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4.聖女至上主義

本日2話目の更新です!

(土日は2話投稿していきたいと思います!

ストック無くなったら毎日一話投稿になると思います!笑)

 それから、神殿での暮らしが始まった。

 あの時、村の現状を教えてくれた騎士はディーマン・ザクルト、17歳。聖女専属護衛部隊である、神殿騎士団所属だ。

 シェリーの日常には、常に彼がそばにいた。聖女教育の時も、庭を散策するときも、晩餐の時も。交代で複数の騎士が職務にあたっていたが、それにしてもディーマンが一番傍にいた。

 ただ、それは単なる護衛のためだけではない。


 逃げられないようにするためだった。


 いきなり神殿に連れてこられ、いきなり聖女だといわれ、ただの平民が大勢の人に傅かれる生活に変わったのだ。

 シェリーはそれを喜べるような性質ではなかった。村での暮らしは素朴で、ぜいたくだとは到底言えなかった。だが、その暮らしはいつも笑顔に溢れていた。喧嘩もしたし叱られることもあったけど、他愛ないおしゃべりをして、たまに隣の家のエラおばさんから野菜のおすそ分けをもらって、友達のリオンとビルマの3人で鳥の巣を見つけて、夏はみんなでお祭りをして、冬は雪玉を投げ合って遊んだ、そんな暮らしが大好きだったのだ。


 それが、いきなり自分が偉い人になって、自分のことは何もさせてもらえなくて、どこへ行くにも人の目があって、やってはいけないことばかりのこの生活は本当に窮屈で。


 もう、村は荒れ地になってしまったと聞かされた。遺品もすべて燃えてなくなってしまったと。

 あの日、盗賊が襲って来たらしい。そのうちの一人が脅しに火矢を放ったが、それが運悪く燃え広がってしまったと。

 盗賊はもう国の方で捕まえたらしいが、私の故郷はもうないのだと、そう言われた。


 それに何より、シェリーは癒しの力を使っても、みんなを助けることができなかった。


 これのどこが聖女だというのだ。一人でのうのうと生きる意味はない。だから、初めのころは泣いて怒って反抗した。


 こんなところにいたくない。

 村に帰りたい。

 私は聖女なんかになりたくない。

 

 でも、私の心の叫びに耳を傾けてくれる人はいなかった。



 ヴァムリア帝国は聖女至上主義。


 しかも、これはシェリーが神殿に来てから聖女教育を受けていくうちに知ったことだが、聖女たちの中でも一番力を持つ聖女を“大聖女”と呼ぶ。大聖女は王の統治と共に、より力の強い者へと代替わりされる。


 ただ、ここ最近、深刻な問題が発生していた。今代の大聖女の力に陰りが見えてきたのだ。


 今代の聖女は近代史の中でも歴代最強。彼女のその力でもって、ヴァムリア帝国はより諸外国への影響力を強めてきた。そして、彼女に匹敵する聖女は、今の神殿にはいなかった。彼女が特別抜きん出ており、他の聖女たちの実力は平凡だったのだ。

 時の政府たちは焦った。大聖女の力の衰えは、今、勢いを持ってこの国の権威を他国に知らしめようとしている帝国にとってはひどい痛手になる。だから、ここ数年は特に聖女の捜索に力を入れてきたのだ。少しでも可能性のある聖女候補は、皆神殿に連れてくるように、という国王の内密な指令の元。

 そんなとき、シェリーがやってきた。しかも、今代大聖女よりも強力な力を持っているときた。シェリーは、特に神殿と国の重鎮たちにとって救世主のような存在だったのだ。

 ゆえに、シェリーの意思など、関係ない。


 この国にとって、彼女は自分たちの力を存続させるための“救世主(道具)”なのだから。


 また、国民にとって聖女は自分たちを助けてくれる存在。神殿にとっては、仕える栄誉に喜びより一層崇める。そして、この国で聖女に選ばれるということは“神”から選ばれるということ。


 “聖女至上主義”とは、表向きは言葉通り、女神ルミーナの使いである聖女を大事にするということ。


 実際は、国に奉仕させるための、都合の良いすり替えでしかないのだ。



 このため、嫌がる人がいるなんて、誰も思わない。

 周りの大人たちはみな、シェリーのことを宥めた。不幸な事件で親を亡くし、住む場所を失った哀れな少女が、寂しさからわがままを言っているだけなのだと思ってこの生活に慣れるまでの辛抱だと、シェリーに言い聞かせた。

