28.収容所 p3
「そこまでにしときな」
後ろから声がして振り向くと、エルとは正反対の恰好をした女が2人立っていた。そして、その女を見た瞬間、エルが対峙する様に前に出てくる。
「エル、この人たちは?」
「さっきの兵士たちより、ちょっとばかし警戒しなきゃいけない人物カナ」
そういうと、エルの口角が上がった。
嫌な笑い方だ。何を企んでいるのだろうか。
そんなことを思っていると、向こうから話しかけてきた。
「久しぶりだな・エルトゥーヤ・エディーナ」
どうやら、顔見知りみたい。ただ、仲がいいとかそんな雰囲気ではないのは、双方の話し方から想像がつく。
「見たことのない5人さんも初めましてやね。先に警告しておくと、ここのおるエルトゥーヤ・エディーナは国家転覆・殺人・窃盗等々の罪で国際指名手配されとるんよ」
どこかで聞いたことのある話し方だと思ったら、ルナに似ているのか。
「連れてきてくれたんやったら、さっさと、そいつの身柄をうちら政府に渡してもらわれへんやろうか」
嫌ぁな微笑だ。エルをそう簡単に差し出すわけはないけど、差し出してしまえば、エルの身だけじゃなくて、私たちの身も危ない気がする。
……従わないほうがいい。
「バッカじゃねぇの?キッシングナイトはうちらスノードロップの味方だよ。貴様らデパーチャーに寝返るわけねぇだろうがよ」
エルの口調が、さっきまでの兵士たちに向けていた八つ当たりのような口調から、殺気が濃く含まれる口調に変わった。
その口調の変化だけで、後ろにいるマリアが、向こうにばれない程度に構えるのがわかった。
「あんたら、誰なん?いきなり後ろから声かけると卑怯ちゃう?まぁ、いきなり攻撃せぇへんだけ常識はあるみたいやけど。戦闘状態に入りたいんやったら、先に名乗るんが礼儀とちゃうん?」
すでに敵対心剥き出しのルナが威嚇するように声を張り上げる。
「せやったね。うちらはあんさんらのことよう知っとるけど、あんさんらはうちらのことなんも知らんもんね。うちらは、この国の特殊部隊“デパーチャー”のミランダ・スフィカと申します。まぁ、覚えてはっても、一瞬やから忘れてもかまへんで。どうせ、うちらに殺されるんやから」
「そして、あなたたちを殺すために派遣されました、同じデパーチャーのジェシー・ブランドンと言います。以後お見知りおきを」
なんだろう。やっぱり、2人とも嫌な言い方だ。なにより、今までの相手と比較できないくらい、嫌な予感がする。
「悠長な自己紹介だな。そんなに余裕があるとは私も舐められたものだ」
「う~ん。どうやろうね。鼠一匹やったら、心臓を破裂させることなんて楽勝なんやろうけど、おまけが5匹ついとったらちょっときついかな」
ネズミ扱いされて、あまり気持ちがいいものではない。これは、挑発ということをわかっていながらも、噛み付いてしまいそうになる。
「そうですわね。でも、これがあれば、あなた方も木端微塵ですね。楽に死ぬことができますよ?」
「ふん。何の冗談のつもりか知らねぇが、そんなもんでビビると思ってんのかよ」
「それは実物を見てからおっしゃってもらいたいですわ」
ジェシーはそういうと、物陰に身を隠して、すぐに重いなにかを引きずってきた。
「古来の道具か?」
いや、そうでもないと思う。私もこんなのは見たことがない。
それはキッシングナイトみんな同じだった。
「石火矢?小型大砲?どっちだろ」
そうつぶやいたのは派手好きなユカリだった。
ユカリは、自分で扱うことはないのに、珍しいものはずっと集めている。
「ようわかってはるやん。そこの女の子。正解は小型大砲や。ちいちゃくても威力は申し分ないで。800年前からずっと使われとったから。エルトゥーヤ、勉強不足なんじゃないか?反乱することしか目に入ってないし、ろくに勉学もしてこなかったんだろうな」
ミランダはエルを馬鹿にするような言い方をすると、大きな声で笑い飛ばした。だけど、エルは何も気にしていないらしく、淡々と言い返す。
「あぁ、そうだよ。貴様らを殺すことしか考えてねぇからな。ただな、武器の名前をきいただけでわかったよ。またしょぼい武器を持ち出して、それで私らを殺そうってか?笑わせんなよ」
まだまだ煽り合いが続く。その口撃に私たちは口を挟むことができなかった。
「はぁ、ほんま相変わらずイライラさせるなぁ。もう、一層のこと、ここ事吹っ飛ばすか。ジェシー、準備してほしい」
なんだか、雰囲気がまずい方に流れている気がする。
「マジで!?撃ってるところ見たかったんだよね!見せてよ!」
ヤバい。ユカリが思い切り爆弾を踏んだかもしれない。
そう思って、エルの顔を見る。
エルの顔も“ありえない”って言っているみたい。ここから先、何が起きるか、少し先の未来が見えた気がする。
「カナ、サイコキネシスで私たちのことを守ってもらおうことはできるか?」
「やるだけやってみる。ただ、距離が近すぎるから、風圧や衝撃波に押されるかもしれない」
「砲弾が直撃しないならそれはそれでラッキーだ」
「了解。やるだけやってみる。恨みっこなしね」
「あぁ。
エルたちが前を向きながらは話を終えると、向こうにも準備が終わったのだろう。にやにやしながら話しかけてきた。
「ほんなら、こっちは準備ができてんけど、なんか言い残したいことでもあるやろうか」
「そうだな。お前たちと戦えて楽しかった。とだけ言っておこうか」
「そう答えるエルは不気味に笑っている。
「なんや、余裕そうやん。そない余裕なんやったら、いってまいましょか。ほんなら、さ~ん、に~、いち~、発射!」
「サイコキネシス!」
「発射の号令とカナが唱えるのが同時になり、気付かれないうちになんとか私たちを守るバリアが出来上がっていた。
ただ、衝撃がすごくて、宙に浮いたところまでなんとか記憶がある。そのあとの記憶は何一つない。




