新年度P10
「その担当は誰だ?」
「えっと、防衛省のシステム管理部と聞いておりますが……」
「私にはそのような報告は一切届いていないぞ?アリアス、お前は聞いていたか?」
ここで火の粉をかぶることは避けたいところです。ただ、幸いなことにわたくしも初耳の事象です。ここは潔白を訴えるしかありません。
「わたくしも初耳でございます。ほかに知っているものがいないか調査しましょうか?」
「いや。そこまでしなくていい。国家運営に影響がなくても、防衛省には、いかなる損失・消失があれば、首長まで報告という義務があるはずだし、規則もあるはずだ。あれから半年がたとうとしているが、なにも報告がないのが私は許せん。はぁ。半年で2回の処分とは情けない。私の指名責任も問われそうだな……」
クラシア様はそうおっしゃると、がっくりと肩を落とされました。
「とりあえず、今後のことは少し考えよう。ただ、ムーンライトの代替作成は国民業務に影響を及ぼす可能性があるから、そこは進めるか。ミランダ、お前からほかに話しておきたいことはないか?」
「いえ、とくには」
「そうか。いろいろな報告をありがとう。またなにかあれば頼むよ」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
短くそうおっしゃるとミランダ様は執務室から退室。室内には、クラシア様の深いため息が響きます。
「なんでこう、国の重要機関がこんなに汚職だらけなんだよ。もっとクリーンで規律の高い組織じゃないといけないだろうが。アリアス。すまないが、防衛省トップに連絡を取り、20時に執務室に来いと連絡を入れてくれないか?」
あぁ……。たいそうお怒りのご様子。これは、なにも触れないほうがわたくしの身のためでございます。
「かしこまりました。そのように」
わたくしは背中で悟られないように気を付けながら、逃げるようにしてクラシア様の執務室を後にします。
『はい、オクバードでございます』
耳をざわりと舐めまわすようなこの声。やはりわたくしは苦手です。お相手は、防衛省トップのオクバード・トルティネスさん。
わたくしの耳に入っている噂ですと、このお方もクラシア様のことを毛嫌いし、失脚させようと、元警視総監のウィリアム・ジェームズと共謀し、証拠を隠ぺいしたとのことです。
いろいろ調べようと、アリバイがしっかりしすぎていて、クラシア様も崩せなかったと悔やんでおられました。
「ご機嫌いかがでしょうか?オクバードさん」
『そのお声は、親愛なる首長様の一番お近くにいらっしゃるアリアス様ではあ~りませんか』
やはり、この言い方といい、舐められた態度。はらわたが煮えくり返ります。
「わたくしも忙しいので、単刀直入に申し上げます。本日の20時に官邸でクラシア様との面談を再度受けていただきますのでよろしくお願い申し上げます」
『ほう。かしこまりました。仰せのままに』
あまりこういった感情にはなることがないのですが、やはり、『ムカつく~!』というのが表に出てしまいそうになります。
それでもなんとか堪えて、通話を終えます。
……何でしょうか。本日、先ほどまでの面談のお時間よりも、たった数十秒の通話のほうが体力を奪われるのは……。
とりあえず、クラシア様のもとに戻り、このあとの指示を仰ぎましょうか。
お部屋に戻りますと、クラシア様が開口一番「伝えたか?」と聞いてこられましたので、「お伝えいたしました」と表情を崩さずにお答えします。
「やはり、あいつに苦手意識を持っているか。お前は相変わらずだな。そういう私も苦手だがな」
そう。わたくしもクラシア様もオクバードさんが苦手です。
というのも、自らの歳を重ねられるとともに、趣向が年下の若い女性と、また薄気味悪い趣味をしていらっしゃるからなのです。
その若い女性というのも、三十路のクラシア様や、5つ年の離れたわたくしも対象なうえに、デパーチャーの面々に気持ちの悪い目を向けてこられるのです。
正直、まだ仕事に慣れていないときにこのことを伝えられたあと、本人を目の前にしてその気持ちの悪い視線に嘔吐しそうになったこともあります。
それに、先ほどもお伝えした通り、オクバードさんは、クラシア様を敵対する派閥にいるのも事実。双方がともにいがみ合っている。そういった状態が、クラシア様が首長になられたときから続いております。
「あ~、こりゃ、更迭だな。私の手だけじゃ終えそうにもないから、エルトゥーヤと、スノードロップから力の強いやつを一人呼んでいてくれないか?」
クラシア様が端末を見ながらわたくしに申してきます。
「話を聞かずして、そこまでのことをされていたのですか?」
「あ?あぁ。まぁ、国防データの消失の責任も取らさねばいけないし、ミランダからたった今、メッセージとファイルが送られてきたのだが、国費の不適切処理が見つかったらしい。それを問い詰めてから本人を戦犯収容所にぶち込むつもりでいるが、まぁ、どうなるだろうな。私の中では、ようやく、私と敵対する派閥からトップがいなくなると思うと、喜々するな」
どうやら、それだけのことをやらかしている模様です。あまり、同席したくはありませんが、エルトゥーヤさんと、スノードロップ一の怪力を持つナターシャさんをお呼び出しすることになるでしょう。
そんなことを思いながら、副首長秘書のレベッカさんと連絡を取ろうとします。




