第八話『チンタロー王都へ(前編)』
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王都ケツァーナの白い城壁が見えた頃には、既に夜も明けていた。
少しでも場の空気を明るくしようと考えたのか、マッスロンがよく分からない歌を唄っていたが、悪臭と車酔いに苦しむチンタローたちの耳には全く届いていなかった。
「今度は面白い話をしてやろう。ある日、エイトさんがこう言った。『隣の家に囲いができたってね』と。するとベアさんがこう言ったのだ。『ほう、すごいな』と……はっはっはっ。どうだ、面白いだろう?」
よく聞くダジャレだが、マッスロンは話をきちんと覚えておらず、笑わせどころも理解していなかった。
「うん、そうだね……」
チンタローには突っ込む気力もなかった。
「あ、あのぉ……マッスロンさん……」
モミーナがよろよろと身を起こし、蚊の鳴くような声を上げた。
「あ、ありがとうございますぅ……その……歌とか、ええと……為になるお話とか……」
「はっはっはっ。礼などいらぬ。危険を承知で協力してくれるお前たちには、俺たちの方こそ感謝してもし足りぬくらいだ」
チンタローとミャーコが思わず顔を上げた。
下衆・クリムゾンのメンバーからはっきりと感謝の言葉を聞いたのは、これが初めてだった。
「フン。勘違いするんじゃないんだゾ。ミャーコはお前たちを助けるつもりなんてないんだゾ。あくまでモミーナがお前たちを助けてやろうって言うから、モミーナのお父さんと、ミャーコの兄者の手掛かりがあるかもって言うから、その……」
頬を赤らめて口ごもるミャーコにマッスロンが微笑みかけた。
「はっはっはっ。同じことだ。俺たちを助けようと言ってくれたボンビーナ。なんだかんだ言って、一緒に来てくれたビャァァコ。本当にありがとう」
「ボンビーナじゃなくてモミーナです……」
「ビャァァコじゃなくてミャーコなんだゾ……」
「はっはっはっ、すまんすまん。そして、チンタロー。俺は、お前に――」
マッスロンが何かを言いかけた時、馬車が止まった。
いつの間にか、馬車は城壁の下にある検問所の前まで来ていた。
御者が馬車を降りて検問所を守る兵士に話しかけていたが、しばらくすると馬車に駆け戻ってきて一通の封筒を差し出した。
封筒には、下を向いた剣に『*』を刻んだ黒い盾を重ねたアナルニア軍の紋章が描かれていた。
「皆さん、馬車を降りてください。モミーナさん、検問所に入ったらこれを責任者に見せてください。ベンジォ大尉からの紹介状です。王都への入城手続きが済んだ後も、宮殿に入るまで失くさないように持っていてください」
「はっはい、ありがとうございます! あのあの……本当に助かりました。夜通しの運転、本当にお疲れ様でした」
「お礼などとんでもない。私は上官の命令に従ったまでです」
そう言って御者が微笑む。あどけなさの残る顔は汗まみれで、白い軍服はあちこちに汗染みがあった。
「あっ、そうでしたぁ。あのあの……御者さん。お名前は……」
「ハッ。私はモレール=ヤヴァイ。階級は兵長です」
御者――ヤヴァイは踵を合わせ、直立不動の姿勢を取った。
「ヤヴァイ兵長。あのあの……お世話になりましたぁ。ベンジォ大尉によろしくお伝えください」
「ヤヴァイ兵長、ありがと! 助かったんだゾ!」
「ヤヴァイ兵長。ありがとうございました」
モミーナに続いてミャーコとチンタローが礼を述べ、マッスロンがウザいほど爽やかな笑顔で感謝を表す。
ヤヴァイは照れくさそうに笑った。
「いえ……皆さん、魔龍討伐の成功をお祈りしてます。ご武運を」
「はい! それでは……きゃあん!」
「わっ!」
馬車を降りようとしたモミーナが足を滑らせ、ヤヴァイの上に落下した。
「はわわわ……! あのあの……ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
「い、いいえ! わっ……私は、大丈夫です! それでは、その……お気をつけて」
モミーナの身体を両腕で受け止めたヤヴァイが、鎧からはみ出した胸に顔を圧迫されながら答えた。
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紹介状を持参したことで、検問所での対応は円滑だった。
モミーナが奥の部屋で手続きをしている間、チンタローとミャーコがエントランスの椅子に座って一休みしていると、タケヤたちがドアを開けて入ってきた。
「あーっ、お前たち! 遅いんだゾ、バカ! 何してたんだゾ!」
「あぁ!? 悪ィのは俺ルァじゃねーよ! 御者が何度もウンコしてたせいだ!」
掴みかからんばかりの勢いで言い返すタケヤの肩をヤーラシュカがそっと掴んで、引き離す。
「まぁまぁ。あなたたちも聞いたでしょう? 魔龍の咆哮……あれのせいですわ。発症する便意には個人差があるんですの。一回で済む人もいれば、何度もお花摘みに行く人もいるみたいなんですのよ」
「ふーん、そっかぁ……ごめん、なんだゾ」
「ケッ! おいチンタロー、こいつ生意気すぎんぞ! ちゃんと仕切っとけよ! お前リーダーだろ!」
「えー。俺、リーダーじゃないよ?」
チンタローが面倒そうに言った。
「ハァ? じゃ、誰がリーダーなんだよ。まさか、その生意気なガキが?」
「むー、失敬な! ミャーコはガキじゃないんだゾ! オトナのれいでぃなんだゾ!」
「いや……リーダーも何も。そもそも俺たちパーティーっていうか、成り行きで一緒に行動してるだけっていうか」
「ンだよ、それ……テキトーだな」
タケヤが呆れて頭に手をやると、一人の兵士が歩み寄って来た。
「モミーナ=パイデッカーさんのお連れの方ですね。出入国書類を見せてください」
「ちょ、待てよ! 俺たちはこいつらのツレじゃなくて下衆・クリムゾンで、リーダーは俺で――」
「受け取った紹介状では、パイデッカーさんが代表となっています。三人とも早く書類を見せてください」
タケヤ、ドエーム、ヤーラシュカが、しぶしぶ出入国書類を差し出す。
そんなタケヤたちを、マッスロンは温かい笑顔で見守っていた。
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