20話 蛙達のララバイ 4
地下1階の後半から徐々にダンジョンバット亜種が飛び交いだし、俺達の出番となった。
地下2階の天然の洞窟を利用した空間に入ると噂のスワンプパイソン達が現れだす!
ダンジョンバット亜種は通常種より一回り小柄だが動きが結構速い。
スワンプパイソンは一つ目の大蛇。名前の通り湿地や沼等の泥の中を好む性質をしてる。毒は厄介だが、それ以外は単純に『鶏を簡単に丸呑みするサイズの蛇』だ。
ただここに出るスワンプパイソンは攻撃性が異常に高かった。
前衛の俺とギムオンは最初は手堅さや手数優先で盾と剣&サックで応戦していたが、地下2階になると急にフロアが開けてきたので対応を改める事になった。
鉄の穂先の槍と頑丈な三節棍に持ち替えた。距離が開けば汎用クロスボウと投石も使うっ。
「よいしょっと!」
さすが鉄製っ。ダンジョンバットを紙を裂くよくにスパスパ切り、表皮の硬いスワンプパイソンもまぁ『太い人参切るくらいの感じで』切断できる。
ちょ~と数が多いのと蛇の方は攻撃が激しく、突きは打ち難いが立ち回りはやり易い。
「ふんっ、ふんっ」
ギムオンも三節棍の間合いの広さと自在さに怪力を乗せて、ガンガン駆逐していた。
ユーレアは主に蛇からアズマンとモーリンを守る事に専念する事になった。ヤポポに覚えたてのクィックの魔法を掛けてもらった上で、
「執拗過ぎっ」
と文句言いつつ、パチンコと暗所暮らしだから有効な光り玉と時にはロンデルを器用に使い分けて、加速にも対応し曲芸のように護衛する!
ラダとヨポポは魔法石の欠片を共有しつつ、連射しやすい風属性のウィンドショットや押し退け効果の高い土属性のロックショットを撃ちまくっていた。
後衛組は守りの腕輪があるから、前より動きが大胆だ。
一方でアズマンも、
「はい! それっ」
と細剣で反撃し、モーリンは蛇と蝙蝠、両方に効く拘束魔法のバインドを連発。
それぞれ役割分担をして効率よく撃破、進行し、道すがら魔除けの蛙像も補修してゆく。
上手くいっていたが、途中で戦闘と補修の両方をやってるラダがやっぱバテてしまい、下階で灰を撒いたくらいだと厳しいので一番近い整備済みの魔除けまで引き返して休憩を取る事になった。
「・・いつかのゾンビは食欲と使役の結果向かって来ましたが、今回の蛇は『憎しみ』の感情が込められていて、倍疲れますね」
眼鏡を外し野営外套の上に寝かされ、ポーションと魔法石の欠片に加え、額に濡れ布巾を当てられて大人しくしているラダ。
「あと3割くらいですよね? 頑張りましょう、ラダ! んぐんぐっ」
弁当の香菜と川魚のスモークのピラフ3人前をモリモリ食べながらハーブ水をゴクゴク飲んでるヤポポ。頑丈っ。
小一時間でラダが回復すると再出発したが、その後もそれなりに大変ではあった。毒はアクセサリーで防げたが、蛇に噛まれたり、噛まれたり、噛まれたり、噛まれたり・・いやトラウマになるわっっ。
だが何だかんだで乗り切った!
「この部屋で雨蛙の魔女は眠っておられるのですぅ・・」
最奥の間の前までたどり着いていた。
「ゲーコ、我々が秘密の厳守を自覚せざるを得ない理由でもあるんだ」
「?? 遺骸を納めた墓がある、って事?」
廟だからそりゃある気はしたが、どうも様子がおかしいような??
