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最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います  作者: 八緒あいら(nns)
第五章 家族編

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第四十一話「本当の敵」

「これでよし……と」


 私はエレナに連れられ、とある小屋の一室に移動させられた。

 そこで椅子に両手を縛りつけられる。

 何の因果か、誘拐イベントでオズワルドと一緒に放り込まれたあの水車小屋だ。

 収穫期になると人がひっきりなしに出入りする場所だが、閑散期は本当に人が通らなくなる。


 そういった理由から、誘拐犯に人気の場所なのかもしれない。


(まさか、いきなりこんなことになるなんてな)


 もっとやんわり進むと思っていたイベントだったが、一気に雲行きが怪しくなってしまった。

 何か、やり方を間違えていたのだろうか。


 こういう時、選択肢がないと原因の追跡がし辛くて困る。


「大人しくしてなさい。私も、あなたを傷つけたくはないんだからね」


 ナイフをちらつかせて脅してくるエレナ。

 切っ先がやけにぶるぶる震えていて、狙いがおぼついていない。


「……エレナさん。体調が優れないんですか?」


 エレナの肩がさっきから荒く上下している。

 風邪でも引いているのだろうか。


「優れる訳ないでしょ!」

「っ」


 急に大きな声を出され、私の肩が反射的にびくりとした。


「ここ、こんなことしでかしちゃったのに……冷静でいられるわけないじゃない」


 エレナは自分の顔を覆い、うめいた。


「公爵令嬢を誘拐しちゃったのよ? 良くて国外追放。悪くて死罪だわ」

「エレナさん……」

「でも仕方ないじゃない! こうでもしないとあの人が会ってくれないのなら、やるしかないのよ!」


 どうやらエレナは行き当たりばったりの思いつきでこんなことをしでかしたらしい。

 スイレンのような平時から狂気を孕んだ人間かと思ったが、さすがに違うようだ。

 ……まあ、あんなヤバい精神構造をした奴がそんなホイホイいたら困るが。


 ――ただ、油断はできない。

 別のループでは、彼女はリズベラや父を刺している可能性がある。

 感情的な面が見え隠れしている。

 犯罪には慣れていないが、いっときの感情で禁忌の壁を越えてしまうタイプの人間のように見受けられる。


 下手に刺激をすれば、いつぞやの母のように激情に身を任せてナイフを振り下ろしてくるだろう。

 なるべくエレナを刺激しないよう、努めて優しめの声を上げる。


「安心してください。私もまだ死にたくないですし、暴れるつもりなんてありません」

「……そうしてくれると助かるわ」


 魔法を使えば逃げることは簡単だ。

 今までの私なら、ナイフを出された時点でそうしていただろう。

 けれどノーラの言っていた「トゥルーエンドの条件」が、エレナを燃やす手を止めさせた。


 敵が、敵となる原因を突き止め、説得し、無力化する。


 浮気イベントにおける『敵』――これを、私はずっと両親だと思っていた。

 疑心暗鬼から浮気に走り、家庭崩壊をもたらす父。

 気まぐれに暴言を吐き、家庭内の不和を作り出す母。


 しかし本当の敵はエレナなのかもしれない。

 だとしたら、彼女からも話を聞かなければならない。


 この世界が神が定めた運命のルールに則っているのなら。

 彼女とも対話し説得できれば、敵である理由を失う……はず。


 長く家庭を――ひいては遠回しにお姉様を苦しめる原因を作った相手の話なんて聞きたくもないが。

 魔法を使うにしても、ちゃんと事情を聴いてからだ。


「ソフィーナちゃん……なんだか随分と余裕そうね」

「こういう目に遭ったとき用の訓練もしていますから」


 オズワルドの時はもちろん、学園やその後でも何度かこういうイベントに遭遇している。

 もはや素人の誘拐くらいでは何とも思わないし、思えない。


「とはいえ訓練と実際は別。やっぱり怖いです」

「……ごめんなさい」


 しおらしい態度を取ると、エレナは罪悪感からナイフの切っ先を逸らした。

 誘拐なんて突飛もないことをしたと思いきや、意外と話が通じそうだ。


「けど、あの人が悪いのよ。私を捨てようとするから。会うことすらできないのなら、こうするしかないの」

「エレナさん。聞いてもいいですか」

「なによ」

「父とは、本当はどういうご関係なんですか」



 ▼


「お仕事ではないですよね」

「どうしてそう思うの」


 やや警戒した様子で、エレナが聞き返してくる。

 返答を間違えたら感情を逆撫でして刺されてしまうかもしれない。

 ここはひとつ、彼女に寄り添うような回答をしなければ。


「お父様のことを言う時、エレナさん……とてもお辛そうにしていたので。まるで滅多に会えない想い人のことを考えている時みたいです」

「はっ。あなたに何が分かるの」

「分かりますよ」


 静かに目を閉じ、私は彼女の心境を想像するふりをした。


「私も、お慕いしているオズワルド様とお会いできない時、よくそういう声を出す――って、お姉様に言われたんです」


 何から何まで真っ赤な嘘だが、エレナにそれを確かめる術はない。


「その時の私と同じ気持ちであるなら、その辛さ、とってもよく分かります」

「ソフィーナちゃん……」

「エレナさん。もう一度お聞きします。人質が、助かりたいがために時間稼ぎをするのではなく――同じように誰かを慕う者同士として」


 相手に同情して情報を引き出す。

 感情で行動する人間にはこれがよく効くことを、私は数え切れない失敗の上で学んでいた。


「父とは、本当はどういうご関係なんですか」

「……」


 エレナは口を開かない。

 けれど私はそれ以上急かしはしなかった。



「わ、私は……」


 しばらく無言が続いたのち、ようやくエレナは言葉を紡いだ。


「私は、あなたのお父さんの……元婚約者よ」







 ―――――――え?

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