ある日部屋にランプがあったので磨いてみたら幼馴染が出てきました
「遅いわよ!学校遅れちゃうじゃない」
「ごめんごめん。でも先に行ってていいんだよ」
「そ、それじゃあんたが遅れちゃうでしょ。私は毎日あんたが遅刻しないように待ってあげてるのよ」
「遅刻なんてしないよ……」
今日も朝からご立腹だ。
先に行けばこんなイライラすることもないのに。
何故一緒に行きたがるのか僕には全くわからなかった。
僕の名前は、赤梨誠。
公立高校に通う高校二年生だ。
いつも寝ている僕は、顔だけは整っているためクラスのみんなには睡眠王子と呼ばれている。
「つべこべ言わず早く行くわよ!」
そう言って僕の手を引くのは、幼馴染の花園朱莉だ。
金色のツインテールとクリクリと丸い目は、幼さを感じさせるがそれを上回るほどの大きな胸が幼さなんてものをかき消している。
いわゆる美少女と言われる部類の人間だ。
しかし、彼女には少し難点があった。
それは……
「それにしても鈍いわね。もっと早く歩けないの!」
この毒舌だ。
彼女はいつも厳しい言葉ばかり浴びせてくる。
学校の男子で彼女とまともに話せた者はいない。
だが女子とは楽しそうに話すため、誰にでもこの態度をとっているわけではない。
昔はもっと可愛らしい子だったのに……
「睡眠王子も大変だな」
「その呼び方はやめてくれ」
僕は友達が少ない。
いつも寝ていたり、学校で人気の美少女と登校していることからよく目の敵にされている。
僕に話しかけてくれるのは今話している彼だけだ。
「でも幸せ者だぜお前は。結局まともに彼女と話せてるのお前だけだぞ」
「これをまともに話せていると言っていいのか」
僕は彼女にただただ付き合わされているだけだ。
話しているというより、彼女の話を一方的に聞いている。
「そういえば昨日の見たか?」
「昨日の?」
「アラジンだよ!見てないなんて勿体無いな〜」
そういえば昨日テレビでやっていた気がする。
今更ながら後悔している。
寝ることが好きな僕も、ああいう精霊が願いを叶えるようなファンタジーには憧れる。
この作品を見たほとんどの人は、家の中でランプを探したことだろう。
「魔法ランプとか憧れるよな〜」
「それには僕も同感だよ」
「よし!俺家帰ったらランプ探してみるわ!」
まあ、こうやって一人の男の子を影響させているのだから本当に凄い作品だ。
「僕も探してみようかな。叶えてほしい願いもあるし」
「何だよ願いって」
「誰にも教えないよ。精霊が出たら別だけど」
まぁそんなことあり得ないけど。
久々に部屋でも整理しようかな。
あり得ないとは思いながらも、少しワクワクしている自分がいた。
「ランプか……」
そして盗み聞きしていた幼馴染も。
――――
「今日はちょっと用事があるから先に帰ってて」
僕は久しぶりに一人で帰っていた。
彼女が用事なんて珍しかった。
大体彼女がやることには僕も連れて行かれていた。
「もしかして……デート?」
少しモヤモヤしながら帰路へと着いた。
「ただいま〜」
などと言ってみるが、家には誰もいない。
僕の親は共働きで帰りが遅い。
いつも夕飯はコンビニ弁当だが、時々朱莉が作りにきてくれる。
ありがたいが、彼女と一緒に食べる夕ご飯はすごく気まずい。
そして今日はコンビニ弁当かなんて思いながら、部屋のドアを開けた。
「何だこれ?」
部屋に入ると真ん中に汚れたランプがあった。
しかしよく見てみると、汚れではなく絵の具だ。
このランプに色々疑問を持ちながらも、不自然に横に置いてあるタオルでランプを磨いてみる。
「……」
「ランプの精霊なんか出るわけないか」
心なしか少し期待した自分が恥ずかしかった。
そしてランプ収めようとした時――
バタンっ!
大きな音をたててドアが開いた。
振り向くとそこには……
「何してるの朱莉」
精霊の衣装を着た幼馴染がいた。
「な、何の願いでもか、叶えてやろう」
もじもじと顔を真っ赤にしながら言ってくる。
とても願いを叶えられそうにない。
「朱莉?何でこんなこ……」
「わ、私はランプの精霊だ!」
もっと顔が赤くなる。
恥ずかしいならしなければいいのに。
まぁでもここまで頑張っているんだから乗ってあげるか。
「ランプの精霊さん。あなたの名前は?」
「あ、朱……アーニーだ」
グダグダだ。
朝の厳しかった朱莉はどこに行ったんだろうか。
恥ずかしがりながらもランプの精霊をしている朱莉は、とても可愛らしかった。
「じゃあアーニーさん。一つ目の願いは……」
朱莉ことアーニーが、真剣な眼差しで僕を見ている。
「お菓子を取ってきてもらおうかな」
これくらいなら別に重労働じゃないしいいだろう。
しかし彼女はいつもの顔にもどっていた。
怒っている。
あんまり怒らないような願いにしたはずなんだけど。
「そんなの願いじゃないわ!却下よ!」
何でだよ。
このランプの精霊はどうやら自分が納得する願いじゃないと、叶えてくれないらしい。
「じゃ、じゃあ朱莉……じゃなくてアーニーの料理が食べたいな〜」
これならどうだ!
