新年度P7
「なんか、朝から大変みたいだな。各省庁のトップが同じ日に集まるうえに、自分たちの話したいことを話して満足して帰るそうじゃないか。待っていても、聞こえるのは、俺の話を聞いてもらったって言って、自信満々の顔で帰るんだからさ。クラシアも大変じゃないのか?」
「もう、本当に大変ですよ。朝からずっと難しいお顔されていますし、各省庁のトップがお話しされることは皆同じですし。わたくしも耳に胼胝ができるのではないかと思うほどです。それに、昼食のお時間になられましても、資料片手に召し上がられる始末ですし。早く面会という公務を終了させたいお気持ちはわたくしもわかるのですけど」
「だよな。毎年一緒だもんな。あたいも気持ちはわかるつもりさ。あたいも毎年来ているわけだからな。いろいろあったが」
「レイチェルさんは、わたくしたちから情報をもらって横流しするのがお役目でしたものね」
「おいおい、その話はもういいだろ?済んだことなんだし。今はどこのスパイでもないよ。ただ、エルトゥーヤ陣営ってことを除いては。で、そのエルも昨日来てるんでしょ?なら、何も隠すことはないじゃないか」
わたくしがお迎えに上がって、少し饒舌なレイチェルさん。クラシア様に無礼を働かないか心配になります。
そんなことを思いながら、レイチェルさんをクラシア様の執務室にお連れいたしました。
「クラシア様、保険庁トップのレイチェルさんをお連れいたしました」
「あぁ、入ってくれ」
「失礼いたします」
中にいるクラシア様にこえをかけ、ゆっくりとドアを開けて、レイチェルさんに中へ入るように手を差し出します。
レイチェルさんは「ありがとう」とだけ言って、静かに中へ入られます。
そのあと、クラシア様の目の前の椅子まで一直線に進んだ後、ゆっくりと礼。そのあと、ゆっくりと音もなく静かに椅子に座られます。ここまでは、去年までと同じです。一度敵対したからと言って、無礼な態度をとることはありません。
「レイチェル、久しぶりだな。まさか、こんなにたくましくなって帰ってくるとはな」
「滅相もない。クラシアさんが同じポジションにおいてくれたおかげでここまで来たんだ。あんたに感謝だよ」
「その憎まれ口。変えられなくなったか?去年までは、私に従順だったのにな」
確かに、わたくしも、裏切り行為をする前までのレイチェルさんしか知らなかったので、このような場でも、この口調で話されるのはさすがだと思ってしまいます。逆に、粗相をしてしまうのかとわたくしがひやひやしております。
ただ幸いなことに、クラシア様は、レイチェルさんの態度を許しているご様子。もしわたくしがこのような態度を取ってしまえば、即刻、胴体と顔面が離れ離れになることでしょう。
……考えただけでも恐ろしいです。
「どうも戻れなくてね。部下の前ではこんな口調ではないんだぜ?ここに来ると、男勝りな性格なもんでね、血の気が騒いでしまってね。まだここに来ると腰に手をかけて戦闘態勢に入りそうになるんだ。腰の刀がないことに気付いて、戦闘態勢には入らないんだけどな」
「その男勝りな性格がありがたいよ。一層のこと、防衛省に移ってほしいくらいだ」
「そんなことしたら保険庁がどうにかなっちまうよ。優秀な部下をつぶされたくないしな。あっと。こんな長話をすると、あんたの機嫌が悪くなるから、先に報告としくよ」
「お前と話す時が今日の安らぎの時間だよ。ほかのトップを差し置いて話をしたいくらいだ」
ここからは、レイチェルさんの報告が続きます。
そうかい。そりゃ、ありがたいことだね。とりあえず、先の戦闘で負傷した兵士だけど、怪我した8割は治療が終わったって聞いてるよ。あと2割のうちの大半はもう少しで治療期間が終わる、残りは、もう戻れないか、まだ見込み半年ってところだな。
それで、機能回復している兵士は、治療の終えた6割。4割はまだリハビリが必要、もしくは、機能回復が見込めないが、リハビリを続けている兵士ってところかな。政府病院の稼働率も落ち着いてきている。平常時で6割ってところ。一時期の繁忙のせいで、帝都内の病院に勤務する職員に休日が充てられていないことも実地調査でわかった。悪いが、少しだけ保健職の職員を増やしてもらえたらありがたい。それが無理なら、民間病院から助勤という形か、委託という形を取りたいと考えている。
なんせ、職員がいなくなると、国の保健事業が滞ってしまう。今すぐにとは言わないが、できれば、早い目に対応策を出すから、出したあと早い目に承認してほしい。
あと、予算の使用実績だな。うちらが暴れすぎたことと、全国に医師の派遣要請をしたから、思ったより人件費に費やしてしまった。
それから、全国の医師を要請したことと一緒に薬や医療用品も政府名義で大量発注してしまってな。そのぶんも嵩んでしまっている。
一気に話されると、レイチェルさんは一息ついて、資料をクラシア様に渡されました。




