元スノードロップのクリスマス p8
そんなこんなで、久しぶりのアジトをみんなで満喫していると、あっという間に夜になってしまった(たぶん)。
さすがにみんな、久しぶりに遊んではしゃいだせいか、疲れが見える。
今日はここで泊まるのは確定だな。
「イル、食材は何か余っているか?」
「えっと、朝に購入した野菜が少しですね。あと、スープが少しと」
「そうか。わかった。ちょっくら食材を調達してくる。レベッカを連れていくけど、3人いれば、なんてことないだろう。なにかあったら、すぐに連絡をさせてくれ」
「かしこまりました。お気をつけて」
イルに、あぁ。とだけ返して、レベッカのところに行く。
「レベッカ。晩飯はどうする?」
「あるなら食べたいかな」
「そうか。それなら、ちょっとばかり手伝ってくれないか?久しぶりに猪を狩って、牡丹スープなんてどうだ?」
「いいね。久しぶりだね。乗った!もちろん、あの時の方法でだよね?」
「まぁ、この時期にいるかどうかだけどな」
「だね。まぁ、それは何とかして見つけるよ。とりあえず目標は夜が遅くなるまでだね」
「あぁ、それで行こう」
あっという間に作戦が決まると、私が外に出て先に地響きを起こす。
これで猪が暴れる音が聞こえると、そこをめがけてふたりで走る。
そして、獲物が見えると、私が風魔法で巻き上げ、レベッカの炎魔法で包み、息の根を止める。
もちろん、解体や処理は何度も自分たちでやっているからお手の物だ。
「エアスラッシュ!」
地面に向けてひとつ技を繰り出し、猪が泣く声を聴く。
「いたね。太陽とは反対の方角。たぶん、距離は300(メートル)くらい」
「了解。それなら、焼き包むのは任せるよ。ウィングストリーム!」
戦闘以外で技を繰り出すなんて、いつ以来だろう。
たぶん、キッシングナイトを呼び出す前の話で、さらに言えば、レベッカたちが捕まる前の話。もう2か月以上前か。そりゃ、少し感覚も鈍るわけだ。
それでも、猪はちゃんと狩れたようで、わずかに猪が宙を舞っているのが確認できた。
「レベッカ!」
「わかってる!ファイヤーブロッサム!」
空に放たれたレベッカの炎技は、華麗に舞った後、猪の体を包み込むようにまとわりつくと、一気に燃え出し、一瞬で燃え尽きた。
それでも、この魔法の威力は相当なものだ。猪の毛皮は少し黒く焦げているところはあるものの、それはレベッカの櫻が燃え尽きた印。洗えば取れるもので、毛皮自体に焦げが付くことはない。それに、櫻のいい香りがする。そして、熱のおかげで猪はノックダウン。あとは、これを持ち帰り、みんなで解体するだけだ。
「レベッカ、ありがとう。あとは私がやるよ。アルカイックパワー」
さすがに、重さ約100キロの猪をアルカイックパワーなしで持ち運ぶのは無理だから、さすがにアルカイックパワーに頼る。
アルカイックパワーは偉大だ。ゆえに頼りすぎると、すぐに疲労を感じてしまうから、あまり使いたくないというのが本音でもある。
デパーチャーとの戦いでも使わなかったのはそのためだ。さすがに、アルカイックパワーを使って戦っても、向こうも一緒になってアルカイックパワーを使えば、消耗戦で、一瞬で決着がついたかもしれないが、長期戦になることを見越せば、アルカイックパワーを使う勇気はなかった。
アジトの入り口からそこまで離れていなかったことが幸いした。これで離れていたら、レベッカにも協力を頼んでいたところだろう。
「いいにおいすると思った」
そう言ってアジトから出てきたのはナターシャとムーナ。
「またよくそんな大きなものを狩ったね。まぁ、ふたりならいけなくはないか」
「ナターシャの土魔法を使ってもよかったんだぞ?」
「そんなことすると、土吐きが面倒じゃん。私はレベッカが適任だと思うよ」
また人任せな言い方をして。レベッカが怒ったら厄介なんだぞ。というのはさすがに言わず、ナターシャに解体場までもっていってもらう。
「さて。それじゃあ、解体していくか。今日は牡丹鍋だな」
そういうと、張り切って解体を進めてくれる3人。私はいつでも外に追い出されるし、レイチェルはこういうことをしたことがない。イルも入る隙がないといった様子で、3人を見つめている。
「3人様、お上手ですね」
「まぁ、ここで何回も解体しているからな。肉がなくなれば、近場で狩って、自分たちの食料にしていた。そうしないと生きていけなかったからな」
イルはたぶん、ここでの極貧生活を想像しているのかもしれないが、私たちにとって、そういったことは一切感じない。
むしろ、街へ出るのが面倒な時によくやっていたことだから、効率を重視した結果、猪やシカ、クマを狩ることが多かっただけだ。
ものの十数分で解体を終わらせるところは、やっぱり慣れもあるのだろう。あっという間に解体した猪は、部位ごとに分けられ、イルの手の中に納まる。
まぁ、収まるといってもたった一部だけ。骨や毛皮を取ってもまだまだ何十キロと残っている。
これを全部食べるのは難しいから、少しだけ食べる量を残し、ムーナの水魔法を凍らせ冷凍保存する。
食べきれない分に関しては街に出て、定食屋の女将に売ったり、いろんなところに売って、そのお金で野菜を買っていた。
これも懐かしいな。
なんて思いながら、イルが持てるだけキッチンに持って行って、鍋に入れて湯がいている。
もちろん、湯がいているのは、持っていっても高く売れない部位ばかり。これは、もう、私たちの癖というべきなんだろう。それでも、新鮮な肉はどこもうまいんだがな。
そんなことを思いつつ、猪の肉を食べられる分だけとって湯がくイル。
これ以上は必要ないというような表情をすると、前までと同じように、ムーナに水魔法で凍らせて、小さな蔵に保管。
今は、食うことに困っていないし、売ってもいいんだろうが、無償で街に分けるか。それが最後の恩返しになりそうだし。
それに、毛皮だって、この時期の寒さをしのぐのに十分使える。この辺りの孤児院に全部寄付するか。