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1話 転職の誘い

馬達の(いなな)き。

メジハ村で唯一の馬借と荷馬車業を営む店に就職してはや半年。取り敢えず馬房(ばぼう)のニオイは慣れた。


「よーしよし、今日もナイスな毛並みだぞ?」


何て言いながら馬にブラシを掛けてやってると、


「マサ(ぼう)! ちょっと出てこいっ」


親方に呼ばれた。


「坊は勘弁して下さいよ? 俺、15歳になってるッスからねっ? 成人ッスよ!」


抗議しつつ、ブラシを置いて馬房から出ると、簡単な造りのメジハ村の東門の魔除けの門を潜って、騎竜(きりゅう)に乗った戦士系職らしい男が入ってきていた。

他の従業員も何人か出てきた。男より騎竜が珍しがられてる。特別料金を取れる上客だしな。がっ、それよりも!


「ヒロシ伯父さんっ!」


「お~う、マサルだ。マサルが就職してら」


「いや、俺、普通の村人何で学校卒業したら普通に就職しますけど?」


「道理だっ、ははは」


この呑気に笑ってる騎乗の人は冒険者ギルドに登録してる3級付与士(ふよし)職のヒロシ・ヒースヒル。俺の父方の伯父に当たる人だ。

年に何回か、前触れなくフラっとメジハ村に帰ってくるんだが、前回来たのは去年の夏で、俺はまだ中等教会学校の生徒だった。



その後、俺は店を早上がりさせられて(わりと不本意!)メジハ村に3店ある酒場兼食堂の中でも冒険者ギルドの割引の利く『銀クローバー亭』で伯父さんにちょい早めの昼食を御馳走になる事になった。


「お~これこれ!『メジハ村のメルメル鶏定食』っ! 味、ボリューム、品目構成、値段、全部普通!! この普通がここだけ何だよな~~。頂きますっっ」


どうせならベスドーア牛のカツレツとか、高いのが食べたかったけどそうもいかないので、旨そうに食べだす伯父さんと同じ鶏定食を頼んだ俺。

これは『普通に実家の夕飯で出てくるヤツ』何だけど・・


「神に感謝します。御馳走になりまーす」


ざっとお祈りしてから俺も食べだす。


「っ!」


うん、改める。同じ料理でもさすがに家で出されるのと比べるとシンプルなりに手間が掛かってて旨いな、と。

それでも、


「・・伯父さん、昼飯なら家で食べたらどうッスか? 婆ちゃんも喜びますよ?」


「いいかマサル。家の飯と地元の飯は全く別物だ! それに『親戚のオッサン』が昼から行ったらお前のママが煩わしいだろ?」


「ああ、まぁ」


わからんでもない、か?


「ヒロシ伯父さんはまたしばらくメジハ村に居るんッスか?」


「いやギルドの仕事(クエスト)の途中で寄っただけだ、明日の朝には立つよ」


「え~」


慌ただしいな。だから飯に誘ってくれたのかな?


「ところで、マサル」


「ふぁい」


鶏、旨っ。やっぱ下処理だな、と思いながら顔を上げる。


「お前、衛兵に転職しないか?」


「え?」


思ってもいない話だった。



ヒロシ伯父さんの話によると、俺達が暮らしている領で一番大きなマーリク市の衛兵の口に空き出たらしい。


『生きのいいのを紹介してくれ』


と頼まれていた伯父さんは、馬房から出てきた俺を見てふと思い付いた、とか。


結構気紛れだ・・


定食を奢ってもらったその日の内に親や婆ちゃんと相談してみた。


「いいんじゃないか?」


「まぁ若いしね」


「都会行くの? お兄ちゃんいいなぁ!」


「私が若い時は隣の領と揉めてたけど、今は平和だからねぇ。衛兵の方が給金はいいんだろう?」


思い外肯定的! マジで??


翌日、


「じゃ、受けるなら早めに役場に問い合わせるといい、その時の旅費は婆さんに渡した金を使え。あと、無理に言ってるワケじゃないからな? 馬番もいい仕事さ」


さっさと伯父さんが出立すると、どうしたもんかと店の親方にも相談してみた。


「若いんだから都会に出てみろ」


これまた肯定! 他の大人や知り合いも大体そんな感じ。ええ~?


そうこうしてる内に、伯父さんが来てから5日後には俺はいつの間にかメジハ村から送り出される事になった。


「達者でな~!」


「連絡するんだぞ?」


「仕送り期待しておるぞ?」


「お兄ちゃん、何か都会の珍しい物送ってねー!」


東門から皆でお見送りだよ。


「・・大丈夫、か?」


旅装の俺は門から出て、伯父さんに書いてもらった紹介状を手に呟く。


村の役場で有料(高い)の水晶通信(すいしょうつうしん)で確認してもらったけど、確かに衛兵の口は有り、伯父さんの紹介も了解されていて、取り敢えず市まで来い、という事にはなってた。


「まず俺、都会に出たかったっけ??」


一応、教会学校の『体育』の成績は学年上位だったし、ヒースヒル氏は戦士系職がわりと出る家系ではあるんだけど・・


「よ~し、よしっ。まぁ何とかなるさ! イケる気がする! 俺、15だしっっ」


薄い根拠しか無かったが、とにかく俺はとぼとぼ徒歩で旅立つことになった。

もうちょっと真面目に村の自警団の訓練に参加しときゃよかった、何て思いつつ。

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