愛々
風呂上がりにあまりにも暇だったから彼が風呂に入っている隙に部屋の中を適当に物色していたらその雑誌を見つけてしまった。服を着崩した女が載った本、所謂エロ本を三冊。インターネットが普及したこのご時世に紙媒体のエロ本とは古風なのか古き良きなのか。
兎に角彼も立派な男なんだなあ、とページを捲っていけばかなりスタイルの良い女がこれでもかと局部を曝け出して欲情を掻き立てるポーズをとっている。更に数ページ捲って静かに本を閉じる。なんとなくこの本の傾向は分かった。衣服を着用したまま肌を晒すエロチシズム、通称着エロというやつだ。
残り二冊も同じ系統の本で彼の性癖がはっきりとした。そのままページを進めれば読み癖のついているページを発見。詰まるところ一番性的欲求を高められるページ。
浴衣を着た女がそれを着崩しているのだが別のところに問題があった。この女の顔が私に似ているということだ。雑誌に載るほどの女性と人が似ているなどと自意識過剰かもしれないが似ていると感じてしまったのだから仕方ない。彼女としては嬉しいような、自分よりスタイルの良い女性に嫉妬するべきか。
「おーい何してんの」
「んー……」
声がした方へ振り返れば上半身裸で肩にタオルを掛けた彼が部屋の入り口に立って私を見下ろしていた。髪の先から水滴が胸筋に落ちていく様は少し色っぽくもあり、思わず喉が鳴る。
彼に背を向けるようにして座っていた私の手元が気になったのか覗き見た彼はその正体に気づいて目を見開いた。
「ちょ! それ、なに!」
「あっ」
「え、ちょ、どこか……え、何で!?」
「あはは。言葉になってなさすぎ」
瞬く間に私の手元から雑誌を奪い取った彼は混乱してまともに言葉になっていない言葉を発していて思わず吹き出してしまった。隠していたエロ本を彼女に見られていたのだから狼狽するのも無理ないか。
必死になってエロ本を背後に隠す彼と手持ち無沙汰な私の二人きりの空間をほんの一瞬だけ静寂が包む。
しかしそれも束の間で、見る見るうちに顔を赤くさせた彼が恐る恐るといった感じに口を開く。
「み、見たのか……?」
「う、うん。一応……」
あまりにも可愛い反応に驚いてしまったため変な返事しか出来なかった。何が一応だったのか私でも分からない。
「……見られたなら気付いているだろうから白状する。おれはお前似の女優で抜いてますっ」
「そ、そんなこと堂々と告白しなくていいから!」
今度は私が赤面する番だった。風呂上がりだったのも相まってか全身が熱い。自分が発端なのに急に恥ずかしさが込み上げてきて、顔を見られたくなくて下を向く。そんな私の心境を知ってか知らずか彼がにじり寄ってくるのが分かって思わず後ずさる。
しかしそんなのは無駄な抵抗。両腕を捕まれしっかりと顔を上げさせられ再びお互いを見つめることに。頬が赤くちょっと拗ねたような表情の彼が私を見つめるので私もしっかりと見つめ返す。しかし口は重い。
「……好き」
「……知ってる」
「……」
「私も好き」
「……知ってる」
再び沈黙が訪れる。けれども気まずさはない。
「……シていい?」
「……いいよ」
今日はする予定なんてなかったけど、彼の縋るような声に思わず頷いていた。ベッドの下なんてベタな所に置いとくな! 全部あのエロ本のせいにしてしまえ。