16話 ヒロシ伯父さん
マーリク市は雨の中、だ。
「ユーレア絶対、イカサマしてましたよね? 以後、不正を阻止しないとっ」
「だな~」
俺とラダはカードゲームでユーレア&ヤポポチームにボロ負けして、全員分の蒸し饅頭の買い出しを命じられていた。
因みにギムオンは俺達が定宿にしている樫木亭の納屋の修理を頼まれていて、不参加。
ギムオンは動体視力がかなりいいから、ユーレアのヤツ、ギムオン不在時を狙っての犯行だな・・
普段、野外活動する時は2人とも撥水革のレインコートだが、今はホカホカした蒸し饅頭の紙袋を片手に抱えるから宿で借りた薄革の傘を差してる。
もって回った事をしているのは買った饅頭は肉入りスパイシーなヤツで、収納ポーチに入れると、中が『スパイシー臭』に汚染されるからだ!
ラダの不満や今後の対策案を延々と聞き流しながら、来た時は祭りかと思ったがすっかり見慣れたまった、雨のマーリク市内をトボトボと歩いて樫木亭の前まで来た。
「お! カード、ツイてなさ過ぎコンビが帰ってきたよっ」
「饅頭が帰ってきたぁ!」
3階の道沿いの窓から勝ち組2人がワーワー言ってきやがるワケよ。
2人で、こんにゃろ~、と思ってたら、
「おーい、ご苦労さん。俺の分もあるか? 代金払うぜ?」
ヒロシ伯父さんも窓から顔を出してきたっ。
「あれっ? 伯父さん、マーリクに戻ってきてたんッスか?」
「おう。というか、マサル! お前に色々言っておく事があるぞ?」
「あ~・・」
思い当たるフシ、あるなー。
取ってる大部屋で皆で饅頭を齧る。
部屋は個室が1つあって、そこが女子2人の寝室。男子は2つあるベッドをギムオンとラダ。俺はハンモック。
男女別の部屋を取るより安くつく。どうせ風呂屋は別だし。混んでる時は別々だが、今回は上手い事取れてた。
「じゃ、僕はギムオンに差し入れしてくるから」
「おう」
「ついでに一階でルートビア買ってきて。ビターなヤツ」
「わたしはスィートなヤツで!」
「・・ま、いいですけど。奢りませんからね?」
仏頂面でラダはギムオンの分の饅頭を持って部屋を出ていった。
「さて、甥っ子よ」
俺はヒロシ伯父さんが座ってるソファの前に置かれた椅子に座らされていた。
「まず、衛兵の口の件については悪かった。すまん」
頭を下げる伯父さん。うっ、これはこれで気まずい。
「いや、俺も確認が甘かった。ていうか、貴族云々は伯父さんじゃどうにもならないだろうし」
「マサル、怒る時には怒らないと、損ばっかしするよ?」
「そうです! 地母神様の教えにもありますよ?『汝、右の饅頭を取られたら左の饅頭は取られる前に食べよ』とっ!」
いやいやいや、
「ちょっと、2人は黙ってくれよ。得にヤポポ!」
「むぅ~っ」
俺は咳払いをして言う事を整理した。
「ギルドのメモリーオーブ(閲覧者を指定できる)にも残しといたけど、俺、これで良かった気がしてるよ。その、やりがい、というか、村で見れない景色も見れて。勿論、馬番も勉強になったし、それで、その、迂闊気味だったりはちょいちょいしたりはしてるけど・・だから、つまり」
「マサル」
「はい」
伯父さんは真っ直ぐ俺を見ていた。正直、身内のヒーローだから『ひょええっ』て感じだ。
「俺みたいに何て思わず、やるならやるで自分なりにやってけよ? あと、土壇場で慌てるな。いや、慌てても落ち着け。できるか? マサル」
「うッス」
少ない場数で既にその辺は結構思い知ってる・・
「よし! じゃあ改めてお前の母さんにも俺から言っといてやるよ。この間倒した『グレーターデーモン』より手強そうだがなっ」
「いや、普通の村人何で!」
そう、親族の中で母親だけはまだ心配して大反対してる。母さん、同席する機会があっても知らん顔してるけど伯父さんのファンで、俺の事は『めちゃ普通の子』と認識してるもんな。
普通は普通何だけどさ。
話の済んだ伯父さんは饅頭を食べ終わると、ギムオンと雑談してたらしいラダが戻る前に竜革のレインコートを着てサッと宿を出て行っちまった。
「噂より、結構イイ男じゃん?」
ルートビアのグラスを片手に顔が緩んでるユーレア。なぬっ?
「ユーレア、俺の親戚だかんな?『女の顔』になってんぞ?」
「なってねーしっ! つかっ、元々女だし! はぁ? 自分もトトミーの民族衣装チラチラ見てたろ?!」
「はぁ~~っっっ?? 意図的には見てませんっ。視界の中にトトミーがいらっしゃっただけですけどーっ?! 服に関しては『はいはい、これは布の服ですね。守備力は低いようです』としか認識してませんーっ!!」
「フカし過ぎだろうがぁああーーーっっっ??!!!」
しばらく論戦になった雨のしつこい雨季の1日だった。




