元スノードロップのクリスマス
皆様、お久しぶりです。
今回は、元スノードロップのクリスマス編を少しだけお届けいたします。
どうぞお楽しみください。
すっかり雪の降る季節になって、ハンブル帝国も各地で雪化粧をするようになった。
ここまできたらもう冬本番。今も外では雪がちらついている。
気象予測師によると、今日は全国的に雪がちらつき、明日は国の北から南まで全国で雪が降る1日らしい。
冷えすぎて、最近ではレベッカに暖めてもらったこの執務室から出たくない。と何度思うことか。
だが、そんなことを言っている余裕はなく、この後もひとつ公務が詰まっている。それさえ超えれば、年内で今決まっている予定はなにもない。
私たちスノードロップと政府のデパーチャーで殺りあっていたが、そこに第3勢力で、私が召喚したキッシングナイトが仲介し終戦、ほぼ強制的に和平協定を結ばされ、デパーチャーのクラシアがハンブル帝国の首長のまま、そのすぐ下に私が副首長という役職に就いた。
終戦してからあっという間にほぼ2ヶ月。その間でいろいろなことを考えてきた。
主な改正点は次の通りかな。
・首長と副首長の意見が食い違った場合には提案を保留すること。
・首長も副首長も理由なく互いの提案を否定しないこと。
・首長は副首長が自ら辞任するときを除いて、その任を解くことはできない。
そして、なにより大きいのは、魔動力規制法の改正だろう。
法自体の撤廃を私、エルトゥーヤとクラシアの共同提案で改正した。
そして、魔動力規制法で孤児になった子供や、子を亡くした1等身に対して、生涯平均賃金に一律30%増額した計算額を突き額にして毎月支給することになった。
それは財政を大きく圧迫するのは仕方のないことだ。政府自身がそうせざるを得ない方向にもっていったのだから。
「エル、移動の時間だよ。そろそろ出ないと間に合わないよ」
そういうのは、秘書に任命したレベッカ。
さすがに政府側の人間を秘書に雇うことは、暗殺のことを考えると、少したりとも思うことはなかった。
それなら、長年、一緒にいたスノードロップの3人を秘書に任命するほうが、命を狙われる危険が少なくて済む。
「あぁ、すぐに準備していく」
戻ってくる頃にはさらに寒くなるだろう。
そんなことを思いながら、新調したコートを手に取り、レベッカのあとをついていく。
今日の予定は、国外からの来賓と対談という、少し面倒だなとは思いつつも、外交問題になって、戦争になってしまっては元も子もない。
それに、内乱のせいで離脱している戦力のことを考えると、あまり敵を作りたくもないし、怒らせたくない。
そこから始まった対談については、前回からの続きで和平交渉を進めていたものの、まぁ、クラシアの性格がしっかりと出ていたせいで、振出しに戻した上に、そこから平行線をたどり続けている。
私も向こうも譲れないところは双方ともに譲らず、交渉をしていても仕方ないのか、向こうから早々に話を切り上げられ、対談は終了となった。
「はぁ。とりあえず、クラシアに報告すっか」
「完全に足元を見てきたよね。あの人たち」
ため息とぼやいていたのがレベッカの耳にも届いたのか、レベッカも一緒になって同じようにぼやく。
「クラシアの交渉術が悪かったのか、反政府勢力の対応に頭いっぱいで、こっちがおろそかになったか。だな」
私はそうとしか考えられないが、いずれにせよ、ハンブル帝国が下に見られていたのは事実だろう。
それをどう覆すか。
できるに越したことはないが、やり方をひとつ間違えば、取り返しのつかないことになるだろう。
物事を慎重に進めないといけないか。
「この交渉はいろいろと苦労しそうだね」
「そう思うのも何度目か。いつも隣国との対談には頭を悩ませるからな。無駄に疲れる」
正直、この器は私ではないよな。ただ、私がやらなければ、いい世の中は作り上げられない。
今までのことを考えると、私が犠牲になる勢いで行かないと、この国は変えられない。
そんなことを思っていると、乗っている車が急ブレーキをかけると同時にクラクションを鳴らした。
「どうかしたか?」
「失礼いたしました。子供の飛び出しです。衝突はありません」
「そうか。一応、降りて車の周りだけ確認して、報告してくれ」
「かしこまりました。ただちに」
私たちが歯向かうことをしなくなったせいか、今まで以上に元気な子供の姿を見るようになった。
そこは、夜しか攻撃しなかったとはいえ、暗闇の中で爆発音がしていると子供でなくても怖がるか。
これからは、そういったことがないようにしていきたい。もっと言うなら、傷を負った子供たちをいやせるような国にしたいと言えば、言いすぎだって言われるか。
「エルトゥーヤ様、車の周りに異常はなく、飛び出してきたお子様にもかすり傷一つありません」
「そうか。よかった。悪いが、渋滞は気にしなくていいからもっと広い道を走ってくれ。というか、いつもに比べて、交通量が多いのは気のせいか?」
そうなんだよな。朝の対談の時もそう思っていた。間に合わないかと思って冷や冷やした。
「本日は戦闘終了後初めてのクリスマス記念ですので、もしかすると、その影響が色濃く出ているのかと」
そういうことか。それなら納得だ。
普段から日付など気にする余裕もなかったうえに、何度も徹夜をして夜が明けることもあったせいか、日付感覚が失われている。
たぶん、日付感覚を失ったのは、スノードロップを結成して、月齢で襲撃日を決めだしてからだろうか。おそらくそうだ。
「それじゃあ、レベッカ。クラシアの官邸まで歩くか。街の様子もこの目に焼き付けておきたい。視察と言えばいいだろう」
「それだと襲撃される可能性が」
「魔力で殺されないように立ち回ればいい。レベッカもそれくらいはできるだろ?」
「まぁ、まだ衰えはしてないけど」
「なら問題はなし。運転手さんよ、話を聞いていたと思うけど、広い道をゆっくりでいいから、私の私邸まで回移送してくれないか?私とレベッカは、街の様子を視察してからクラシアのところに行く」
「かしこまりました。道中、十分にお気をつけて」
それだけ言って、運転手は扉を閉めて、ゆっくりと走り出した。