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4.デパーチャー

 窓際に立つ女=ルーカス・クラシアは月が浮かぶ夜に笑みを浮かべていた。

 ようやくここまで来ることができた。ここまで本当に時間がかかった。

 あとはエルトゥーヤ・エディーナただ一人だ。ここまで来たら、捕まえるまで時間の問題だ。どうせ、逃げ切れはしない。下手に行動すれば国民に見つかるだけだ。

 そう思っていると、執務室のドアがノックされる。

「誰だ」

「アリアスでございます。本日の調書です」

「入れ」

 直属の部下でもあり、特殊攻撃部隊のアリアスが捕らえたスノードロップの取り調べの調書を持ってきたようだ。


 反政府勢力のやつらは戦闘の時に殺したり、捕らえた後ですぐに処刑したりしてもよかったのだが、そうすると人権団体がさらに騒ぎ出す。そういうことを防ぐために、形上はちゃんと調書を取ることはする。

 ただ、今回に限っては、別の意味合いも兼ねている。

 こいつらは私たちデパーチャーを除く最後の魔法使いエルトゥーヤ・エディーナを捕えるための餌になってもらう。


「クラシア様。お待たせいたしました。本日の調書です。とはいっても、昨日までと同様、白紙でございますが」

「いい。白紙でもやったことに意味がある。何かとうるさい奴らがいるからな」

「左様にございますね」

アリアスはやはり世の中のことをよく見ている。

「調書はそこに置いておいてくれ。また後で目を通す」

「考え事ですか」

 やはり、アリアスは私の表情で物事を読み取っている。今回もバレているみたいだ。

「少しな」

「スノードロップのことでしょうか?」

「そうだ。なぜ。あの日戦闘状態に入ったのか。ムーンライトの予測日から1週間ほど遅れて。しかも半月に近い日に。やつらは新月の日に攻撃してくるんじゃなかったのか?」

 それは、スーパーコンピューターのムーンライトからはじき出した計算結果だ。それに合わせて私も帝都の警備を強化したつもりだった。

 しかし、それをあざ笑うかのようにやつらは現れず、警戒態勢を解いた翌日に襲撃してきた。

 警戒態勢を解いたのは、ムーンライトからは確率が0%と表示されていたからだ。それなのに、なぜ。

「またムーンライトに分析させますか?」

「それも必要だが、なぜ警戒態勢が解かれることを知っていたのかが謎だ。そうじゃなければ襲撃などしてこないだろう」

「左様にございますね。ただ、協力者がいたということは頭の片隅に入れて分析させたほうがよさそうですね」

「そうだな。アリアス、明日の私の予定はどうなっている?」

「確認いたします。……面会等、1日を通して予定はございません」

「そうか。ありがとう。明日、ムーンライトに来てもらって分析をしよう。警視庁に任せるより私たちでするほうが早いだろう」

「左様にございますね。それではそのように手配いたします」

 あぁ、頼む。それだけ返すと、アリアスは執務室から立ち去った。


 スノードロップ。最初に聞いた時は他のグループと変わらないだろうと思ってみていたが、実際には、高度で強力な魔法技を使う上に、あまりにも野蛮で、私たちデパーチャーの脅威になった。

 最初のころは、スノードロップ以外にもいろいろ反政府グループがいた。しかし、あれほど強力な魔法を使うグループは初めてだった。

 今思い出しても背筋が凍る思いだ。

 あの狂気に満ち溢れた顔。それぞれが繰り出す魔法に怒気を感じたこと。そして、必ず殺してやると言う目。油断すると一瞬で私たちが命を落とす。

 だから、奴らと対峙するときは細心の注意を払っていた。

 それも、反政府勢力を捕えだし、処刑・拷問で数を減らしていくと、反政府勢力にかける兵の数に余裕ができ、スノードロップにも充てることができた。


 今ではほとんどの防衛部隊がスノードロップと対峙する。数で言うと、5千対4。それでも、互角だということがさらに私の怒りを買う。

 早く潰さなければ。そんな思いが強くなって、空回りしかけることもあった。

 しかし、アリアスが冷静にムーンライトで分析をかけ、襲撃パターンがあることを知った。

 そして前回。同じようにムーンライトで分析させた結果をもとに、兵を配置させた。しかし、やつらが襲撃してくることはなかった。

 さすがに、警戒する兵の数を感じて諦めてくれたかと思った。しかし、違った。油断した後にあのざまだ。なんとか兵をそろえて、対峙し、ようやく互角。いや、あのときは少し不利な状況からだんだんと有利な状況に変えることができたか。それで1匹逃したものの残り3匹をようやく捕獲。足踏みしていたところから一歩進んだような感覚に襲われた。

 さて。そろそろ調書でも読むか。といっても、アリアスがほぼ白紙と言っていたから、実質、眺めるだけ。というほうが正解だろうな。


 今日の調書も案の定白紙。

 ここまで来ると、調書を取るほうは大変だろうな。何をしゃべっても8時間ずっと無言なんだから。

 ほぼ白紙の調書を別の机に置くと、いつも仕事をする机に腰掛ける。

 あとは奴だけ。どれくらいの時間で捕らえることができる?

 アジトがわかるなら、すぐにでも捕獲できる。しかしながら、そこまでの情報がない。

 敗走していくたびに兵を追いかけさせるが、魔法て身体能力を上げているのか、いつも見失ってしまう。

 情報庁で情報を調べても何も出てこない。こうなった以上、私たち政府の人間でもお手上げだ。どこから情報が漏れてくるとラッキーなのだが……。

 考えていても仕方ない。少しでも溜まっている仕事を片付けていくか。

 スノードロップの騒ぎのせいで、仕事が相当溜まってしまった。そんなことを思いながら、ひとつひとつの資料に目を通していく。


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