アズマンが古びた『蛙っぽい鍵』で扉を開けて中に入ると、
「クゥゥウ・・・クゥゥウ・・・」
苦し気な寝息。それを慰めるように、部屋の至る所で蛙達が悲しげに鳴いている。
「これが、雨蛙の魔女?」
想定した墓ではなく、奥の中央の巨大な台座に『巨大な岩のような蛙』が眠っていた。
その眠る岩の蛙は古典的な魔法使いが被るような、しかしこれも巨大な、埃まみれの円錐形の帽子を被っている。
岩の蛙の身体には数十の『蛇のような黒い靄』が絡み付いていた。
「ゲコ・・あの呪いの蛇達が雨蛙の魔女様を魔物に変えようと呪い続けているのです」
「雨蛙の魔女はああやって『眠り続けることで確定した死を直前で回避し続けている』死んでしまうと、呪いの効果で完全な魔物に変えられてしまうからな。ゲ~コ、むごい事だよ」
「あの姿も呪いによる物ですか?」
「それは我々の間でも意見が別れてる。『守りの体勢を取っている』という見解と『魔物に変わりつつある』という見解だ。だが、どちらにせよ、彼女にとって不本意な姿である事は違いない」
「ここでの彼女の『永い眠り』は秘密なのでぇす・・」
しばらく雨蛙の魔女の眠りを見ていたが、程無く近付き過ぎて呪いが反応しないよう気を付けながらこの部屋の魔除けの補修を始める事になった。
ラダ以外はもう仕事が無いので掃除をしてみたり、ヤポポは雨蛙の魔女の魂が安らぐよう祈ったりした。
雨蛙の魔女の廟の警護クエストそれ自体はやるせないまま、静かに完了となった。
さらに翌日。
止まない小雨の中、ケルピー達と船首に魔除けを取り付けた小舟のちょっとした船団で、俺達とアズマンとモーリン、トーノサマ郷の楽団員達、それから里長を始めとした郷の足腰が健康な大人達は、廟の小島に次々と乗り付けた。
昨日の何倍もの蛙達が外にも大勢出てきて迎えてくれる。
全ての雨の楽器は雨に濡れ、輝いていた。
廟の順路は補修完了済み! 蛇と蝙蝠も近付けない。問題無く全員無事に雨蛙の魔女が眠る部屋までたどり着けた。
「・・・では、忘れられし、我らが主の為に、願わくは、楽しき夢を音色に変えて」
モーリンが持ち込んだ板を簡単に錬成して作った即席の指揮台に立ったアズマンが口上を述べると、騒がしかった蛙達が一斉に静まり、雨の楽器を構える楽団員達。
浄めの曲の演奏が始まった。
それは思いの外、いいや、俺達がイメージする通りの明るく楽しげな雨蛙の魔女のメインテーマだ!
眠る岩の蛙の苦し気な顔がほんの少し和らぐ。
『雨蛙の魔女は大きなお口。どんな悲しい事も一呑みだぞ! ゲッコゲコ、ゲコゲ~コ。頼もしい蛙の『しもべ』達が今日も素敵な音楽を奏でてくれるよ?』
百編を越える他愛無い物語はこんな献身的な嘘に支えられてたんだな、と思い、思わず目頭が熱くなったが、既にギムオンとユーレアが大泣きしているので俺もラダもヤポポもちょっと取り残されちまった。
というかユーレアも泣くのかよ。
「・・・」
ま、それはそれでよし。全ての演奏が終わると『靄の蛇はほんの数匹』岩の蛙から引き剥がされ、消滅していった。
永い仕事さ。
マーリク市の樫木亭の大部屋に戻った俺達は何だか呆然とするしかない。
それでもだ。
「・・報酬から装備の補充や更新と何だかんだの費用を差し引いて、少し余りそうだから雨蛙の魔女の童話か何かを買って初等教会学校とかに配ってみるか? たぶん50冊くらいは買えると思う」
綴じ本は結構高いからそんなもん。だが、これは提案せずにはいられなかった。
「だったら古本で200冊買っとこう! 普及させ過ぎくらいでいいわっ」
「お~、それな」
「賛成です」
「今回は御馳走を諦めても実行しましょうっ!」
「ふむ、手分けしよう!」
俺達は平服の上からレインコートを着て、古本屋巡りに繰り出した。
なるべく状態のいいのをゲットしないとな? よーし、ゲ~コゲコっ、だ!!




