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娘の幸せは side 公爵




娘が、毒を飲んで倒れた。



見つけたのは朝方、侍女が娘を起こしに行った時だ。小瓶を片手に床で倒れていたらしい。


すぐに毒を調べたが、娘が用意したのか机の上に手紙が置いてあり、中身を読んで酷い後悔に苛まれた。



マシュー殿下が学園に入学してから1人の令嬢と懇意にしていた事は把握していた。


学園内で娘に隠れて寄り添って過ごしているが、それ以上の事はないと聞き、また殿下の中で娘を妃にする事は決定事項である事が判明した為、こちらからは特に動かなかった。


王や王太子だけは子供に恵まれなかった場合、側妃や愛妾を持てる一夫多妻制だ。


いずれ王妃になる娘には、夫が複数の妻を持つ可能性について心構えをしてもらわねばならない。



学園に入るまでは娘を寵愛していたくせに、学園に入って数多くの女を目にした途端に他の女、しかも男爵令嬢ごときに(うつつ)を抜かす愚か者だった事に怒りを覚えるが、


ここで公爵家として事を荒立て、王家との間に(わだかま)りを作り、娘の王妃としての道に影を差すわけにはいかない。


日増しに傷ついていく娘に心が痛んだが、王妃として上に立ち続ける為にはこの苦難を乗り越える胆力を身に付けなければならない。


その力が後の娘の盾となり、娘を守るだろう。



だから婚約解消を願い出る妻を宥めて、私は傍観の姿勢を取った。



それが間違いだった事を、娘の残した手紙で知った。



まさか、まさか殿下が面と向かって娘に浮気の了承を求める愚か者だったと、誰が思うか。



教師陣に優秀と言わしめた王太子が、そんな気が触れた事をするなんて誰が思う?


それによって娘がどれほど傷つけられるか何故わからない?



娘に了承をもらったからと言って公然と男爵令嬢を側に置き、学園内で明るいうちから情事に耽る馬鹿に成り下がったと、娘が倒れた後の調査で報告を受けた時には殺意が湧いた。



まだ目覚めない娘に妻は泣き縋り、私を責める。



責められて当然だ。王太子の監視をずっと続けるべきだった。そんな事が起きていたなら王を脅してでも婚約を破棄させたのに。


娘に我慢などさせなくても良かった。元々は王太子が望んだ婚約で、王の従兄弟である私がわざわざ王家との繋がりなど持つ必要性はなかったのだ。


王家から婚約の打診があるまでは、婿を取って一人娘に公爵位を継がせるつもりだった。



だが娘が殿下を愛し、王妃になる事を望んで10年努力していたから、その努力をただの一時の色事のせいで無下にして欲しくなかったのだ。



しかし今となってはそんなもの、どうでもいいことだった。未来の娘を守る事より、目の前の娘の心を守らねばならなかったのに、



私は娘の幸せを間違えた──。



娘は王妃になりたかったのではなく、ただ愛する人と幸せな夫婦になりたかっただけなのだ。


王妃になり、国と夫を支える事が2人の幸せに繋がるならと、殿下との未来の為に努力しただけなのだ。



その一途な想いを殿下が踏み躙った。


歴史的に見ても、優秀だった王が色事で国を傾ける事例などいくらでもあったのに。



娘が飲んだ毒は魔女の毒と言われ、


北の森に住む、魔女に許された者しか辿りつけないとされる店で購入したものらしい。



命に別状はないが、最愛の人に関するものを忘れる毒で、副作用として記憶整理のために1週間から10日ほど眠りにつくと手紙に書いてあった。


そして手紙の最後の方に、



──殿下を愛した私を殺す事を、お許しください。




娘の悲痛な声が書いてあった。


手紙の上に涙がポタポタと落ち、インクを滲ませていく。娘の受けた心の傷に胸が張り裂けそうだった。



10年妃教育を受けた娘は王家の裏まで知っている。


王家の秘密を抱えた娘を、彼らが手放す訳がないとよくよく知っていたのだろう。



だから妃教育の10年を、殿下を愛した10年を、



娘は殺す事に決めた。

自分の心を守るために──。




それを誰が責められようか。

娘は何も悪くないのだ。


心移りもせず、良き王妃になる為に学び、ただ真っ直ぐに、殿下を愛しただけだ。




手紙には、家に咎があるかもしれない事を気にしていた。目覚めたら修道院に入れて欲しい事も書いてあった。



どこまでも、自分の事より家や他人の心配をする娘に涙が止まらない。そんな事はどうでもいいのだ。



今私達が願うのは、辛い事から解放され、娘が昔のように、心から笑えるようになってくれる事だけだ。



幸せになってくれる事だけだ。





────10日後、娘は目を覚ました。


娘が書いた手紙の通り、



殿下の事、殿下の側近の事、男爵令嬢の事、王や王妃の事、妃教育の全てを忘れていた。





久しぶりに、


晴れやかな娘の笑顔を見た。





もうこの笑顔を曇らせぬよう、

私がする事はただ一つ。




あの愚か者を捨てる事だ。




我が公爵家はもう二度と王太子を支持しない。


それが周りの貴族達にどれほど大きな影響を与えようとも、こちらの知ったことか。




───あの男の自業自得だ。

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『私の愛する人は、私ではない人を愛しています』

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挿絵(By みてみん)



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