3.キッシングナイト p1
オレンジの光?なんだろう、なんだか、街と違う。なんだろう。この違和感。
まだ朝のはず。なのに夜?……いや、違う。夜でもない。……洞窟の中だ。でもなんで。わからない……。
「アカリ!よかった。意識取り戻しとったんか」
後ろから歩いてきた少女は私の友達のルナ。生まれが関西ということもあって、関西弁交じりで話す。その少女が私に話しかけてくる。
「うん。たった今ね。ルナは?ルナも今?」
「せやね。とりあえず、わかってるのはおそらく洞窟の中って言うことだけやわ。それ以外はさっぱり」
なるほどね。やっぱり、それくらいしかわからないか。
「探検する?」
大抵、こういう時は周りを捜索して、ある程度の情報を仕入れることをすると思う。
ただ、ルナは私と意見が違った。
「いや、やめとこ。ユカリたちもまだ目を覚めてへんし、サナミに襲われるかもしれへん。それやったら、ここで守りに入るほうがええかもしれへん」
よく見れば、ルナの服装、黄金色の戦闘服だ。
この戦闘服は、敵が近くにいると自動的に変わる優れもの。それが私たちにとって戦闘前ということを知らせる。
これだけを聞けば、なんだって話になるんだけど、ルナの口から出た“サナミ”という言葉。
私たちはサナミと呼ばれる怪物を魔法で討伐する。もちろん、私だけじゃない。ルナもそうだし、このほかに比較的近距離で戦うユカリ、中距離で戦うマリア、遠距離からサポートするカナの5人で。私は基本的に遠距離から攻撃を仕掛け、ルナは近距離攻撃が多い。弱点をカバーしあってサナミ討伐を行っている。
そして、一緒に魔法でサナミ討伐をする人たちは私たち5人を“キッシングナイト”もしくは、私たちの恰好を見て“金色の女戦士”と呼ぶ。
どうやら、サナミ討伐をするパーティが複数いる中で私たちが1番強いらしく、そう呼ばれている。
「ユカリたちは?」
「あっち。すぐそこにおるわ。ただ、目が覚めてへんから、心配なところはあるけど、息はしてるから大丈夫やと思うわ」
「そう。ならよかった。とりあえず、近くで守ろうか」
「オッケー」
そこから約数分。みんな目を覚まし、嫌な予感はしつつも、みんな守りに入る。
「何奴!」
声が聞こえて、その方向を見ると、一人の女が刀を構えてこっちを見ていた。まるで、獲物に狙いを定めたライオンのように……。
嫌な予感はこれか。そう思いながらも、何も対応ができず、じわりじわり距離を詰めてくる女に対して、私たちは後ずさりしながら、攻撃に備える。
胸騒ぎがする。かなり警戒しないといけない。
かなり殺気立っている。いつでも私たちを殺せるぞ。と言わんばかりに。
これ以上刺激すれば、ブレーキを外して、最初からエンジン全開、トップスピードで突っ込んでくる。
「アカリ、わかってると思うけど、不吉な匂いしかせぇへんで」
近くにいるルナが私に話しかける。
「わかっている。どうにかして抑え込むか。とりあえず、ギリギリまで引き付けて、いつも通り回避。とりあえず、いつもの形を作ろう」
『オーライ』
「見慣れぬ服装だな。貴様ら、政府の新しい手下か!ならば、ここで会ったのが最期!無言の帰宅にしてやる!」
そういい終わったと同時に女は私たちに斬りかかってきた。
女が私たち5メートルほどのところまで来た時、大きな刀を振り下ろしてきた。
もちろん、攻撃されることはわかっていたから、私たちはそれぞれ得意な方向に飛び上がって逃げる。
「チッ、出来損ないの軍のくせにしつこいネズミじゃ!ただ、貴様らが深紅の血を流し息絶える場所はここだ!」
私たちが多方向に散ったことでさらに女を刺激してしまったみたいだ。さっきより口調がかなり荒くなっている。相当興奮している。
「ルナ!ユカリ!卑怯かもしれないけど、魔力で応戦して!」
「言われんでもやる!こんなわけわからんところで死にたくない!」
「ルナに同意。でも、ルナ、やりすぎないでよ」
「わかってるわ!」
そういうと、ルナとユカリが女を挟むように剣で戦い始める。
だけど、それも瞬時に対応してしまう女。戦闘能力はかなり高いみたい。
壁際に押されながらも、正面から二人の攻撃を2本の剣でかわし、隙があろうと、2本の刀で斬りかかろうとしてくる。
そして、壁際で戦うことが不利と見たのか、一瞬の隙をついて、壁際から中央付近に飛び出す。
その姿を見て、遠距離魔法が得意な私とカナは慌てて女と距離を取る。
「カナ、催眠術は興奮している相手には効果ないよね」
「もちろん。サイコキネシスも。今の戦闘で私ができることは何一つない」
カナになすすべなしか。私もターゲットの動きが予測できるなら、私も魔法攻撃ができる。ただ、相手の情報がほとんどない状態。できるはずがない。……こうなりゃ、近距離で戦う2人に任せるしかないか。
ただ、この戦闘が長引けば長引くほど、2人の体力が底をつく。もちろん、女も体力は無限ではないだろうが、早期に決着をつけたい。
できるかどうかわからないけど、少し戦況を変えてみるか。
「ミーティアシャワー!」
私が繰り出すことのできる攻撃魔法の一つ。
目の前で魔法の矢が消えて、足元に突き刺さる。ふだんからよく使う技でもあり、私が知っている大抵のサナミは、魔法の矢を薙ぎ払おうとしても空振りしてバランスを少し崩す。そのわずかの隙をついてルナとユカリがコンビネーション攻撃をしていく。
ただ、背後からの攻撃魔法でも、見破られていたかのあざ笑い、矢を飛び越えて、さらに広くなった空間に逃げられ、私と目が合う。
その瞬間、私に向かって走り出してきた。
どうやら、ターゲットを私に向けたようだ。少し危ないか。ただ、こうなった以上、ユカリたちの応援が来るまで耐えきる。
「後ろから堂々と。卑怯ものが!正々堂々と正面から戦え!それが政府の方針じゃないのか!勝てばどうでもいいのか!」
女は吠える。ただ、私たちにはどういう意味かよくわからない。
改めて思う。この女に私たちが置かれている状況を聞くのは不可能だ。それに、私たちの行動すべてが女の怒りをさらに増幅させているようにも感じる。
「ただな、まだまだ殺されるわけにはいかないんだ!ジャイアントスウィング!」