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騎士は禁止令を出される(前編)


「さて……」


 相も変わらず気難しい顔で、親友のギリアムが紅茶を傾けている。

 多分ここは緊張すべき所なのだろうが、場所が場所だけに俺はなんとも言えない複雑な気持ちになっていた。


「ついに、お前ともデートイベントが発生するとは……」


 元ゲームの悪役であるギリアムには全く似合っていないが、ここはイケメンキャラたちと散々お茶をしたあのカフェである。

 彼から『ギーザの件で話がある』と言われたときは何事かと緊張したが、指定された場所がこのカフェだと知った時は別の意味でドキドキした。


 まあさすがに、こいつとのフラグは立っていないはずだけど。


「まず最初に言っておく。アシュレイ、俺はお前が好きだ」

「ブフッ!」


 思わず紅茶を吹き出すと、ギリアムが唖然とした顔をする。

 しかしそれは、俺がするべき表情である。


「お、おおおおお、お前……なんだ突然……!?」

「……馬鹿な勘違いするな」

「か、勘違い……?」

「友としてという意味だ」

「紛らわしいこと言うなよ!」

「仕方ないだろう、これからお前に少し厳しいことを言わねばならないのだ」


 ただ自分としては不本意なのだと伝えるために、お前のことは嫌いではないとそう言いたかったらしい。


「ま、紛らわしいこと言うなよ……」

「俺がお前を愛しているとか、ありえないだろう」


 私は妻一筋だと、冷たい目で見られる。

 もちろんそれは知っているが、それでも誤解してしまったのは妙に男性キャラに好かれやすいこの体質のせいだ。

 その上彼女からBLノウハウをたたき込まれているから、どうしても腐った展開が頭をよぎってしまうのだ。


「そ、それで厳しい事って何だ? まさか、ギーザはお前にはやらん……とかか?」

「今更そんな事言うわけないだろう。もう既に、お前らの婚約は受理されているしな」

「ブフッ!?」

「なぜそこで紅茶を噴き出す。ギーザが一度破棄してしまったが、ちゃんと申請を出してやったんだから喜べ」

「い、いや……嬉しいぞ! でも俺は、その……実は……」

「ああ、プロポーズに失敗したことか。それは既に報告を受けている」



 先週、俺とギーザは念願の初デートに成功した。

 彼女はいつになく積極的で、こことは別のカフェでケーキも食べ、あーんもし、これはいけると思った俺はロマンチックな雰囲気を醸し出す湖畔の桟橋で、彼女にプロポーズをしようとしたのである。


 しかし、残念ながらプロポーズの方は散々だった。

 桟橋は老朽化していて、俺は板を踏み抜き湖に落下。その際落とした婚約指輪は目の前で魚に食われ、以来見つかっていない。

 結婚して欲しいと言う言葉ごと水に飲まれた俺は、その後風邪を引き3日も寝込むという始末である。

 

「ギーザから聞いたが、面白すぎて妻と大笑いした」

「笑い事じゃねぇよ! めっちゃ高い指輪だったのに!!!」

「買い直せば良いだろう」

「残ってた貯金つぎ込んだんだよ! お前と違ってこちとら安月給の騎士だし十五年も寝こけてたから金がない」

「ああ、そういえばギーザの護衛代をまだ払っていなかったな」

「払って貰ってもそれで買えねぇよ。実質お前の金だろ」

「じゃあどうするつもりだ」


 とりあえず、ゲームの時の金策方法を実践してみるつもりだと俺は答える。

 このゲームのアクションステージには宝石や金になる骨董品などが隠されていた。

 天井や壁に張り付いている宝石を撃ち落としたり、パズル的な仕掛けを動かすと財宝的な物をゲットできるのだ。

 それを駆使してひとまず金策をすると言うと、ギリアムは苦笑を浮かべた。


「そう上手くはいかない気がするが、お前がギーザのために頑張りたいというなら止めはしない」

「ああ、頑張って稼ぐ」

「だがそれと平行して、結婚の準備は進めておくからな」

「いや、だからまだプロポーズは……」

「お前はあと数回は確実にしくじる。そしてそれを待っていては、いつまで経ってもギーザが嫁に行けないだろう」


 それに……と、ギリアムがそこで一枚の紙を差し出す。

『結婚までの決まり事』と書かれたそれを見て、俺は思わず青ざめた。


「ま、待て待て待て待て!!! 婚約から結婚まで二年開ける事って何だよ!?」

「我が国では、貴族の結婚には色々と決まりがある。そんな常識的なことも忘れたのか?」


 すっかり忘れていた。

 そういう仕来りがあるから、思えばカインとギーザの婚約も生まれてすぐ決まったのだ。同様に貴族たちは皆、子供が幼い頃にとりあえず相手を決めておくと言うことも多いし、社交界デビューが十三歳と早めなのもそのためだ。

 

「そしてわかっているとは思うが、結婚するまで清い関係を貫けよ」

「清い……」

「まさかとは思うが、もう既に……」

「な、ないに決まってるだろ! つい先日まで、熱で寝込んでたんだぞ」

「ならば良いが、二年はだめだぞ」

「長い……長すぎる……」


 こちとら前世から好きで好きでたまらなかった相手とようやく両思いになれたのだ。だったらもう諦めて二年くらい待てと言われるかもしれないが、それでも辛い物は辛い。


「プロポーズも成功していないし、結婚に際して色々と用意するものもあるんだ。その準備をしていればあっという間だ」

「……ちなみにあの、キスくらいは……」


 じろりと睨まれ、俺は慌てて手元のケーキに目を向ける。

 まだ一口も手をつけていないそれは俺の大好物だが、もはや喉を通る気がしなかった。



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