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最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います  作者: 八緒あいら(nns)
第六章 入学編

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第三十五話「二度目の入学式」

 しばらく時間を進め、入学式当日がやってきた。

 早朝に目を覚まし、馬車に異常がないかを確認するために馬車小屋へと向かう。


 今回のシナリオでは、悪戯が仕掛けられるフラグはおそらく立っていない。

 それでも確認に向かう。

 完全なる安心を得るために。


 経験上、ひとつのイベントに集中している時に限って余計な死亡イベントが発生することが往々にしてある。

 今回の場合を当てはめると、セラのことで頭がいっぱいになっているところに、馬車でトラブルが発生――などがそうだ。


 フラグは立っていないと言ったが、別方向でフラグが立つ場合もある。

 神々が定めたこの世界は、とにかく意地悪なのだ。


 確率で切り抜けるタイプのイベントに遭遇し、「いける」と確信した矢先に別の死亡イベントが発生した時が脳裏をよぎる。

 あの時、私がしっかり確認していれば……と思うと、今でも胸の奥がずしんと重くなる。


 嫌な経験は特別記憶に残りやすいからかもしれないが、なんとなく、そういう傾向が多いような気がする。

 とにかく、警戒するに越したことはない。


「『精霊の友よ。黒闇(こくあん)彷徨いし者に導きの灯火を』」


 車輪――よし。

 車軸――よし。

 車体――よし。

 その他――よし。


「問題なし」


 ここまで確認して、ようやく安堵の息を吐く。

 何の気なしに視線を上に向けると、埃っぽい屋根が見えた。


「……」


 もし――もし、入学式でイベントクリアの糸口を見つけられなかったら。

 またノーラをフィンランディ家に送らなければならない。

 あの選択肢で「はい」を選ぶことがシナリオをクリアする上で必須なのかは現状、確かめようがない。

 ただ、この世界の仕組み状、選択肢の先に答えが用意されている場合が多い。


 先週の会話を思い出す。


 ――大丈夫! レイラの為だもん


 ノーラは優秀だ。

 フィンランディ家の中に答えがあると仮定して、彼女なら数回のループでそれを見つけ出せる。

 しかし、その代償は決して安くない。


 精神に受けたダメージはそうそう治らない。

 今は大丈夫だが、あの家に行けば塞がった傷口は必ず開き、再び血を流し始めるだろう。


 ノーラがそれに耐えられなくなって、壊れてしまったら。

 身体の傷はループすれば無かったことにできるが、心の傷はそうはいかない。

 どれだけループしても、二度と元に戻ることはない。


「……させない」


 ぎゅ……と、拳を強く握りしめる。


 ノーラのため。

 セラのため。

 そして何より、お姉様のため。


 絶対にクリアの糸口を見つけてみせる。

 強くそう誓い、私は馬車小屋を後にした。



 ▼


 ――とはいえ、入学式で私ができることは限られている。

 オズワルドというお荷物がいる都合上、どうしてもノーラに頼らざるを得ない。

 情けないが、仕方がない。


「レイラ。化粧は私に任せなさい。あなたの秘めたる力を最大限に引き出して、アレックス殿下の視線を釘付けにするのよ!」

「ああああ……相談する相手を間違えたぁ……」


 真っ赤になって机に突っ伏すお姉様。

 ここまでは前回通ったシナリオ通りだ。


 既にノーラを付き人にすることは話をしているので、その後の一騒動はなかった。


「ではお姉様。私は先に参ります」

「ええ。入学式が終わったら合流しましょうね」


 お姉様に挨拶をして、先に席を立つ。

 本当なら抱きついて気力を充填したいところだが、入学式用の制服にシワが付いてはいけないので我慢した。

 クリアした暁には、思いっきり甘えさせてもらおう。


「行ってらっしゃいませソフィーナお嬢様。お気を付けて」


 美しい所作でお辞儀をして私を送り出してくれるノーラ。

 お姉様達の目があるので、いつもの言葉遣いではない。


 すれ違いざま、お互い小声で言葉を交わす。


「――こっちは任せて」

「――ああ。頼んだ」



 ▼


「どうだソフィーナ! 今日のために新調したとっておきだ!」

「さすがオズワルド様! 最高! 最強! 至高!」


 いつも通り、適当におだてながら舞踏館へとオズワルドを導く。

 忘れてはいけないのは、ここで仲睦まじい様子を将来の敵となる奴らに見せつけておくことだ。


 セーブポイントが更新されればもう入学式には戻れなくなる。

 先々で起こるイベントの種も、こうして注意深く潰しておかなければ。


「オズワルド様。くっ付かせてもらってもいいですか? 人が多くて、はぐれちゃわないか不安で……」

「よくない! 歩きにくいだろ!」

「お願いします。オズワルド様だけが()()なんです」

「……仕方ない! そこまで言うなら腕を組むことを許可してやる!」

「ありがとうございます。優しいオズワルド様、大好き♡」


 吐き気を抑えながら、オズワルドとのラブラブっぷりを入学式の間中、ずっとアピールし続けた。




 入学式が終わり、親善試合の時間が近づいてきた。

 いつもならここで壊れた木刀を避けなければならないが――今回、それは後回しにさせてもらう。

 その作業は最悪、試合の直前でもできる。


 それよりもセラの動きを調べたい。


「オズワルド様。せっかくですしその辺を散歩しませんか?」

「やだ! 面倒くさい!」

「オズワルド様のかっこよさをみんなに知ってもらう良い機会ですよ」

「別に、全員に知ってもらう必要なんてない」


 あれ。

 顕示欲の強いオズワルドなら、こう言えば大抵は乗ってくるのだが……。

 仕方なく、会話の方向性を変える。


「なら、探検してみませんか?」

「探検……面白そうだな!」


 同じ誘い文句でオズワルドをその気にさせる。

 前回は武術館の裏手にある倉庫だったが、今回は――武術館の正面を目指す。


 ノーラの話では、セラは武術館の入り口で声をかけていた。

 今行けば、その少し前に何をしていたかも調べることができる。


 ほんの数分程度だが……それが重要な手がかりになるかもしれない。

 そんな期待を込め、オズワルドの手を引いていく。

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