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最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います  作者: 八緒あいら(nns)
第四章 嫉妬編

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第十二話「釘刺し」

 月日が経ち、私は八歳になった。


「どうしようソフィーナ……もうすぐ例の日がやって来ちゃうよ!」


 お姉様の試験の日が近付くにつれ、ノーラはあわあわと慌て出す。


「慌てるな。一応、考えはある」

「何か作戦を思いついてるの?」

「ああ」

「どういう内容なの? 私に手伝えることはある?」

「……」


 善意で聞いてくるノーラに、私の胸がちくりと痛んだ。

 「スイレンが邪魔なので殺します」なんて言ったら、ノーラはどういう顔をするだろうか。

 私の人生の中でノーラと過ごした時間は短いが、そのぶん密度は非常に濃い。

 だから何を言われるかは分かっていた。


 たぶん、反対される。

 たぶん、止めようとされる。


(私が他人の顔色を覗うことになるなんてな)


 人から向けられる感情なんて、選択肢や会話次第でいくらでも調整できる値のひとつでしかない。

 そんな私が、ノーラにだけは絶対にバレたくないと思っている。

 彼女の感情はループしてもやり直せない。

 だからこそ、一度この関係が壊れてしまえば修復は二度とできない。


「――折を見て、父の浮気暴露イベントを前倒しで起こす。それで父を脅してスイレンをクビにしてもらうつもりだ」


 私は嘘をついた。

 これも考えた策の一つだが、お姉様が納得しないだろうと思って試さなかった。

 父の決定に反発したお姉様がこっそりとスイレンに師事をお願いする……なんてことがありありと予想できる。


「お父さんの浮気イベント、あんまり早くしたらレイラが病むんじゃなかったっけ」


 浮気暴露イベントは遅くても早くても問題が起きる。

 早ければ家庭内環境が最悪になり、母がお姉様に辛く当たるようになる。

 遅ければ浮気相手が他の貴族に情報を暴露し、貴族階級でのイグマリート家の面目は丸つぶれとなる。

 お姉様の学園入学前。それが最も良いタイミングなのだ。


「スイレンの排除にはそれが一番なんだ。後のことは今は置いておいて、まずは奴を乗り越えることだけに集中する」

「そっか……。じゃあ、私はその後の問題をなんとかできないか考えておくね」

「ああ」


 数え切れない嘘を重ねてきたはずなのに。

 ノーラに嘘を付くときだけ、私の胸は痛んだ。



 ▼


(スイレンの帰り道は……ここで声をかければ無理なく人気のない場所に誘い込めるか?)


 否が応でも戦いの日は近付いている。

 私は真っ(さら)なノートの上に、インクを染み込ませていないペンをトントンと置きながら、スイレンとの戦いを頭の中で繰り返し思い浮かべていた。


「ソフィーナ! どうだ見ろ! こんなにも難しい計算を僕の天才的な頭脳はたった五分で解いたぞ!」

「すごーい! さすがはオズワルドさま!」

「顔と声が全然合ってない!」


 あ。しまった。

 条件反射で声だけは取り繕えたが、表情が微妙なままになってしまった。

 私は慌てて「にぱ」と笑みを作る。


「すみません。少し疲れが出ているのかもしれないです」

「軟弱な奴め! そんなことでは僕を支えることなんて到底できはしないぞ!」


 殴るぞこの野郎。

 期待はしてなかったが、少しは優しい言葉をかけてこいよ。


(なんでこんな奴がヒーローの一人なんだよ)


 こいつとの恋愛模様を観察して楽しみたいだなんて……神々は本当に趣味が悪い。


「そもそも僕との勉強会をサボりすぎなんじゃないのか!? たるんでる証拠だぞ!」


 サボってる奴が何を言っているんだ――と言いたい気持ちを、ぐぐっ、と抑え込む。

 今回のルートでは、スイレンとのイベントに集中したくて、オズワルドとの合同勉強は週一、二回にまで抑えている。

 攻略の目処が立てばまた回数を増やすつもりではあるが……。

 どうやらオズワルドはそれが不満らしい。


「それについては前に説明した通り、家庭の事情で……」

「言い訳は聞きたくない!」


 オズワルドはぷりぷりと怒りながら尊大に腕を組んだ。


「お前は僕の婚約者だろうが! 僕の都合を常に最優先に考えるのが筋だろう!?」

「……ソウデスネ。申シ訳アリマセン」

「僕以外を優先するお前には罰を与えなければならない! これから一時間――」

「膝枕デスネ。ドウゾドウゾ」


 怒りのあまり片言になりながら、私はオズワルドに膝を差し出した。

 こんな拷問が長きに渡って続くと考えると、私の頭の血管が切れないかという所にまで注意を払わないといけないかもしれない。


(我慢我慢。お姉様に被害が行ってないんだから)


 物事はできるだけ前向きに考える。

 長きに渡るループの中で得た一つの真理だ。


 ……それでもため息は止められない。

 オズワルドにバレないように肩を落とし、私はぼんやりと中空を見やった。


 私の視界を遮るように、ウインドウが唐突に出現する。


『オズワルドに釘を刺しますか?』

 はい

 いいえ


 いつものようにいきなり出てきた選択肢を、私は怪訝な表情で見つめた。


(この選択肢、前も見たことがあるな)


 確か……奇病の原因を探る途中、オズワルドに協力を申し出た時だ。

 原因が特定できたのでもうそのルートは選ぶ必要がなくなった。

 必然的にこの選択肢の出番も無くなったのだが……。


(重要なものなのか?)


 同じ選択肢が別のルートでも出てくることはそう珍しいことではない。

 そういった選択肢は、大抵が重要なものであることが多い。


(そんな風には見えないが……)


 とりあえず私は以前選ばなかった「はい」を選んだ。


『オズワルドに釘を刺しますか?』

 →はい

 いいえ


「オズワルドさま」

「なんだ」

「私はオズワルドさまの婚約者です。ですがオズワルドさまも私の婚約者であることも覚えていて下さいよ」

「はいはい」

「本当に分かってますか?」


 私の手が、オズワルドの頬を挟む。


「約束ですよ。忘れないでくださいね」

「むぅ」


 唇が「3」の形になりながら、オズワルドはもごもごと返事をした。


 ……。

 なんだこりゃ。



 ▼


 お姉様の試験が一週間後に迫った日。

 私は授業が終わって帰り道を歩くスイレンを呼び止めた。


「スイレン先生」

「ソフィーナお嬢様。こんなところにお一人でどうされたのですか」

「先生とお話がしたくて……少しだけ、時間をくださいませんか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。歩きながらお話しましょう」


 ……スイレン殺害計画、実行。

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