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6.”理想の聖女”と提案

本日2話目の更新です。

それから、シェリーは今までと打って変わって聖女教育に意欲的に取り組むようになった。“理想の聖女”としてのふるまいも意識するようになった。…その反動で、最初の頃はファルマの元へ行く回数が非常に多かったが、彼女は優しく笑って迎え入れてくれた。


1年も経つと、シェリーの“理想の聖女”としてのふるまいも堂に入ったものになってきた。それに比例するように、神殿内でのシェリーの評判も上がるばかりだった。


 その微笑みは癒しをもたらしてくださる

 そのお声はまるで天使の標のようだ

 そのお姿は女神ルミーナ様のように神々しい


 シェリーは内心馬鹿らしいと思うが、もちろんそれを顔に出すことはない。こちらに迷惑をかけなければそれでいいと思っている。


 だが、シェリーがそのような振る舞いを心掛けてから、自分の内面も変わってきたことは事実だ。聖女至上主義が強すぎることは困りものだが、勤める人々の優しさに触れて、やれることは頑張ろうと思ったのだ。もちろん、完璧に心を許したわけではない。自分の心の内側に入ることを本当に許したのはファルマだけ。シェリーは周りに一線を引きながらも、絶妙に距離感を保って生活していた。


 そして今日、ファルマから久々に呼び出された。大体はシェリーが自然を装って押しかけるのだが、もちろんファルマからも今日のように呼び出されることはある。シェリーは内心の嬉しさを隠し、平然を装って彼女の元へ向かった。


 二人で少し世間話をしてから、ファルマが人払いを命じる。部屋に完全に二人きりになって防音の魔道具を起動させた。


「ファルマ様からお呼びいただいて嬉しいわ」

「ふふ、貴女はいつも素直にお礼を言ってくれるわね」

「だって私、この時間が一番好きだから!」


 シェリーはニコニコと笑ってケーキを頬張った。いつもおしとやかに、優しく微笑む彼女の無邪気さを知っている人間がこの神殿に何人いるだろう。大口で笑い、ファルマを本当の祖母のように慕う彼女の様子は、きっとこの空間でしか見られないだろう。因みに、シェリーに敬語を使うなと強要したのはファルマだ。シェリーの家出(?)事件の後、「私、本当は孫が欲しかったの!」とファルマが言ったのだ。可愛らしくはしゃぐ彼女に、シェリーは苦笑しながらも受け入れた。


「シェリー、今日は大事な話をしたくて来てもらったの」


 それまで頬に手を当ててケーキを堪能していたシェリーは、彼女の真剣な瞳を見るとスッと背筋を伸ばして向き直る。



「…あなた、この神殿を出ていく気はない?」



 今までファルマから様々なことを教えてきてもらった。図書館にある小さな落書き(ファルマのいたずららしい)、真夜中に何か()()と言われている4階資料室の噂、たまたま迷い込んだ猫が生んだ子猫が使用人棟でひそかに飼われていて、母猫の名前はリーだとか。因みにシェ()()()()を取ったと聞いたときは…苦笑いした。


 また、時には情報集めの訓練をさせられることもあった。初めの頃のお題はそれこそ小さな噂話や神殿内でのブームなど可愛らしいものばかりだった。だが、だんだんとそれが神殿内での勢力図の把握や外部からくるお偉いさんたちの話から、指定された情報を聞き出すことなどに変わっていったのだ。初めは意味が分からなかったが、それをこなしていくうちに自身の振舞い方を臨機応変に対応させていくことができるようになった。


 この閉鎖された神殿の、それも“聖女”という立場では情報は必須。ただ流されて傀儡として生きていくわけではなく、自分の意思を持って行動していくために。そのことを、ファルマは教えてくれた。


