6話 霧のゾンビ村 1
最後の野外演習の流れでそのまま俺、ギムオン(格闘士職)、ラダ(魔法使い職)、ユーレア(鍵師職)、ヤポポ(僧侶職)はパーティー登録を済ませ、当面俺がリーダーという事で冒険者活動を始める事になった!
ギルドからの最後の支給品は、身分証、魔力式懐中時計、収納ポーチのみ。
取り敢えず金は無いけど、同期の皆と楽しくほどほどに稼ぐぞ~。
それから5日後。
「ウゥバァーッッッ!!!」
ボロ小屋の窓を破って腐った死体のアンデッドモンスター、腐屍鬼2体が上半身をねじ込んできたっ。
俺とギムオンが銅の穂先の槍と三節棍を振るって、2体の頭部をブッ潰すっっ。
飛び散る腐った脳髄と目玉と舌。窓枠に挟まったままビクビク痙攣する2つの胴体。その後ろの霧の向こうから迫る、さらなるゾンビどもっ!
「ぎゃーっ、です! 臭気持ち悪い~っっ!!」
「うわっ、ローブの裾に歯茎がぁっ?!」
「この小屋っ、囲まれ過ぎぃーっっ!!」
画なら画風が変わってるヤポポ、ラダ、ユーレア。
俺達はボロ小屋の中で、周囲をゾンビ集団に囲まれ、ピンチのズンドコにいたっっ。
・・その前日に、俺達はマーリク市から荷馬車で街道を半日程行った先の温泉のある村、ババンバに到着した。
あちこちから湯気が漂い、少し湿度を感じる。
荷馬車から降り、背の低いヤポポに手を貸してやってから、深呼吸してみる。
「ふぅ、硫黄の臭いはしないよな?」
「ここは硫黄泉ではないですからね。薬効も薄いようで、薬草を使った薬湯が主流のようです」
「マジかラダ? 何か、ショックだ・・」
「期待し過ぎ。それより仕事で来てるからっ!」
そう俺達は湯治に来たワケじゃない。
ギルドでパーティー登録後、近場の細かいクエストをこなして小銭を貯めて初期装備や生活物資をある程度固めた俺達は、
『何かクエストリストに温泉街のクエストがあったから、これ受けてみようぜ? 温泉入れそうだし』
と安易にここに来ていた。
・・うむ、ちょっとは湯治要素もあった!
それはそれとして詳しいクエスト内容はと言うと、これがやや込み入ってる。
ババンバ村の近くの森では以前から国から保護していされてる希少モンスター、ババンバ亜種毛玉鼠を密猟されてる噂が以前からあった。
で、件の森で数週間前から奇妙な霧と、霧の中にゾンビらしきモンスターの小集団が目撃されるようになり(ここが結構飛躍してる!)、駐在の衛兵達が自警団と共に様子を見にゆくと・・
ゾンビがゴロゴロいた! さらに密猟者の拠点らしき場所も発見っっ。どうもそこがゾンビの発生源らしい。
忌避度の高いゾンビ対策は、何だかんだでマーリク市の冒険者ギルドに丸投げされ、まずはギルドの調査部から2名派遣されたが、1人は負傷して村に引き返し、もう一名は行方不明となっている。
俺達はその行方不明者の捜索、ないし回収、ないし『討伐』をする事が使命だ。
クエスト自体はそこそこ重いな・・温泉には入れるがっ。
しかし真面目な俺達は温泉の前に、まず村の治療院で入院している引き返した方の調査部員から話を聞く事にした。
ゾンビに重傷を負わされると傷と感染症と呪いのコンボで上手く回復できず始末が悪い事になるらしく、ベッドで点滴され、包帯と魔除けでグルグル巻きの調査部員は尋常な様子じゃなかった。
「来るっ! きっと来るっ!! あの小箱からっっ、霧だ、霧がっ、うわぁああーーーっっっ!!!!」
暴れる調査部員。とても話を聞けたもんじゃなかった・・
その後、村長と駐在衛兵から追加の活動費をちょこっと追加活動費をせしめた俺達は安宿を取り、村営の温泉場に行って、
「はぁ~、ババンバ最高っ!」
と英気を養い、宿の近くの食堂で温泉定番の東方由来の装束ユカータを着て、協議を始めた。
「調査部員には上手く話を聞けなかったが、駐在衛兵からは最新版の資料をゲットできた。今後の方針、決めようぜ?」
「思ったよりホラー感あったからもう帰りた過ぎ」
「身も蓋も無いっ、追加活動費までもらっちゃったし」
「新米の地母神系僧侶職としては見過ごせませんっ」
「日暮れは避けるべきなので早朝から現地で様子を見てみましょうか?」
「ふむ、聖水(高い)を人数分は予算オーバーであるが、霊木の灰くらいは少し買い足しておくとしよう」
できる準備はして明日に備える事にした。
早朝、繰り返されたらしい調査で細かく記載されてる地図のお陰で手早く森の中を進み、密猟者の拠点近くに来る事ができた。
「・・何か、いる。アンデッドっぽくはない??」
警戒スキルで敏感に感じ取ったユーレアの視線の先には小さな毛玉みたいなのがワラワラとっ、
「ババンバ亜種のファンシーラットですよね? カワ~」
「いやしかし雑食で『何でも』食べるようなので囲まれるのは避けましょう」
「・・・」
ヤポポが『無の顔』になったりもしながら、ファンシーラットとの間合いに注意して俺達は先は急いだ。
そして、荒廃した、汚れた血塗れの、悪臭漂う密猟者達の拠点の前にたどり着いた。
日が差すせいか? 人影は無かったが異様な気配はした。
魔除けは全損しているのに不自然な程、通常のモンスターや森の獣達の気配が無く、ただし羽虫の類いは飛び交っていた。
「ここか」
「霧は、出てないようであるが?」
この先で、一体何が待ち受けているのか? 俺達は次なる運命におののいていた・・
いや、まぁこのあとゾンビまみれにされるのは確定してるのだがっっ。