 彼女の周りに理解してくれる大人はいない。


 シェリーは日に日に感情を表に出すことをやめた。ただただ、淡々と言われた勉強をこなし、仕事をこなした。

 そんなある日、“今代の”大聖女様に呼ばれ、彼女とのお茶会へ行くことになったのだ。彼女は力が衰えているとは言え、まだ現役だ。だが、シェリーのお披露目と同時に代替わりするらしい。


「ファルマ様にお呼ばれされるのって久しぶりね」

「嬉しそうですね」


 この知らせを持ってきたディーマンが、にこやかに微笑みながら言う。シェリーの頬はほんのりと赤く染まった。


「そ、そうかしら」

「ええ、焼けます」

「やっ」


 焦って再び彼の顔を見るが、そこにはいつものにこやかな微笑みだけ。


(ほんと胡散臭い…)


 彼はいつもにこやかに微笑んでいるだけなのだ。時折こんな調子でからかわれるのだが、本人は滅多に表情を変えることはない。ただ、シェリーから見た彼の性格から言って、あまり冗談を言うタイプじゃないのだ。

 それに、いつもにこやかな表情を湛えているものの、シェリーと一緒にいる時の顔は目が一際優しい―――と、侍女たちから聞いたことがある。


 …この神殿に信用できる人物は、ほぼいない。

 それは、ディーマンでさえも。



 ―――そうやって思っていないと、“聖女シェリー”を受け入れてしまいそうで、……村のみんなを裏切るようで、怖いのだ。





「今代様、シェリー様をお連れいたしました」

「どうぞ」


 室内からゆっくりと、優しい女性の声が聞こえる。扉を開けて中に入ると、シルバーグレーの胸まである髪を横に流したて一つにまとめた、壮年の女性がいた。


今代大聖女、ファルマ・クレイラス。


 その身に宿る癒しの力で、数多くの人々を救い、ルミーナ教の布教に尽力。延いてはヴァムリア帝国の覇権を強めた立役者。

 初めて彼女に出会ったとき、前情報だけで内心ビビりまくっていたのだが、本人は全くそんな空気を微塵も感じさせなかったのだ。すべてを優しく包み込むような彼女の雰囲気に、シェリーはただただ見とれていた。そんな彼女の様子を見て、膝を折ってシェリーと目線を合わせたファルマは、柔らかく笑ってこう言った。


「初めまして。ファルマ・クレイラスよ。よろしくね」


 その笑顔に、シェリーは神殿に来てからずっと張りつめていた緊張の糸がぷつんと切れてしまった。


 涙が溢れて溢れて止まらなくて、ファルマに抱き寄せられると更に大泣きして、仕舞いには泣きつかれてそのまま眠ってしまったのだ。




「いらっしゃい、シェリー。急に呼び出して悪いわね」

「いえ、お呼びいただけて光栄です」

「ふふ、よかった。こちらへいらっしゃい」


 席に着いたシェリーをにこりと見たファルマは、侍女にお茶を淹れさせる。温かいお茶にほっとして、ファルマは口を開いた。


「久しぶりね、元気にしていましたか?」

「はい、皆に良くしていただいています」

「そう、よかったわ。…ここに来た当初は泣いてばかりだったのにね」

「その節はご迷惑を…」


 ふふふと笑ったファルマに、シェリーは顔が赤くなるばかりだ。


 ファルマは、シェリーにとって第二の母であり祖母のような存在なのだ。彼女には一番話を聞いてもらったし、癒しの力の使い方を教えてもらった。この神殿の中で一番信頼できる人なのだ。彼女のおかげで心を保ち続けることができたと言っても過言ではない。…なので、その分恥ずかしい姿もたくさん見られてきている。時々こうして昔話をされるのは非常にいたたまれなくなる思いで仕方ないのだ。

 因みに、こうしてシェリーをからかうことは、ファルマにとってある種の生きがいにもなっている。反応が純粋でかわいいのだ。

面白かった!続きが気になる!という、お優しいそこのあなた!!

☆☆☆☆☆を押してくださると泣いて喜びます!!

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