23話 時間は見逃してくれないから 3
教会学校の学生ってワケじゃないから、俺達は倉庫の整理の仕事はそのままキッチリ片付けその上で、
「じゃ、探すか」
と当然の流れって感じで砦内を手分けしてレトレトを探す事にした。
効率悪いから基本的には1人ずつバラバラだったが、
「あー、あたしが1人で見付けたら、あの子、気まずいかも?」
とユーレアが戸惑っていたから、取り敢えず『リーダー担当だから』と俺がユーレアに付く事になった。
正直、ラダも気まずそうだったが、より気まずいとしたらこっちかな? て事で。
俺とユーレアは割り当てたエリアを順に見て回ったり、それとなく見てないか聞き込みをしていった。
「・・あたし、あんまり教会学校行ってないんだ。中等部の卒業資格だけ後から纏めて取って」
「へぇ」
チョケてない程度に軽く聞き流す。ハーフの中でもハーフエルフは寿命の半端な『長さ』とエルフのコミュティから忌避感もあるから大体ポジティブな事になってないもんだ。
「こういう、『学生時代の鬱屈の延長戦』みたいなの苦手だわ。避けた事をまた持ち出された感じ。落ち着かないよ。冷た過ぎかもしれないけど」
「いやホントに冷たかったら、スルーしてさっさと部屋に戻ってるだろ? まぁ、冷たかったらダメとも思わないが」
早足で並んで歩きながら、ユーレアの三白眼の視線を感じた。
「マサルって、真面目に怒らせる難度高いよね?」
は?
「何で俺の忍耐力の話になってんだよ?」
「別に~」
俺達2人はその事もあちこち探し回った結果、夕暮れのとある砦の、誰も来なそうな2階のバルコニーの端っこで文字通り黄昏てるレトレトを発見した。
「2階から飛び降りても捻挫くらいだぞ?」
「マサル」
手の甲で軽く腕をはたかれた。いや、あまりにも構ってちゃんなムーヴをしてたからさ・・
「領兵は、辞めませんよ? 5年勤めると退職金何かの手当てが一気に増えるんです。自分みたいなのはこれ以外に大金稼げる機会は無いですし、田舎に親類が放置してる休耕地があるんで、それを買って、耕してひっそり1人で暮らすんです。犬も飼います。あと、金魚も。水彩画も描きます」
ん~~っっ、手強いな。
これにユーレアが、
「あたし、実家は冒険者稼業何だけど、ハーフエルフって寿命長いし、ある時期、8年くらい? 遠縁の人達が人里から離れてやってる機織りの仕事を手伝ってた事ある」
初耳?! ユーレアが機織り? 革の縫製とか、鋲とか打ちまくる仕事なら想像できるがっ。
「静かな暮らしだったよ。初めて気持ちが落ち着いた気もしたし、ハーフエルフばっかりの環境で、年月の流れの違和感も無かった。でも、ある日、ストレートのロングフット族のよくしてくれた親戚の人が亡くなった、て知らせが来てね。元々ロングフットにしては高齢だったんだから、8年も経ったら何も不思議じゃないんだけど、そんなバカなっ! てね。だって、昨日の事みたい何だよ? 呑気なエルフの血が」
鍛えても華奢なユーレアは腕を擦る仕草をした。
「時を忘れさせていたんだ。でも、時間は見逃してくれないから。焦り過ぎるくらいでちょうどよかったんだよ。今は今、できる事をやろうと思ってる。前向きじゃないよ? いつか本当に老いて、色んな人を昨日に置いてきて、速くは動けなくなった時、思い出で自分を守ろうとしてる。レトレト、あんたは短い命のロングフットだけど、静けさに逃れるつもりなら、逃げきれない。と忠告しとくよ」
「・・っっ。ユーレアさん! ううっ、自分っ、自分っっ、ホントは一人前になりたいんです!!」
黄昏のバルコニーで泣き出す
レトレト。
「そうかい・・マサル。ハグしてやんな」
「俺ーっっ??!!!」
いや、ハグしてみたけどさ。めっちゃ抱き付かれて泣かれたわ。何コレ??
日が変わっての廃教会でのインプ狩りでは、レトレトが人が変わったように前に出まくって逆に俺達は焦った。
「レトレト! やる気出しゃいいってもんじゃないってっ」
レトレト狙いでインプ達が放った氷の基礎攻撃魔法アイスシュートを鉄亀スキルで防ぎつつ、首筋を狙って飛び付いてきたのを鉄剣で斬り捨てる!
「了解ですっ、どりゃあーー!!!」
言った側からサーベル振り回してインプ達に突進するレトレトっ。俺は囲まれてて動けんっっ。
「ラダ! 援護だっ」
「どうしたんですかっ? 彼は!」
「ユーレアに聞いてくれっ」
「知らなーい」
それなりに慌てたが、廃教会のインプ退治はどうにか無事に済んだ。
・・その夜、砦に来たお偉いさんのおこぼれで俺達も例の茸の料理を食べられたが、美味い事は美味いが癖強かったな?
夜が明けて、俺達は朝一の便の貨物竜車の荷台一角に無理矢理乗り込んでいた。
「雑務とレトレトの事、ありがとうねーっ!」
「また鍛えに来いよ~っ!」
「ユーレアさーんっ!」
「「「うぉーいっ」」」
サトサトさんとレトレトだけでなく、指導官や顔見知りになった砦の兵やその他の職員達がいくらかは見送ってくれた。
「じゃあなーっ!!」
「やる気は結構ですが無茶は程々にーっ!」
「自主トレもするぞぉーっ!!」
「キノコ美味しかったですぅ~っ!!」
「・・・」
ユーレアはなぜか、遠ざかる砦に軽く手を振るだけだった。
「いや、ユーレア。めちゃレトレトに懐かれたな? 惚れられたんじゃないか? ははっ」
「バカね。水鳥の子供みたいなもんだよ。でも、あたしも喋り過ぎたわ」
立ち入ってあれこれ話した事がこそばゆくなったのか? ユーレアはやや赤面して野営外套にくるまって、荷台の端で早々に仮眠を取る構えをみせた。
ふふん。時間は見逃してくれないから、か。
俺達の事、覚えててくれよ? ユーレア。




