表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/40

第6話:騎士は目覚め、その声を聞く

 

 遠く――、ワルツの旋律が聞こえてくる。

 まだ、ギーザはカイルと踊っているのだろうか。

 それか、知らないガキが彼女の手を取っているのだろうか。

 そんなことを考えて大人げなく苛立っているうちに、眠りに捕らわれていた意識が闇から解放される。


「……ギーザ」


 愛おしいその名を呼びながら、俺はゆっくりと目を開ける。

 そこは見覚えのない寝室だった。

 どうやら俺は、倒れたあと別の部屋に運ばれたらしい。

 ワルツがかかっていると言うことはパーティは再開されたのだろう。と言うことはさほど時間は経っていないに違いない。


「まだ……間に合う……かな」


 身体を起こし、俺はゆっくりとベッドを出る。

 思いのほか身体が重くて驚いたが、一応は歩けそうだった。


「でも、これじゃあダンスは……無理そうかな……」


 思わずに独り言をこぼしながら、俺は部屋を出る。

 悪魔に取り憑かれるとこんなにも疲弊するのかとげんなりしながら廊下を進むうちに、俺は違和感を覚えた。


 先ほどと、別荘の間取りが違う気がするのだ。

 むしろここはギリアムの実家に似ているなと思いつつワルツの旋律を辿りに歩みを進める。


「……もう、いい加減忘れろ!!」


 そんなとき、聞き覚えのある声が耳朶を打った。

 だがその声は、この世界の物ではなかった。


「えっ、石田さん……じゃないのこれ……」


 石田さんとは、前世の世界で有名だった声優である。たしか、彰さんとも呼ばれていた気がする。

 さほど声優に詳しくないが、嫁が石田さんのファンだったせいで色々なアニメを見せられたため、覚えていたのだ。


「え、石田さんって異世界にもいるの?」


 思わずこぼすと同時に、俺はそこではっと喉に手を当てた。


「お、俺も……声……変わってるぞ……」


 石田さん以外の声優を知らないので誰かはわからないが、めっちゃ良い声が口から出ている。

 なんかこの声も凄く有名な気がしたがど忘れしてしまった。

 でもたしか、渋い声が人気の誰かだった気がする。


「え、なにこれ……この世界って変声期とかあんの?」


 それも、声優の声に変わっちゃうの? などと馬鹿なことを思いつつ「あー」とか「うえー」とか美声の無駄遣いをしていると、突然側の扉がバンッと開いた。


 これまた無駄な美声で「ひゃあっ」とか驚いていると、扉の向こうから一人の美少女が現れる。


 彼女と目が合い、そして俺は再び声を無駄遣いした。


「ほえ?」


 ラノベのヒロインみたいな間抜けな声を出した瞬間、トンッと胸に衝撃が走る。


「馬鹿ああああああ!!!」


 いきなり罵るその声も、凄く可愛くて綺麗だった。

 そしてその声を聞いた瞬間、俺は目の前の美少女が誰だか気づいてしまった。


「ぎ、ギーザ?」


 尋ねても返事はなかった。だが彼女に違いなかった。

 ただし俺に抱きついているのは、どう見ても十七、八歳くらいだが。


「もしかして俺、タイムスリップとかしてる……?」


 転生だけじゃなくて、新たな要素が増えてる?

 などと混乱していると、そこにもう一つ見知った顔がやってくる。


「あ、アシュレイ……なのか?」

「い、石田さん……って、こんな顔じゃないよな?」

「何を言ってるんだ! 俺がわからないのか!?」


 青い瞳と赤い髪を持つ彼は、もの凄くイケメンだった。そして見覚えもあった。


「カイン、お前デカくなるの早すぎだろ」

「馬鹿言うな、あんたがずっと……ずっと……」


 そこで今度は、カインまでもが抱きついてくる。


 気がつけば二人して泣き出し、俺は途方に暮れていた。


 誰かこの状況を説明して欲しいが、二人はしばらく無理そうだ。

 なので仕方なくそのまま二人の背中をポンポンしていると、ようやく事情を知っていそうな顔が現れる。


「おおギリアム! 良いところに来た!! 頼むからこの状況を説明してくれ!」

「……!!」


 だが俺の顔を見た瞬間、ギリアムがもの凄い勢いで俺へと駆け寄ってきた。

 そしてギーザたちと同じように俺にぎゅっと抱きついてくる。

 泣いてはいないが、彼の肩も震えていた。そして、不思議な香りがした。

 これはあれだ、親父の枕の香りに似ていた。

 

「ギリアム、お前ちょっと加齢臭するぞ」


 ばしっと頭を叩かれて、その衝撃で俺の頭にある考えが浮かぶ。

 多分、俺はタイムスリップなんてしていない。


「もしかして俺、結構寝てた?」


 質問するとそこでギーザが俺を睨み付ける。


「結構どころじゃありません! あなた、十五年も寝ていたんですよ!」

「じゃあ俺も……加齢臭する?」


 質問の答えはなく、代わりに三発の腹パンを俺は食らった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