今だぁ! ちょっと退けてくれるか?」
俺は槍の石突きを使って跳ね上がって戸板を外した穴から天井裏に上がった。
ギムオンもラダに「重っっ?」と苦労させつつ、マナハンドで浮かせて天井裏に避難できた。
俺達は穴から追加で霊木の灰を撒き、戸板を閉めた。
「ロックの魔法を掛けておきます」
施錠魔法で戸板を封するラダ。
「先導はされてるがゾンビの認識力は低い。灰と視点から外れて少しごまける。あとポーションもらえるか? 脱水と栄養失調何だっ」
ラダのライトはまだ有効。近くで見ると調査部員はかなり憔悴してた。ポーションを渡した。
ポーションは俺とギムオンも飲み、一応、3人揃ってヤポポにゾンビの穢れを浄化スキルで祓ってもらった。
「霧もだけど、先導て事は親玉がいるの? ソーサラーがどうとか」
「いる。ソーサラーと書いたが、『魍魎の小箱』を使った結果、生身の身体は既に失ったようだな」
「魍魎の小箱! 霧を介して低級霊をバラ撒く禁忌魔法道具ですねっ」
魔法道具屋の三男らしく、ガッと食い付くラダ。
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手短に日記を補足した調査部員の話によると、件の箱はかつてここを根城にしていたゴブリン族が所持していたらしい。
そこを襲って密猟の拠点にした密猟者達は、低級霊が祟る箱の扱いに困り、拠点の外れのゴブリン族の祠に放置していた。
ソーサラーはこれを狙って密猟者に取り入り、さらに『獲物』を増やす為に近隣の密猟者グループを誘ってこの拠点で宴会を提案した。
のこのこ集まったならず者が酔い潰れたところで、自らを対価に箱から呪いの霧を発生させ・・あとは最初の1人をソーサラー自ら始末すれば、『ゾンビに殺された者がゾンビになる連鎖』で大量ゾンビ村の完成だ!
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「この状況でよくそこまで調べられたな」
「というかあんたどーやって生き残ったの? 最初探知できなさ過ぎだったけど?」
「俺と相棒が潜入した時はまだ生存者が数名いたんだ。もう正気じゃなかったが・・生き残りはコイツと眠り薬さ」
調査部員は着ているマントの裾を掲げてみせた。
「あっ! 隠れ身マントですねっ。魔力を込めると気配や姿を消せるんです。高価ですよこれは」
講義では習ったっけな、調査部員らしい装備ではある。
「そう。脱出を諦めて、持ってた残りの魔法石の欠片の魔力を全部ブッ込んで半出力くらいの設定で、さらに致死量ギリギリの睡眠薬も飲んで救出を待つ事にした。最終手段さ。さっきは襲撃の物音と揺れでどうにか起きれた。綱渡りだったよ・・」
「これで『酒場のあの娘』に告白できる確率上がりましたねぇ? デヘヘ」
「いやいやっ、そこは読み飛ばしてくれよっっ」
ここら辺で、下のゾンビどもが物量で灰の浄めの効果を押しきって屋内に侵入を始めた気配を察した俺達は、屋根窓を破って霧深い屋根へと移動した。
霧の中、小屋はゾンビに囲まれている!
中に入った連中はまごついているようだが、外はさらに集まってきてるっ。ゾンビどもは計算ではなく集団の行動の結果で折り重なって、屋根までの高さを越えつつあった。
「ヤバっ、引き続き俺とギムオンで食い止めるっ、打開策が無いなら余力がある内に拠点の外まで突っ切るから言ってくれっ!」
「よぉしっ、やるぞぉ!」
俺達2人は屋根の上から迫ってきたゾンビを打ち払いに入った。うおおーっ!
「あわわっ、どうします?!」
「もう家屋に詰まってませんし、火炎やターンアンデッドの連打では魔法石の欠片が持ちませんね」
「霊木の灰もあと数個だろ?」
「・・祠ってどこ? あの物見櫓も使えないかな? 霧、深過ぎだけど」
「んっ! 魔法使い職がいるならいけそうだ! 祠は左の奥の崖になってる所だ」
「櫓を倒せるなら、どーんっ! とやって、祠までの道を開くんだよ。そのソーサラーだか何だかをとっちめて、箱も片しちまうのさっ」
「箱もか? うーん、やっちまうか!」
どうやら話は纏まったらしい。
「ヤポポ! 欠片を使っていい、全員にブレッシングだっ。ラダの精度も上げる!!」
「はい! ぬぬっ、ブレッシング!!」
ヤポポはだいぶ少なくなってきてる魔法石の欠片1つを対価に全員に強めの幸運魔法を掛けた。
「火霊石があればなおよかったのですが・・やってみます!」
「ラダ、角度気を付けなよ? ただ倒しても意味無さ過ぎだかんね」
「うっ、善処しますっ。ふぅー、ファイアショット!!」
ラダも魔法石の欠片1つを対価に強烈な火の弾を霧の向こうの物見櫓に連射した!