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最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います  作者: 八緒あいら(nns)
第六章 入学編

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第四十話「終わっていない」

「なら話は早いわね」


 セラの手を握り返しながら、お姉様はより力強く頷いた。


「セラ。お友達になりましょう」

「!」


 はっと息を呑むセラ。

 彼女にとってお姉様は、想像の中でしか友情を結べなかった相手。

 そんな相手に、ずっと欲しかった言葉をもらえたのだ。


 まるで女神の天啓を受けたかのように、感激で打ち震えている様子が見て取れた。


「あなたの身に起きたことは、あなたにとってはとても悲しいことだと思うわ。けれど、そのおかげでこうして本音を話せるようになった」


 以前のループの中で、お姉様はこう言っていた。


 ――私はイグマリート家。セラはフィンランディ家。この事実がある限り、彼女とは友達になれないわ


 逆に言うと、セラがフィンランディ家で()()()()()、この前提は崩れる。

 ……あの時は聞きそびれてしまったが、本当はお姉様もセラのことが気になっていたのではないだろうか。


「お友達になって、家でいろいろお話しましょう。ずっと機会がなかったから、聞きたいことがたくさんあるの」


 セラと顔を合わせることは何度かあったが、本音で話す機会は一度たりともなかった。

 今なら、何のしがらみもなく楽しい話ができるだろう。


 セラもそんな様子を想像したのか、口角が上がっている。


「ありがとうレイラ。本当に、とても嬉しいわ……」


 喜色で彩られていたセラの顔に、湿っぽいものが混ざっていく。

 困っているような、泣き笑いのような、なんとも言えない表情を作りながら、ゆっくりとお姉様を握る手を解いていく。


「………………でも、その申し出は受けられない」


 長い沈黙と葛藤を挟んで、セラは完全に手を離した。


「理由はさっき言った通りよ。私はイグマリート家に……いえ、()()()()迷惑をかけたくない」

「……セラ」

「そんな顔しないで。『お友達になりましょう』って言われて、私、本当に心が救われたの。この言葉があれば、どこでだってやっていけるわ」


 宝物がその手に収まっているかのように、両手を胸に抱くセラ。

 一歩、二歩と後ろに下がり、お姉様たちから距離を取る。


 これで話は終わりだ、と言外に伝えているようにも見えた。



 ▼


 ここまでのやり取りで、セラの勘違いは解消された。

 親善試合でお姉様を攻撃するようなことはもう起こさないだろう。


 セラの表情は悲しみを称えつつも晴れやかというか、すっきりと憑き物が落ちたようになっている。

 詳細は違うが、国外追放を受けたエレナを思い出させる。


(イベントクリア……なのか?)


 親善試合イベントはクリアできただろう。

 ただ、これがトゥルーエンドに通じる『正解』なのだろうか。

 一抹の疑問が残る。


「ありがとう。レイラ、ソニア様。それに、使用人のあなたも……あれ?」


 セラの困惑した声で、思考を現実に戻す。


(あれ? ノーラはどこだ)


 いつの間にか、ノーラの姿が無くなっている。


「さっきまでここにいたのに……」


 お姉様と母も困惑した様子で周囲を見渡す。


「オズワルド様。ノーラがどこに行ったか見てましたか?」

「さっき向こうの方に走ってったぞ」


 私の体の上でつまらなさそうに肘をつく態勢で、通りの向こう側を指差すオズワルド。


「――すみませぇぇぇぇん!」


 まさにオズワルドが指差したと同時に、一人の男を連れてノーラが戻ってきた。

 彼をここに呼ぶためにいなくなっていたのだと、遅まきに理解する。


 ノーラが連れてきた人物。

 イグマリート家当主であり、セラの進退を決定する鍵を握る人物――父だ。


 まだ、イベントは終わっていない。



 ▼


「ノーラ。そんなに急がないでくれ……最近運動不足なんだ……」

「申し訳ありません。ですがもうレイラ様の試合まで時間が……!」


 お姉様の親善試合にはまだ時間はある。

 ノーラはそれを建前として、父を走らせたようだ。


「はぁ……はぁ……ようやく着い……あれ?」


 両膝に手をついて肩を上下させていた父が、顔を上げた拍子に固まっているお姉様たちに気が付いた。


「こんなところで立ち止まってどうしたんだ二人とも。親善試合は……? ッ」


 遅れてセラの存在に気付き、やや表情を強張らせる。


「こほん」


 咳払いをきっかけに、すぐさま『対公爵家用の顔』に切り替える父。

 公爵家当主としての自信と威圧感を膨らませ、にじみ出る敵意をすっぽりと隠す。


「君はたしか……セラ・フィンランディ、だったね」

「はい。正しくはセラ・フィンランディでした」

「でした?」


 妙な返答に、わずかに眉をひそめて訝しむ父。

 前提を知らない彼にとっては、セラが言葉遊びをしているようにも思えるだろう。


「今はただのセラです」

「はっきりしない物言いは好かんな。あまり大人をからかわないでくれ」

「あなた、少しお時間いいですか? ご相談があるんです」


 さりげなく離れようとしていたセラの両肩を掴み、父の元へぐいっと押す母。

 相談内容に関して主語が無かったが、それで父は内容を察したようだ。


「……その前に、ひとついいか?」

「なんでしょう」

「レイラの親善試合、時間は大丈夫なのか?」

「? ええ、まだまだ余裕はありますけど」

「そうか。まだまだ余裕があるのか」


 父が無言でノーラを見やる。

 言葉にこそ出していないが、目線の中に咎めるような意思が込められていた。

 ノーラは父の動きに連動するように明後日の方向を向き、吹けない口笛を吹いていた。


 ……後でフォローを入れるとしよう。


「こほん」


 父は咳払いをひとつしてから、母に向き直った。


「聞かせてもらおうか」



 ▼


「なるほど。事情は理解した」


 母の説明を聞き、父は頷きをひとつ返した。


「お願いしますあなた。どうかこの子をうちに迎えては下さいませんか」

「お父様。私からもお願いします」


 お姉様と母、二人から懇願される。

 セラはと言うと、沙汰を待つ罪人のような居心地の悪い表情をしていた。


 話をしている間に時間は進み、親善試合もそろそろ始まるかという頃合いになっていた。


「時間も限られている。率直に結論から言おう」


 そう前置きしてから、父がセラに言い放つ。


「駄目だ」

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