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第4話:騎士はまたお父様に叱られる


「お前、何した?」


 翌日、昨晩の夜更かしがたたったせいか、俺が起きたのは午後も遅い時間だった。

 最近寝過ぎだなと苦笑しつつ、食事をとりに食堂へ行くと、そこで待っていたのはギリアムの渋い顔である。


「何って?」

「……とぼけるな。先ほど、学校から使いの者が来た」


 思った以上に展開が早いなと思いつつ、俺はゆで卵を頬張りながらギリアムの鋭い視線を受け流す。

 

「学校に、悪魔がでたそうだ」

「そうか」

「そのうえ、悪魔は女子生徒のハンカチを盗み、次は下着の盗難をほのめかしているらしい」

「それは大変だな」


 自分が原因だとバレないよう、無関係だという顔で頷いてから俺はゆで卵を食べる。

 我ながらいい演技だと思っていたが、そこでギリアムがぐっと俺に身を乗り出してくる。


「あと、お前の右腕を名乗る男が尋ねてきたぞ」

「……ぐっふ」


 最後の一言はあまりに予想外で、俺はゆで卵を噴き出した。


「男は悪魔だと言い張っている上に、お前に会うまでは帰らないと聞かないので客間に待たせてある」

「いや、あの、悪魔なんて俺はしらな――」

「奴はお前そっくりの似顔絵まで持参して、『私の魔帝に会いたい』と言っていたんだぞ?」


 と言うなり奴が持参したらしい似顔絵を差し出された。無駄な絵心に、俺は頭をかかえる。


「お、俺はいないから帰れと言ってくれ」

「……悪魔に、そんなことが言えるか」


 ギロリと睨まれ、俺は口笛を吹いて誤魔化す。昭和感溢れる誤魔化し方で、もちろんギリアムが納得するわけがない。


「とりあえず事情を話せ」

「……正直、俺もよくわかってないくらいでさ」

「なら、馬鹿なお前の代わりに俺が理解してやる。話せ」


 有無を言わせぬ言葉に、俺は渋々昨晩のことを話す。

 一通りの話を聞いたあとギリアムもまた頭を抱え、最後はマルを呼び寄せた。


 その後もう一度話をすると、今度はマルも頭を抱えた。

 友人二人を悩ませるのは申し訳ないなと思っていると、そこにふらりとやってきたのはレインだ。

 どうやら待ちくたびれて応接間から脱走してきたらしい。

 見れば、レインにはあのたいそうな翼はなかった。彼なりに俺のことを気遣い、人間の姿でここまで来たようだ。


「主、この方たちは?」

「俺の親友だ。こっちがギリアムで、こっちがマル」

「どちらも、なかなかの魔力をお持ちですね。あれですか、食事用に仲良くしているのですか?」

「なんだよそれ、悪魔ジョークか?」

「私は大真面目です」


 確かに、レインは真顔だった。


「えっ、やっぱり悪魔って人間食べるの?」

「人間の生気を食べるのです。魔力も同時に吸えると尚良しですね」

「吸うって、ちゅーてきな?」

「そういう摂取の方法もあります」

「男だぞこの二人」

「大事なのは性別ではなく魔力の濃さが重要なのです」


 そしてこの二人は美味しそうですねと真顔で言うレイン。それにギリアムとマルがたじろぎ、俺は食事風景を想像してうっと嘔吐いた。


「俺の唇はギーザ専用なのに……」

「くだらないこと言ってる場合じゃないだろう!」


 ギリアムに叱られ、俺は我に返る。

 それから気を取り直し、この二人は食事ではないと言い切った。


「しかし、それでは空腹感が消えないのではないですか?」

「そんなことないぞ。昨日もケーキをドカ食いしたらお腹いっぱいになったし」


 人間だった頃と比べると食欲はスーパーサイヤ人並に増えたが、お腹はいっぱいになる。


「おかしいですね……。悪魔は人間の生気をとらないと飢えて死ぬはずなのに」

「俺、色々規格外だから」

「たしかに、あなたのような器は初めてです」


 しみじみと言ってから、レインは改めてギリアムとマルに目を向けた。


「では、私が食しても?」

「駄目に決まってるだろ。こいつは俺のお父さんと親友だぞ」

「この二人は人間ですよ」

「俺だって元人間だ! それに身体はともかく心はこれからもずっと人間だ」


 だから殺すな、喰うなと力強く言うと、レインは「主の命じるままに」と従う。


 そんなやりとりを、ギリアムとマルは惚けた顔で眺めていた。

 たぶん悪魔であるレインが物珍しいのだろう。


「こいつ、悪魔だけどそんな悪い奴じゃないから心配するな。俺が言えば、下着泥棒だってしようとするヤツだし」

「……させるなよそんなこと」


 同情的な声を出したのはギリアムだった。そしてその言葉に、レインは味方を見つけたと言う顔で大きく頷いている。


「安心しろ、下着は盗ませてないよ。ただ俺は、あの学園にイケメンを送り込む口実を作りたかっただけだしな」

「それなら、お前の思惑通りに事は進んでいるようだぞ。学園側は、生徒たちに護衛がつくことを許可した」

「じゃあカインたちは入れるんだな、よかった」


 これで、嫁が望むイケメンパラダイスが無事できる。

 そのことにほっとしていると、そこでギリアムが俺に一枚の手紙を押しつけてきた。


「他人事みたいに言うな。これを持って、お前も今すぐ学園へ行け」

「え?」

「『え?』 じゃないだろ、悪魔の手先まで呼び出して馬鹿げた騒ぎを起こしたのは、ギーザを追いかけたかったからだろ?」

「いや、俺はただイケメンが学園に増えればそれで……」

「グダグダ言わずにいけ。お前は、今日からギーザの護衛だ」


 そこでようやく、ギリアムが押しつけてきた手紙が護衛の推薦状であることを俺は知る。


「俺が護衛だって知ったら、ギーザめっちゃ嫌がるだろうな……」


 それはわかっていたが、彼女にもう一度会えると思うとどうしても断ることは出来なかった。

 そして結局、俺はギリアムに言われるがまま学園へと向かうことになったのだった。

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