26話 ビスケットクラウン 3
ラダとギムオンとは地元の冒険者は来そうにない、値段高めの観光客向けのカフェの個室で落ち合った。
先にこちらの報告を済ませた。
「なるほど、少々馬鹿馬鹿しい気もしてきたが話はシンプルになったな」
「マーリク市ギルドには話を通せました。一旦、ヤジフのギルドには伏せるとも。夕霧の丘の資料も獲得できましたし、衛兵の方も確認できましたよ?」
「衛兵からはドストイグループはどんな扱い何だ?」
「正直微妙ですね。昔は癒着が酷かったから今は2年ごとに交代になって淡白な印象です。諸々の不正は把握しているようですが、町の民会の重鎮を抱え込んでるから、ドストイグループに勢いがある内は手を出し難いようです」
「町のギルドも取り巻きになっている連中以外はうんざりしているようだの。『状況と切っ掛け』があれば変わるかもしれん。ただ、コンテストへの協力以上の事は控えるようにマーリク市のギルドからは釘を刺された」
まぁそれもそうか・・
「だが、上手く片したらマクシアン達だけじゃなく、この町にとってもいい事かもな」
「この町のスィーツ達にとってもです!」
「解決は公表せず、コンテストを見届けたら逃げ足速過ぎでズラかるよ? あとはそれこそギルドの調査部とか衛兵の仕事だよ」
それから少し協議して、方針は纏まった。
・・・夕霧の丘は土地の魔力が強く、その名の通り夕方霧が出やすい。生育に適度な霧と魔力求めるミストキャラウェイに最適な環境だが、野外でそんな環境は当然モンスターを居着く。
ここでは一本足のカラス型のモンスター『兜掴み』の縄張りになっていた。
ミストキャラウェイは霧を受けた後が一番品質が上がるのと、単純に霧の中での戦闘はキツいと俺達は思い知っていたので、例え暗くなっても夜中に夕霧の丘に俺達は向かう事にした。
勿論いつかも使った夜鷹薬を点眼してる! 夜目、利っくー!!
霧が晴れても夜中だろうと、資料通り、ヘルムキャッチャーは40~50体は普通に丘の散らばる岩場から集まってきたが、
今回のヤポポは一味違った。
「ふぅおおおーーーーっっっ!!!! 全っ、魔力と!! 町で食べた全スィーツのカロリーを!!!『100万シュガー力』に変えてっ!!!!」
また謎単位を持ち出しているが、屋上の時どころじゃないっ、夜空を突くような圧倒的なパワーっ!!!
「ワープラント族の中には蓄えたカロリーを魔力に変換し、一時的に変換するスキル『オーバーカロリーバースト』を使う者がいます。日頃、ポンコツ気味なヤポポですが、彼女はワープラントの中でも希少な『オラクルリーフ・グランツリーチャイルド』に至るレア特性持ちのようですね」
誰も聞いてないのに滑らかに解説を挟んでくるラダ。誰も知らないうんちくだから、本当なのか冗談なのか誰もわからない・・
「よくわからんが、凄い魔法を使いそうだな」
「はぁあああーーーーーっっっ!!!!」
全身に激しく魔力を纏い、2本の蔓の先に鉄の手斧を持ち、そのまま竜巻のように『斧付き蔓』を旋回させて戦慄してるヘルムキャッチャー達を薙ぎ倒してゆくヤポポっ!
いや、物理か~い。
あっという間にヘルムキャッチャー達の8割に壊滅し、残りは突然現れた意味不明な『暴走蔓モンスター』に恐れをなして逃げ去っていった。
「はぁ、はぁ・・やりました」
「凄過ぎ。無駄に食い溜めしてなかったんだね。あとはポーション飲んで休んでな」
「はいぃ・・」
何か凄かったヤポポは休ませ、俺達はそこらに生えてる、夕霧を吸ってほのかに魔力で輝くミストキャラウェイの種の採取を始めた。
そしてビスケットクラウン伝統菓子部門コンテスト当日。
「頑張れよ」
「我々はコンテストの結果に関わらず、見届けたら静かに町を去る。諸々ギルドに伝えてあるし、衛兵もいつまでもは見過ごさん。ヤケにならず、これからも自分の仕事をするんだぞ?」
「応援してますぅ~っ」
俺達は控え室の時点でフード付きマントを着込み、マフラーを鼻先から巻いて、顔を隠していた。そもそも、マクシアングループがミストキャラウェイを手に入れた事は公になってもいない。
「皆さん、いつか改めてお礼させて下さい。・・今日は、我々マクシアングループの、いや! 真っ当なヤジフの菓子職人の意地を見せてやりますっ」
マクシアンはいい目をしていた。
程無くコンテストは始まった。俺達はキッチンスタジオと化した半円形の舞台を囲む満員の客席の関係者席の端っこだ。業界人風のが多い周りに『誰だコイツら?』て顔されてる。
参加者は12組。2組ずつ審査の長丁場。マクシアングループとドストイグループは最後だ。順番は抽選のはずだが、仕込みだろう。最後に、マクシアングループを吊し上げて完全に潰す筋立てだ。最悪っ!
