久々のアジト
「このあたり、何も変わってなくて安心した」
「そうだな。ただ、そうそう変わることはないだろう。まぁ、言っているうちだろうが」
「かもね。職を失った若い男の衆に行政が建物を作らせたりして仕事を与えているわけだし、いつまでもどこの街もこの街並みが残るってことはないんだろうね」
「いや、そうでもないぞ。アリアスもクラシアも考えていて、私とナターシャも巻き込まれたが、4人で観る審査に合格すれば支出した金額の最大50パーセントを戻すって言う景観保護法を改正したからな。そう簡単に古い街並みを壊すことはできないはずだ」
「ほんと、感染症が起こってから、いろいろ変わっちゃったね」
「一番は、私たちが元気な体で日々を送れていることだよ。感染症にかかってしまえば、どうなるかわからないしな」
「そういえば、この前の環境会議を傍聴席で聞いてきたけど、うちらの国だけうまく行きすぎだって言われたよ。菌もお前たちの国で生成しただろなんて身に覚えのないことを言われたよ」
「まぁ、そりゃそうなるだろ。実際にこの国が一番小さい被害だったんだから。まぁ、クラシアの英断が光ったってところだじゃないか?」
「あとは、レイチェルさんの行動力とね」
「そのせいで私たちの財産は空っぽだけどな」
「まっ、そうだね。でも、着々とまた増えていくでしょ。この職に就いている限りは、ほとんどを公費で賄えるんだから」
「こういうのは賄えないけどな」
そんなことを話しながら、人通りの少ない街の外れまで来ると、久々にアルカイックランを私とムーナにかけて、30分ほど走り続けると、兼平山のある私たちのアジトに到着だ。
「ほんと、何カ月に一回のペースでしか戻ってこないから、いつ来ても懐かしいと思ってしまうね」
「だな。さすがに、野生動物に荒らされているとは思うから、一応、見回りだけしてからキッチン集合でいいか?」
「一番は、格闘場に野生動物の残骸が集まっていると思うけどね」
「それは同感だから、格闘場は最後に一緒に見ることにしよう。風呂場を見てきてくれないか?私は個室とキッチンを見るから」
「一応、食糧庫も見ておいた方がいいんじゃない?もし、春に残していたなら、ネズミとかにやられているんじゃない?」
「あぁ、そうだな。食料は置いてなかったはずだが、一応見ておくか」
「それじゃあ、またあとでね」
ムーナはそう言うと、スタスタスタと階上へと続く坂を軽い足取りで登っていった。
相変わらず身軽な奴だな。なんて思いながら、私はデパーチャーが寝床として使っていた部屋が荒らされていないか見ていく。
……見た感じ、人間が入ってきた形跡も記録もないし、動物が個室に入ってきたというデータもない。
まだ私たちのアジトという認識だから、誰かに入られるのはさすがに気分はよくない。そんなことも考えて、今回は防犯装置を働かせたまま帝都に戻っていた。
ただ、それは、個室までたどり着けなかったというだけで、入り口に仕掛けた防犯装置のデータは、かなりの野生動物が落とし穴にかかり、格闘場で息絶え、ほかの動物の食料になったりしたようだ。まだすこし生存反応がある。
ただ、この小ささなら、熊やイノシシと言った類ではなさそうかな。なんて少しのんきなことを思いながら、すぐ隣のキッチンを見る。
……うん。ここも見た目は問題ない。私たちが出てからそのままだ。
そう安心すると、あとは早い。
ムーナも戻ってきて、多少誇りが積もっていること以外はなにも異常なしとの報告を受け、私もムーナもキッチンでさっと夕食の準備をする。
「あっ、そうだ。ムーナ。まだ見てない格闘場だけど、どうやら、野生動物が落とし穴に落ちて、そのまま死んだり、肉を食われたりしてるみたいなんだよ。それだけだったらいいんだが、厄介なことに、まだ小さな反応があってな」
「駆逐するってことね。そりゃ、もちろんでしょ。そんなに仲良くしていたいわけないし」
「だろうな。お前が一番嫌いだもんな。飯を食ってからでいいと思うが、それでいいか?」
「もちろんだね。なんなら、ご飯食べる前にでも駆逐したいくらいなんだけど」
まぁ、ムーナらしい答えっちゃ答えか。ここはムーナに任せると、水魔法の過剰攻撃に出そうな気もするが、それでもいいか?きれいに野生動物の血を洗い流してくれるなら。
というか、私が討伐に出るよりは、ムーナに一掃してもらうほうが一番シンプルで速いし、きれいに終わるんだよな。なんて思いながら少しばかり考える。
「先に討伐したいならして来い。食事は私が作っておくから」
「そう?なんか、動物がいるって言われたときから、身体がむずむずして仕方なくてさ。エルにそう言ってもらえると、何も遠慮なくこのムズムズも洗い流せそう」
ムーナはそう言うと、豪快に水魔法を使い、動物の肉から骨から血まですべてを洗い流していく。
その強さは、クラシア達と対峙しているときと同じくらいだと魔法技が流れる音を聞いて思った。
ということは、それほどムーナは気味悪がっているということか。
それなら、先にここをやってもらうべきだったな。なんて思いながらも、料理をしながら思ったが、順番が後か先化だけだ。あまり気にしないでおこう。
そして、ムーナはすっきりした顔で戻って来て、「これでよし」とだけ言ってきた。
その言葉に思わず笑いをこらえきれず、噴き出してしまった。




