16.9
「そもさん」
これは、ボクは台詞だった。
「せっぱ」
これも、ボクのセリフだった。
本来なら、これはダレカとやる掛け合いだ。
ボク一人でやることではない。
それでも、ボクは続けた。
「年端もいかない小さな女の子を、悪意で取り囲んでいるアノ人たちは何者でしょうか」
ボクの謎かけに、ボクが答える。
誰にも、聞こえない声で。
「答えは、『魔女』です」
周囲は、その魔女たちで埋め尽くされていた。
そして、その魔女たちは、口々に叫んでいる。
「殺せ」だの「吊るせ」だの「さっさと死なせろ」だの「早く消せ」だの、およそ淑女とはかけ離れた口さがない雑言の嵐だ。
中には、口角から泡を飛ばしながら禁止用語を連呼するようなお上品な魔女までいる。
魔女たちは、一切、その殺意を隠そうとはしていない。
その殺意の坩堝にいるのは、小さな女の子だ。
たった一人の女の子を相手に、あの魔女たちは殺意の原液をぶつけている。
それが、『魔女裁判』だ。
現行の裁判制度と比べれば、それはあまりにもお粗末で、茶番ですらないのごっこ遊びだ。
それでも、有罪判決を受ければ、被告はこの世界から人知れず消えることになる。
それが、現代の『魔女裁判』だ。
そして、その被告となっているのが、あの小さな少女だ。
彼女は、手枷で拘束されていた。しかも、後ろ手に。
「時代錯誤もいいところだ」
なら、こちらも時代錯誤でいくだけだ。
「あっちが魔女なら、こっちは王子様だ」
ボクは、一歩を踏み出した。
魔女たちの渦中へ。
ボクは、今から王子様だ。
一人の少女のために命を懸ける、一人の王子様だ。