どのジャンルも悪党はめちゃくちゃするよな~。
10組目までの審査が済んだ。コンテスト菓子だけにどれも創意工夫に飛んでる。毎回、簡易版のコンテスト菓子が少しずつ客席にも振る舞われるが、美味くて個性派な菓子しかない!
プロ達が本気で競うってやっぱ違うよな。
そしてとうとう最後の組、マクシアンとドストイの番となった!
「これはこれはマクシアン氏ぃ~、トラブルがあったそうですが大丈夫ですかなぁ?」
「去年はまぐれで勝ったようですが、そんな間違いはもう起こりませんよーっ!」
煽ってくんな~。ユーレアがヤポポを押さえてなかったら斧が飛ぶところだぜ?
「ドストイ氏。今年の我々は必勝です! なぜなら・・」
被せていたクローシュ(鐘蓋)を職人に取らせるマクシアン。特に魔力が強く、まだ発光が見られるミストキャラウェイが露となる!!
どよめく会場っ。
「何ぃ~っ?!」
「?? 酢が掛かって、あっ! いやっ、あわわっっ」
ドストイグループが動揺しまくる中、調理は始まった。
鮮やかな手並みのマクシアングループ
ドストイグループも卑怯ではあってもそこは老舗の最大手。技術は高い。何よりスタッフがやたら多く、食材豊富で、ミストキャラウェイはさすがに出さなかったが他の高級食材は山盛りだ。
技と技! 心意気と富がステージでぶつかり合うっ!!
客席も沸き上がったっ。
至高の2品のスィーツが完成した!!
「我々ドストイグループは圧倒的技術と格式と最高品質で仕上げたのは・・『最良マジカルアップルと最良アサシンビー蜜と最良ロイヤル稗のビスケットマフィン風、ガレット・デ・ロワ』です! スペシャルなフランジパーヌとエルフコルコルニャックの豊潤な、フェーヴは民会の叡知を称え・・」
講釈は続くが、砂糖細工の王冠が付けられたホールパイのような菓子は確かに貫禄のある見事な出来映えに見えた。
審査員、特に買収されてる2人は目の色を買えて絶賛!
客席に振る舞われた簡易版は確かに『高くてクリエイティブな感じ菓子』だ。だが、ちょっと個人的好悪は別にしても、『田舎風のビスケットマフィンの要素どこ行った?』感じがしたのと、菓子の膨大な設定と原価をそのまま口に突っ込まれてるような居心地の悪さ感じた。
続いてマクシアングループ。
「我々の菓子は『ヤジフのビスケットマフィンのクグロフ・シードケーキ』です。地元の稗ビール酵母で発酵させ、その分稗粉の配分は下げています」
真ん中の窪んだ素朴だが感じのいい飾り付けのケーキを出すマクシアングループ。
「はっ! 貧相っ、農村の祭りかな?」
「まったくですねっ。ほっほっほっ」
ドストイ達は嘲り、買収審査員2人は噛み付く勢いで批判したが、会場に配られた簡易版菓子を食べた客と俺達は唸った。
慎重な蜂蜜の仕様。林檎ソースの的確さ。稗粉の比率。まさにいい案配。クグロフ・シードケーキとビスケットマフィンの融合具合も絶妙だ。地味なのに、品の良さやめでたさ、地元愛に満ちていた。
何より『ああ、ビスケットクラウンてそういう事か』と納得してしまう、見事な概念の具現化だ。
甘く、爽やかて、惑わすようで儚い、ミストキャラウェイの風味も素晴らしかった。
「ううっ、このスィーツは、ラブレターです」
フードの向こうで涙を一筋溢すヤポポ。
試食したドストイも、ヤツも職人だから一瞬で青ざめていた。
審査員『7名』のジャッジは・・
その数時間事、フードとマフラーを取って清々して俺達は一応貸し切りにした馬車の荷台で過ぎてく青空を見上げていた。
「ギルドの経歴からはやっぱ抹消しといた方が無難そうだが、いい仕事したな」
「また来年も来ましょうか? ヤポポも喜ぶでしょうし」
「だな」
「賛成だ」
「ぐっすり寝過ぎ。ふふ」
ヤポポは満足顔で眠っていた。
それから2月後、客足が遠退き、衛兵に踏み込まれそうになったドストイは側近の男を置いて金庫の中身をごっそり持って、隣国に亡命してしまった。
民会の勢力図も重鎮が『勇退』した為、刷新された。
マクシアングループの店の店舗販売仕様の儚い香りのクグロフ・シードケーキはそれから新しい町の名物になったそうだ。
結局経歴に残さなかったから、俺達はよく知らないけどさ!




