9.内部クリーン p1
昼下がり。昼食を取り終えた私は、いつもの執務室である男を待っていた。
そいつのせいで、この国をもう少しで亡びるところだった。幸い、常備兵でどうにかなったけど、到底許される行為ではない。
今日は何時間かかろうと、必ずそいつの口から事実を吐かせる。
静かに怒りを込めていると、部屋のドアがノックされた。やつが来たのだろう。
「誰だ?」
「アリアスでございます。ウィリアム・ジェームス警視総監が到着されました」
ようやく来たか。それでも約束の15分前。
さすがに媚びを売って総監になっただけのことはある。遅刻して機嫌を損なわせるようなことはしないか。
「入れ」
入ってきたのは、アリアスとウィリアムのほかに、ジェシー?
アリアスはわかる。でも、なぜジェシーが?
「ここで暴れられると、私たちだけでは不安がありますため、護衛として、本日ご予定がなかったジェシー様にお越しいただいております」
なるほどな。たしかに、ウィリアムなら魔力は扱えないし、剣を扱えないアリアスは相手ができない。
実質1対1。それなら、特別隊の中で力がトップクラスのジェシーがいれば、なにがあっても抑え込めるということか。考えたな、アリアス。
「ウィリアム、そこに座れ。アリアス、飲み物を頼む」
「クラシア様、おかまいなく。持参しておりますので」
何かイヤな予感がするな。即効性のある筋力増強剤でも使われたらかなわない。
「それはこちらによこせ。すまないが、ここでは私とアリアスが認めたもの以外、飲み食いはさせていない」
もちろん、そんなルールはないが、目の前で変なことをされても困るのも事実。
こんなやつに出す飲食物などないが、ここは建前上、出してやろう。
ウィリアムはそんなことも知らず、持ってきたボトルをアリアスに渡し、それを見て私は、別の部屋で保管するように言う。
そして、アリアスが戻ってきたとき、ジェシーとともに、ソファーへ座らせ、楽な姿勢を取るように指示をした後、ウィリアムの目の前1枚の画像を表示させる。
「お前、これを見て何か思うことはないか?」
何かの演技なのか?じっと画像を見る顔は色を何ひとつ変えない。
「いえ。存じ上げませんね。いったい何なのでしょうか?」
あくまでもしらを切るつもりか。
それなら、こちらにも手はある。
「それでは、拡大しようか」
画像を拡大すると、はっきりとウィリアムの顔が映る。気持ちの悪い笑みに少し吐き気を覚えたのは秘密の話だ。
「あぁ、私ですか。それがどうかされましたか?」
「どこでの画像かはわかるよな?」
「えぇ。私の生まれ故郷です。久しぶりに親から顔を見せろと手紙がありましたから、久しぶりに帰っただけです」
「そうか。まぁ、帝都から出るときも、“私用”と書いてあったから、咎めん。だけどな、問題はここからだ」
そういって、前の画像を出す。
「この時、誰と話していた?」
すると、ウィリアムの顔色が少し変わった。
「いや、その、たまたま昔の友人の娘と会ったので、懐かしく少し話を」
「そうか。友人の娘さんか。それは本当のことでいいのだな?」
少し問い詰めると、奴の顔色はさらに悪くなった気がした。
「えぇ。はい。間違いありません」
「それじゃあ、なぜ捕まえなかった?」
「と言いますと?」
顔色は真っ青だ。それでも、さらに問い詰める。
「それはおまえが一番わかっていることだろう。正直に話すか、嘘をつくかは任せる。ちなみに言っておくが、私はこれが誰だかもわかっている」
そこまで言うと、ウィリアムは黙り込んだ。どうするべきか必死に考えているのだろう。
おとなしくすべてをしゃべれば楽になるのに。と少し哀れな目でウィリアムを見ていた。
「えっ、これって、スノードロップ?クラシア様。なぜこいつが接触しているのでしょうか?」
静かにしていたジェシーが隙を見て画像を見たようで、声を発した。
「さぁな。そこはこいつがそろそろ話してくれるはずさ」
ここまでくると、黙っていられなくなったのか。ポツリポツリと話を始めた。
ジェシー、ナイスアシストだ。そう思いながら、ウィリアムの話を聞いた。
「確かに、私はスノードロップに接触するために帝都から外出しました」
「でも、なぜスノードロップに接触する必要があったのでしょうか?」
何も知らないジェシーにとっては純粋な質問だったのかもしれない。
しかし、その純粋な質問は、ウィリアムの心臓にジャブを打つようなイメージ。苦い顔をした。
「なんだ?いえないことか?それなら仕方がない。背任罪で無人島送りにするしか……」
「いえいえいえいえ。そんなことは決して」
「なら早く答えよ。私は忙しい。貴様の尋問に時間を割いているのだから早くしろ」
「……少しでも捕まえやすくするため、嘘の情報を巻いておりました」
なるほど。そう来たか。ただ、こちらは、ムーンライトですべてわかっている。
嘘をつくメリットなど何一つないのに、哀れなやつだ。
「それがお前の答えか」
「はい」
言い切ったな。それなら、今度はこちらからだな。
「アリアス、“アレ”をくれ」
「かしこまりました」
アリアスは、立ち上がると、本棚に向かい、1枚の紙を取り出す。
「悪いな、ウィリアム。嘘つきなおまえのことは信じられないから、先に調べさせてもらった。この用紙は、この画像のもとになっている防犯カメラをムーンライトの読唇術で会話を再現させたものだ。すべてに目を通してから反論を聞こう」
そう言って、ウィリアムに紙を突きつけ、ウィリアムは震える手で受け取り、読み始める。
その顔はさらに青くなっていく。
本当にどうしようもない奴だ。ムーンライトができる処理能力を忘れていたのか?間抜けな奴だ。
しばらくして、ウィリアムは観念したのか、首をがっくり折って「間違い、ありません」と小さな声で言った。
それでも私は追撃を続ける。
「なぜこんなことをした?」
やつが言うにはこうだ。