3話 春季2次試験
実家には連絡し難くっ、クエスト中で例によって行方不明なヒロシ伯父さんとは連絡がつかなかった・・
俺は結局出願をした。
となるとギルドの新人採用の2次募集受験料や生活費が掛かるので、ギルドの紹介で市の城壁補修のバイトをする事になった。
紹介の紹介の紹介で飯場暮らしだ!
「ふんぬっっ」
金属補強した木の車輪の手押し車で煉瓦を運ぶっ。
「はっはっはっ、マサル君! 君は戦士職で受験だろう? もっとしっかりしないと秋期まで浪人する事になるぞぉ?」
筋骨隆々なハーフドワーフの男の作業員が言ってくる。デカい手押し車で俺の3倍ぐらいの煉瓦を軽々と運んでるっ。
格闘士職志望の出願者、ギムオン・アイアンパンだ。オッサンに見えるが、長生きするハーフドワーフの年齢で言ったら俺と同年代くらいらしい。
ヤツもバイト中だ。
「やるだけはやってんよっ!」
俺の志望は戦士職。他にできそうなのがなかったからだが前衛職だっ。成り行きもいいとこでも泣き言は言ってらんないぜ!
・・そんなこんなで昼間はボロボロになるまで働き、夜は臭くて痒い飯場で雑魚寝し、いい感じで据わった目になってきた10日後、受験と相成った。
審査は4段階。
まず事前の書類審査。俺は推薦枠なのでここはパス。
次が試験初日の午前中にやる職種別らしい座学。と言っても専門知識ではなく中等教会学校1年くらいの基礎学力の確認だ。特に秀才でもないが、これも無難に通った。まぁ戦士職だとこんなもんか。
で午後からは志望職ごとの実技試験! 戦士職志望の俺は、
檜の棒、布の服、杉の盾の装備で・・
「ミューっ!!」
「チィイッ!!」
餅魔1体と、迷宮蝙蝠1体と対峙していたっ。
広い演習施設の、受験生ごとに配置された円形魔法陣の中だ。
この陣はドーム型の魔力障壁を展開していて、モンスターと受験生を隔離している。
「落ち着け俺! どっちも村の自警団活動で倒してるっ」
もうちょいマシは武装だったし、単独でもなかったけど!
チラっと見ると離れた魔力ドームの中でギムオンは似たようなモンスター達と『素手』で対峙っ。マジかと。
「ん?」
他も見ればいつかの褐色眼鏡の人と、世話焼きだけど口悪いハーフエルフ女子も実技試験を受けていた。
ハーフエルフ女子もか、そういえば座学の会場でも見たような・・
何て気を取られている内に、
「春季2次、実技試験始め!」
魔力式の拡声器から号令が掛かったっ。
魔法式の縛りが解け、スライムとノイズバットは俺に襲い掛かってきたっ! うっはっ。
「ほ!」
ノイズバットの急降下攻撃を避けた先で、身体の一部を伸ばしてきたスライムが俺の左足首を狙ってきた。こんにゃろっっ。
俺はさらに避けるついでにスライムの真上に飛び上がって、空中からの突きで流動する身体の芯にある核を貫いてスライムを仕止めたっ。
「チィアッッ」
ノイズバットが死んだスライムのドロドロの身体の上に着地してモタつく俺に向かって怪音波を放ってくるっ。
俺は頭部を杉の盾で庇いつつ、スライムのぬかるみから脱して、檜の棒を投げつけ、ノイズバットの翼を片方切り裂いて降下させた。
「馬番キィィックっ!!」
適当な技名で墜ちてきたノイズバットに飛び蹴りをお見舞いしドームの障壁に激突させて焼き払い、コイツも仕止めてやった。
「しゃっ」
実技試験クリア! まぁ内容評価で落とされる事もあるっぽいが・・とにかくそのまま一定時間過ぎると、
「そこまでっ! 敗退者はいないようだが、制限時間内に課題モンスターを倒せなかった者は不合格とするっっ。撃破者は3番口へっ。不合格者は1番口へ!」
ドームの障壁が解かれ、モンスターの死骸処理等するスタッフがわらわら出てきた。
俺は他の合格者と共に3番口に向かう。
40人くらい合格してんな。余裕っぽかったギムオンはともかく、眼鏡の人のハーフエルフ女子はどうだったよ?
「ちょっとあんた、衛兵になるんじゃないの?」
貸与されてる布の服を着てるハーフエルフ女子が探すまでもなく、人波を器用に避けて近付いてきた。
「何だかんだで定員だった。で、こっちを推薦された」
「騙されたの?」
「いや~っ、巡り合わせ? みたいな。はは」
「あんたね、冒険者何て勤め人じゃない。リスキー過ぎ何だよ」
廊下を歩きながら説教モードに入りつつあるハーフエルフ女子っ。うっ、そう言えばこういうタイプだったな、と・・そこへ、
「この間はどうも~」
「マサル君! いい蹴りだったぞぉ?」
眼鏡の人とギムオンも来てくれたから、お説教を回避できそうだっ。
俺は速やかに実技評価や最後の面接何かについての雑談モードへの話題の切り替えを計った。
・・控え室で用意された安物のマズい回復薬を飲みながら、ざっと自己紹介をやり直した。
眼鏡の人はラダ・エルダーブック、魔法使い職志望。魔法道具屋の三男坊らしい。
「後学の為にチャレンジしてみました!」
ハーフエルフ女子はユーレア・コンドルハート。鍵師職志望。親も鍵師の冒険者だってさ。
「まぁ代々稼業みたいなもんだから・・」
ギムオンは元土木作業員で、趣味で通ってた格闘技道場で勧められ転職を決めてる。
「修行なのだ! はっはっはっ」
で、俺だ。
「俺は元馬番で戦士職志望のマサル・ヒースヒルだ。実技評価と面接で受かったら、同期だな? よろしくっ」
この4人、縁がありそうな気がしてきた!