朱莉は料理が好きだし、大丈夫なはず。
「お安い御用です。ご主人様!」
とても嬉しそうな返事が返ってきた。
そして満面笑みでキッチンへと向かった。
ご主人様なんてまるでメイドだ。
彼女はこのことを思い出して自分を殴ったりしないだろうか。
とても心配だ。
でも、めちゃくちゃ可愛かったな。
僕が自分の趣味に気づいた瞬間だった。
朱莉がキッチンで料理を作っている。
見慣れた光景だが、服装がおかしい。
普通は変だと着替えさせるところだが、美少女が着ているためどこかの国のファッションのように見える。
「ご主人様〜もう少しお待ち下さい」
それはもうメイドだ。
と言いたくなったが黙って置いた。
彼女はランプの精霊をえらく気に入っているらしい。
ここでやめさせるのは可哀想だ。
そうこうしているうちに机の上に料理が運ばれた。
「豚の生姜焼きです。お召し上がりください」
やはり豚の生姜焼きだった。
彼女の得意料理は豚の生姜焼きだ。
得意料理なだけあってとても美味しい。
ランプの精霊だから少しカレーを期待したのは黙っておこう。
「それじゃいただきます」
うん、美味しい。
何度食べても飽きない。
僕はお腹が空いていたのもあって、勢いよく食べた。
美味しい、とても美味しいのだが……
「ジーーーー」
朱莉がすごい見てくる。
これじゃ集中して食べられない。
「あ、アーニーの料理はとても美味しいね」
「そ、それほどでもないわよ!」
褒められた朱莉はとても嬉しそうだ。
「それではご主人様!二つ目の願いを答えよ」
朱莉はもうノリノリだ。
う〜ん、朱莉が怒らない願いはなんだろう?
「ご主人様?」
朱莉が心配して僕を見つめてくる。
可愛いな。
「心配しないで。願い事を悩んでただけだから」
というか朱莉のキャラが変わりすぎて怖い。
本当の朱莉はこうなのか?
「二つ目の願いは、皿をかた……」
「ダメです!」
「じゃあ願いは……」
「今日だけです」
なんでわかるんだよ!
一体なんの願いだったら叶えてくれるんだよ。
「…………できます」
「なんて?」
「添い寝ならできます!」
今日の朱莉はどうしたんだろう。
妙に積極的というかなんというか。
「添い寝は流石に……」
「ご主人様に決定権はありません」
僕の願い事なのに。
そして何回も考えさせようとしたが、彼女の勢いに負け添い寝することとなった。
「朱莉?」
「……」
さっきからずっとこの調子だ。
自分から誘ってきたのに黙ったままだ。
それよりも、
めちゃくちゃドキドキする。
幼馴染とは言っても高校生の男児二人が同じベットにいるなんて緊張するに決まってる。
しかも相手は美少女だ。
背中越しに朱莉の体温が伝わってくる。
すると朱莉が添い寝して初めて口を開いた。
「誠、最後の願いを教えて」
口調が違う。
ここはふざけていうところではないというのはわかった。
だけど彼女が言わせたいことはなんなのだろう。
「その前に僕から聞いていい?」
「何?」
「朱莉はなんでこんなことしたの?」
「今日ね、誠達の話聞いてたの」
アラジンの話か。
「それで誠が精霊にしか話せない願いがあるって言ってたから」
なるほど。
だから僕の願いにいちゃもんばかりつけていたのか。
「僕の願い聞く為にこんな衣装まで買ったの?」
「だってこんくらいすればいってくれると思ったから」
本当にこの子はバカだ。
僕なんかのためにこんなことまでするなんて。
僕は彼女の努力を知っている。
どれだけ苦しかったか。
どれだけ辛かったか。
全部知っている。
だからどんなに厳しい言葉をかけられようとも一緒にいると決めた。
彼女は不器用だ。
だけど本当は優しいことを知っている。
だからこそ彼女が知りたかった願いを教えないと。
「朱莉。僕の願いを言うね」
「うん」
「それはね、朱莉に僕のことを好きになってもらうことだよ」
「えっ」
彼女は驚いている。
それはそうだろう。
僕は彼女に一度もそんな態度見せたことないのだから。
「僕はずっと朱莉のことが好きだった。でも僕みたいないっつも寝てるようなやつは君とは釣り合わないとおもってたんだ」
初めの告白だ。
これでダメだったら本当にランプの精霊が出てほしいところだけど。
「あなたの願い叶えましょう。花園朱莉は赤梨誠のことを好きになりました!」
そして彼女は僕に抱きついてくる。
ベットの中だから余計密着する。
「ねぇ誠、嬉しい?」
「うん。嬉しいよ」
「ランプの精霊って本当にいたんだね!」
彼女はとても楽しそうだ。
そんなに僕のことを好きだったのか。
まぁ知ってたんだけどね
流石にあんなにわかりやすいツンデレじゃ、気づかない方がおかしい。
そんな可愛い彼女に少し意地悪しようと思う。
「朱莉」
「なーに?」
「ランプの精霊って叶えられない願いがあるんだよ」
「人が死ぬ願いとかでしょ?」
「うんそれともう一つあるんだよ。それはね……」
彼女はキョトンとしている。
「人の心を変えることはできないってことだよ」
「えっそれって……」
「精霊は人の好きな相手を変えたりできないんだよ」
彼女は驚いたのも束の間、どんどん顔が赤くなっていった。
「え、えっとそのあれ?」
困っている。
可愛いな。
「ありがとね。願い叶えてくれて」
「もぉーーーー」
そのまま怒った彼女は僕の胸を叩き出した。
でもすぐに疲れたのか寝てしまった。
僕もこれからのことを考えながら深い眠りについた。
二人は朝起きるまで抱き合ったままだった――