3.キッシングナイト p2
「ただな、まだまだ殺されるわけにはいかないんだ!ジャイアントスウィング!」
やばい。必殺技か何か?ただ、相当威力がありそうだ。ユカリも決め技で使うこともあるから、ユカリの威力は把握している。それと同等なのか強いのか。わからない。防御魔法で防いでみる?それで負けたら私たちは死ぬ。それだけは言える。
「アカリちゃん!ライズアロー!滞空時間が長い!」
色々頭の中で回っていたものがこの一言で全て吹き飛んだ。
指示はカナだ。攻撃ができないから私よりも離れている分、しっかりと見えている。
「サンキュー、カナ。ライズアロー!」
さっきのミーティアシャワーとは真逆の軌道をえがいて、目の前で消えずに、浮き上がってくる。たいていの軌道は、だいたい、目線の高さに矢の先が飛んでくるから、叩き落とすか、自分が避けないといけない。
矢は、私の理想を描くように飛んでいき、思惑通り急に角度を変え、女が降りて来る目線の高さに飛んでいく。
さすがに、上向きに角度を変えてくると思っていなかった女は、大きくバランスを崩した。そこを狙ったかのように、ユカリとルナの攻撃が炸裂した。
威力が重なった2人の攻撃は、キッシングナイトの中で最強のコンビ技。これが決まってしまったら、どんなサナミでも立ち上がることはできない。普段なら、落としたあとに2人がとどめを刺す。
だけど、今回は、おそらく人が相手。不殺を誓うキッシングナイトとしては、そこまでしない。そこは、ルナもユカリもわかっているだろう。
そして、最強のコンビ技が炸裂して、女が落ちてくる。おそらく、頭が下を向いているのを見ると、気絶している。
「マリア!タイフーン!風であの女を受け止めて!」
「はいよ!タイフーン!」
マリアが風の渦を出すと女を受け止めて、そっと地面に降ろした。すると、ササッとユカリが女のもとに歩み寄る。何をするというのだろうか。
「チェックメイト」
静寂を取り戻した洞窟の中に、ユカリの冷たい声が響く。この声はヤバい!
「ユカリ!それ以上はダメ!」
「わかっているよ。大丈夫だって。これ以上は何もしない。それに、女の剣も短剣も身体から離れたところにあるから、これ以上の攻撃はないとみているよ」
ユカリもカッとなりやすいところはあるものの、今はものすごく冷静だ。状況から状態まですべて見極めている。
「カナ、催眠術でしばらく寝ていてもらおう。私たちもいきなりの戦闘で疲れたし、少し休もうよ」
「そうだね。前準備と言えば、この戦闘服になっていたことだけだし、みんなの動きが重そうに見えたし。そしたら、最後に催眠術」
淡い紫色の光が女を包み込むと、女から寝息が聞こえる。
これでしばらくはこの女から脅威はない。ただ、戦闘服が解除されないところを見ると、サナミ警戒か。少し様子を見るか。
「これ、本当にいい剣だよね。少し重いけど、使いこなせたら今よりも剣の威力も上がりそう……」
チーム1の怪力女が剣を持ちながらしみじみ言う。本当、これ以上威力を上げてどうするのよ……。
「とりあえず、あのバカはほっておいて、少し様子を見ようか。私、この人に聞きたいことがいっぱいあるのよ」
「そうやね。やけど、ここで寝かすのはさすがにかわいそうやね。マリア、チェリーリーフでベッドの代わりにすることってできる?」
「できるよ。それじゃあ、チェリーリーフ」
すると、女の下に布団替わりの木の葉が現れた。ただ、攻撃や防御するときみたいに硬いものではなく、柔いものだ。
そこからはサナミに警戒しながら女が目を覚ますまで待っていた。
そして、感覚で2時間くらいかな。サナミも出現せず、少し退屈を覚えてきたころ。
一瞬の気が緩んだ時、女の意識が戻った。
意識が戻った瞬間、私たちは安心したのと同時に、マリアが驚いて自分を守るために魔法を使おうとしていた。その姿を見てルナがマリアの手を握り落ち着かせようとしていた。
「マリア。大丈夫。うちが行くよって、安心してや」
落ち着いたルナの言葉に、マリアはゆっくりと深呼吸をし、心を落ち着かせていた。
「うぅ。こ、ここは……。き、貴様ら……。あぁ、そうか。……はぁ。スノードロップも廃れたものだ。どうせ、私を捕まえに来たのだろう?さぁ、私を拘束して収容所にぶち込むなり、焼き殺すなりなんでもすればいい」
女は強気だけど、言葉の強さとは裏腹に降参したというような趣旨の発言。さすがに気の抜けない上に、私たちはこの女をどうするつもりはない。というか、どう動けばいいかわからない。
たぶん、警察に突き出してもいいんだろうけど、私たちはなぜか戦闘服から解くことができない。一般人から見ると怪しい恰好をしているから、事情聴取をされるだろうし、後々面倒なことが起きそうで怖い。
私が意を決して彼女と話そうとしたとき、ルナが前に立ち、彼女と話し始めた。
「ごめん。うちらな、人を殺すこととか興味ないねん。サナミ相手やったら喜んで突っ込んでいくけどさ、どうみても人間やろ?人間相手にそんな惨いことせぇへんわ」
「なら、今、私が攻撃を繰り出そうとすれば」
「もう一度チームの力を合わせて力でねじ伏せる。なんも武器を持たへんあんさんはなんも怖ない」
「そうか……。政府の肩を持つくせによくわからない」
正直に言うと、この女が言うことのほうがわからない。
「ほんでさ、1つ聞きたいことがあるんやけどさ、ここ、どこなん?」
「はっ?ここがどこか知らずに私と戦っていたのか?」
「知らんもなんも、目が覚めた後、状況把握しようとしたときに、あんさんがいきなり戦闘を吹っかけてくるんやで?話聞きたくても聞かれへんねんから」
「そうか。そうだったな。敵として私が認識してしまったら問答無用で殺しにかかる。これが私たちのやり方だから。すまなかった。そして、そなたの答えだな。ここは我らスノードロップのアジトだ」
「へぇ。カッコええな。隠れ家って感じ」
「まぁ、実際に隠れ家としても、スノードロップの拠点としても使っているのだがな……。そして、私から聞いてもいいか?そなたらの名前は?」」
「うちらはキッシングナイト。って言うてもわからんよな。活動しているのは真夜中やし、誰にも騒がれへんように活動してるんやから」
「キッシング……ナイト、だと……。史上最強の女戦士たち。金色の戦士たち……。フッ、これだけの戦力差があれば私が負けるのは当たり前か」
うん?一般人が私たちのことを知っている?なんで?私たちのことは魔力が使える人以外は誰も知られていないはずじゃ……。もしかして、私たちも知らない同業者?
「わけあって召喚したのは私だ。それなのにやってしまった無礼の数々、ここで詫びさせてほしい」
彼女からまた不思議な言葉が発せられるけど、前にいるルナは何も気にせず答える。
「いや、それに関しては、うちらはきにしてへんよってええんやけど、どういうこと?うちらを召喚したって」
やっぱりルナも引っかかっていたか。
2人が“召喚した”という言葉を繰り返した後、なにかを感じ取ったのか、ユカリだけ戦闘態勢に入った。