 今回もその類だと思ったら、全くの予想外でシェリーは暫く口をぽかんと開けたままだった。


「ごめんなさいね、いきなり驚かせてしまったかしら?」

「えと、その…はい」

「来月…、大聖女引継ぎの儀式が行われるでしょう?」


 シェリーはこくりと頷いた。

 来月、シェリーは15歳の誕生日を迎える。そこで初めて、“大聖女引継ぎの儀式”の後に帝国へシェリーのお披露目が行われるのだ。


「おそらく、その日を過ぎたらあなたがここから出ることは出来なくなる」

「………」


シェリーは、じっとファルマの真意を探るように目を向ける。シェリーの視線を真正面から受け止めたファルマは、その視線に満足するようにふっと笑ってから席を立ち、引き出しから何かを取り出して持ってきた。席に着いたファルマは、シェリーの目の前に()()()を置く。


「これ、なんで…」


 それは、母から貰った首飾りと、10歳のあの日、戦火に向かう前に出会った“ウィル”から手渡された紐飾りだった。シェリーは目の前の首飾りと紐飾りを震える手で大切に手に取り、そろそろとファルマの方を向いた。


「…ファルマ様」

「どちらも貴女が大事に握りしめていたそうよ」

「なんで…なんで今まで……っ!!」


 ギリッと歯を食いしばり、シェリーは涙を目に溜めたままファルマを睨みつける。


 なんで今まで教えてくれなかったの?返してくれなかったの?信じていたのに!貴女だけは信じられると思ったのに!私は騙されていたの―――…!?


 だが、ファルマは悲痛な顔をするわけではなく。

 まるで“情報”の課題を出すときのような表情でじっとこちらを伺っている。

 

 何か違う。何かがある。


 そう気づいた時、ファルマがゆっくりと口を開いた。


「その二つ、共通点があるのよ」

「きょう、つう…てん?」


 そろそろと、シェリーは手の中のものに目を向ける。


 母に貰った首飾りも、ウィルに貰った紐飾りも、火事のせいで煤汚れていて、あの時の見た目とは程遠い。


 ここから導き出されるものは何だ。

 ファルマ様は何を言いたいの…?


 その時ふと、首飾りの先についているひし形の裏が、何か手触りが違うように感じられて。それを裏返してみると………。


そこにはうっすらと、一つの紋章が彫られていた。


 隣国セントネラ王国の国章(エンブレム)


 この国章は各国でもちろん柄が違っており、貴族位を賜った者だけが国章の入った物を持つことが許される。これはどこの国でも共通だ。


また、セントネラ王国とヴァムリア帝国は陸続きになっている国であり、帝国がよりその偉大さを知らしめようとしているのにいつも邪魔をしてくる国、と聖女教育では教わった。


「なんで、セントネラ王国の国章が?…まさか、お母さんは」

「元貴族、だったかもしれないわね」

「………で、でも、そうだったとして、この共通点、って…え、こっちも…?」


 よくよく見てみると、留め具の玉の中に国章が描かれていたのだ。

 じっとその紐飾りを見ていると、彼女は教えてくれた。


「その編み方はセントネラ王国独自のものよ。伝統工芸品、とも言うかしら。あと、その玉の中に国章がデザインされているタイプはかなり希少よ。…それはあなたのお母さまから頂いたの?」

「これは…違います。友達、から…」

「…そう」


 ウィルのことを何て説明したらいいか分からなくて、とっさに友達と言ってしまう。というより。


 ウィルはセントネラ王国の貴族だったんだ。

 確かに、あの時騎士が探しに来ていたし、彼自身も良いものを着ていた気がする。


 ケガは治ったのかな。あの後早くお医者さんに診てもらえてたらいいな。あ、ノーランさんもケガしてたよね?ウィルたち、一体なにがあったんだろう。とにかく元気でいてくれることが一番なんだけど…。


「…ウィル、元気かなぁ」

面白かった!続きが気になる!という、お優しいそこのあなた!!

☆☆☆☆☆を押してくださると泣いて喜びます!!

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