3.キッシングナイト p4
「ただし!キッシングナイトから条件がある」
その言葉に彼女の動きが止まる。
「どれだけ相手が憎いからと言って、人を殺めないこと。それが政府の人間を相手にしていたとしても」
ビシッというと、彼女は考え込む。
確かに気持ちはわかる。親しい人を殺され、憎む気持ちもわかる。だけど、人を不殺はキッシングナイトの掟でもある。それが守れないのなら、私たちは協力ができない。
「……あぁ。わかった。できるだけ守る。本当に助かる」
そういうと、彼女は私の右手を両手で包み込み、額にその両手を当てた。そして、地面には涙が零れ落ちる。
どうやら私たちは最期の希望でもあり、砦でもあったようだ。
しばらくして、落ち着いたのか、彼女は私たちのほうを向き、改めて自己紹介をした。
「そういえば、私の名前を言っていなかったな。すまない。名乗ったつもりでいた。私はエルトゥーヤだ。呼びにくいだろうから、エルと呼んでくれ」
エルトゥーヤと呼ばれた彼女はまだ瞳に涙を浮かべていたが、それも指で拭うと、彼女はアジトを案内すると言って歩き出す。
その後ろをついていくしかできないキッシングナイト。
だけど、エルの後姿は少し意気揚々としていた。仲間が増えたことで安心したのだろう。声も明るくなっていた。
スノードロップのアジトは、まるで洞窟みたいだなと思っていたけど、彼女曰く、大規模な内乱が100年ほど前にあって、その際に隠れ家として作られたらしい。そして、そこから月日がたち、内乱もなくなり、忘れられたころに、魔女狩り。スノードロップは身柄を隠すために再利用しているとのことだった。
身柄を隠しながら生きていくことにより、いろいろと手を加えられたらしいけど、それでも洞穴だということは隠しきれていない。どうやら、魔法でもどうにもならなかったみたい。
そして、中には、サッカーフィールドほどの広さがある闘技場もあれば、寝室も個別にある上、キッチンもある。壁のことを考えなければ、屋敷のようだ。
案内を終えたエルは「好きに過ごしてくれたらいい」といって、自分の部屋に入る。
私たちは、それぞれで部屋を割り振って、その中に入る。