言い伝え
近くにあった寺は、この子どもを法要するために嫁いできた尼が建てたという話らしい。
そして、当時から不穏な昔話があり、寺を建てた尼が残した手記には、七五三の時期になると、その歳になった子どもが夜に寺をひとりで訪れて、合掌を捧げ、一晩泊まり、夜が開ける前に自宅に帰る。と書いてあった。
そして、村の農民が残した手記には、その間両親は、唯一になった息子・娘を探しに村を奔走し、尼にも相談するが、「家で帰ってくることを願っていなさい」と冷静に言い、信じられない気持ちを持ちつつも、神様からの伝言だと信じ、自宅で待っていると、布団で子どもが寝ていた。
その子どもに話を聞いても、「そんなことしてない」とか「わからない」と繰り返し、話にならず、気づけば、村で七五三を迎えると、一晩だけ子どもが神隠しに合うが、ちゃんと神様は子どもを返してくれると言い伝えに残ったそう。
そして、とある年に家族一家が急に姿を消した話もあって、詳しくはかかれていないものの、夜中に怒鳴り声が聞こえたのが最後、翌朝から一家の姿を見たものは誰もいないとのことだった。とかかれてある。
私にはどうなっているのかまったくわからないが、なんとなく、この話がなにかしら絡んでいるんじゃないかと思い始める。
なにが原因かはわからない。だけど、少なくとも絡んでいるんじゃないかと思うだけ。私邸に戻ったら、この話をムーナにしてみるか。
事件に関係あるかどうか不明だけど。
列車はまだ疾走を続けるようで、私は一度、考えることをやめ、酒を楽しむことにする。
「なるほどね。そんな昔話があったんだ。でも、それ、何年前の話よ。相当古い話なんじゃないの?」
列車を降りて、私邸についたあと、ムーナと食堂で列車の中で考えていたことを話していた。
「あぁ。詳しい時期は書いていなかったが、飢饉って書いてあったから、少なくとも、食料事情が安定しだした1950年より前の話だとは思う」
「またすごい昔の話だね。その話が、関係していると思ってるの?」
「まだ、予想でしかないがな。ただ、この話に何かあるんじゃないかと思う」
「なるほどね。とりあえず、その話を明日持っていくよ。今日はもう疲れちゃった」
まぁ、それは仕方ないか。私も朝から振り回し続けていたわけだし、列車の中では私が起こすまでグッスリだったんだから。
一晩明け、ムーナは朝食を食べるとすぐに警察庁に行き、私は、事の報告をしにクラシアの官邸へ出向く。
「悪いな朝から。それと、昨日、一昨日と済まなかった」
「本当にな。急ぎの公務がないとはいえ、急遽、アジトに帰らせてくれなんて。緊急なことが起きたらどうするつもりだ。とはいえ、お前にも何かあったんだろ?その報告だと思うが」
「私の考えていることなんてお見通しか。まぁ、その通りで、うちのムーナに警察庁から支援要請があってな……」
そこから少し私の話が続き、休みを取った理由と調査報告をする。
「そうか。一応、こちらでも、警察庁からの日報報告で誘拐事件があることは聞いていたが、そんな経緯があったんだな。承知した。また何かあったら報告してくれ。あと、ムーナの調査費は政府でもつから、経費にかかったものをまとめて提出してくれ」
「そんなのいいよ。どうせ、私もムーナも、誰も面倒くさがって、自分の懐から出すよ。どうせ、そもそもの金がかかっていないんだ。ほかのやつらに『普段どうしている』って突っ込まれるのも面倒だからよ」
「ふん。頑なだな。まぁいいさ。お前がそういうなら、そうしたらいいさ」
クラシアはそう言うと、書類を1枚手に取り、面倒くさそうに眺める。
「お前さんもやることが多いもんな。邪魔をした。これで失礼するよ」
それだけ言って、ソファから立ちあがり、そのままドアの方に向かう。
「また馬鹿なやつらが法案を出してきていたから、しばらくは忙しくなるぞ」
去り際に言ってきたクラシアの言葉に少しドキッとしながらも、「わかっているさ」と強がって答え、そのまま官邸を出て、私の職場へと向かう。
まぁ、少しは覚悟してアジトに戻った。どれくらい積み上がっているかだな。なんて思いつつ、執務室のドアを開ける。
そして、私がいなくてもポイポイとポストに放り込まれた法案は、ゆうに200ほど。
ストレスで剥げるかもな。なんて思いながらも、ひとつずつ裁いていく。
と言っても、提出しときた議員の名前と所属、法案の内容に目を通して、国民にたいしてメリットのある法案にたいしては、クラシアのもとに送り、本人や、その所属先にしかメリットのない法案はすぐさま発案もとに送り返す。ずっとそれの繰り返しだ。
しょうもない発案のせいで1日外に出られないのは何回もあるし、外交も私の担当でもあるから、その間煮詰まれちゃ、フラストレーションも溜まる一方。
よく爆発しないで耐えているよ。なんて思いつつ、今日もたまった書類を仕分ける作業をする。




