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第六話『耐えろ! ウンコ地獄(前編)』

 アナルニア王国との国境に到着したのは、陽も沈みかけた頃だった。

 それまで滞在していたペンペコ王国の国境検問所で出国手続きを済ませ、『*』の形をした国章が壁に架けられた白い建物――アナルニアの国境検問所へと向かう。

 ペンペコの警備兵たちはタケヤら下衆・クリムゾンとその活躍を知っていたが、アナルニアへの入国と聞いて表情を曇らせた。

 白い建物の前では白い軍服を着た二人の兵士が、地面から垂直に立てた槍を握り締めながら無言でタケヤたちを見張っていた。


「さて、あの白い線を超えればアナルニア領だが……覚悟はいいか。話は聞いてるだろうが、マジで臭いぞ」


 そう言って前へ進むタケヤの後に、チンタローたちが続いた。


「モミーナ、ミャーコ。自分の好きな香りを思い浮かべながら進もう。よーし、俺はフローラルの香りだ!」


 チンタローが笑顔で呼びかけると、モミーナ、ミャーコも笑顔でうなずいた。

 実はチンタローにはフローラルの香りがよくわからなかったが、とにかく余裕のあるところを見せて二人を勇気づけたかった。

 タケヤたちが国境線を越えるのに続き、チンタローたち三人も歩みを進める。

 チンタローは目を閉じて、力強い足取りで国境線を踏み越えた。


「うーん! この香り、フローラル……」


 チンタローは勇気を出して、大きく息を吸い込んだが――。


「……じゃない! うんこの香りだあーっ!!」


 一瞬遅れてやって来た、鼻から脳天を貫くような悪臭に目を見開いて絶叫した。

 同時に国境線を越えたモミーナは鼻と口を押えて必死に吐くのをこらえ、嗅覚の鋭いミャーコは失神寸前となっていた。


「おぅっぷ……みゃ、ミャーコちゃん……しっかりしてください。うぇっ……!」

「あぅあぅ……もう、ダメなんだゾぉ……」


 必死に吐き気と戦いながら、モミーナがミャーコの肩を揺さぶる。

 ミャーコは真っ青な顔で、辛うじて意識を保っていた。


「くっせぇ! くっせぇ! くっせぇわ! もうダメだわ死ぬ! 臭くて死ぬぅぅぅ!」

「はっはっはっ。しっかりしろ、チンタロー。そのうち慣れるさ」

「そうですよ、チンタロー。人間には嗅覚疲労というものがあってですね」

「イヤだぁぁぁ! ウンコの臭いに慣れるなんてイヤだぁぁぁ! もう帰る! ペンペコに帰るぅぅぅ!」


 悲鳴を上げて地面にのたうち回るチンタローをマッスロンが無造作に抱き起こすと、ヤーラシュカが眼鏡を光らせながら意地の悪い笑みを浮かべた。


「うふふふ……チンタロー。この国の空気を吸った時点で、あなたも私と同じゲロ以下の口臭をまき散らす、公害人間ですのよ。今からペンペコに帰ったところで、私と同じ思いをするだけですわよぉ~」

「諦めてついて来いよ、チンタロー。魔龍討伐が成功すれば報酬はお前らのもんだぞ。貴族になって、一生遊んで暮らせるんだ。ちょっとくらい我慢しろよ」

「こんなの、全然『ちょっと』じゃねぇよぉぉぉ!」

「あー、るっせー! いいから、オルルァについて来いよ! おら、くしろよ!」


 タケヤが舌打ち交じりにチンタローの襟首をつかむ。タケヤは怒ると巻き舌になるのだが、乱暴な口調と相まってヤクザのようで怖い。

 チンタローはなおも全身を揺すって抵抗を試みたが――。


「おい、お前たち! いつまで騒いでいる!」


 突然の、鋭い声。

 槍を手にした若いアナルニア兵がチンタローをにらみつけていた。


「あっはい……サーセン」

「うぅ……チンタロー。みっともないんだゾ。みんなで決めたことなんだから、覚悟を決めて行くんだゾ……うっぷ」


 真っ青な顔のミャーコに促され、チンタローはようやく抵抗をやめた。


「あのあの……すみません、チンタローさん。私が、その……無理を言ったから……」

「いや……俺の方こそごめん。行こうか……」


 チンタローたちは鼻と口を手で押えながら、ふらふらとした足取りで歩き出した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「タケヤ=ラムーキン、ドエーム=ロシュッツスキー。ヤーラシュカ=カーラディアに、マッスロン=マッチョナー……君たちのことは聞いている。王女殿下に無礼をはたらいたそうだな」


 検問所の一室で、ベンジォ大尉と名乗る壮年の将校が、机に置かれた出入国書類をめくりながら、吐き捨てるように言った。


「ちょ、待てよ! その話じゃなくって! 王女殿下との約束通り、聖なるチンコの持ち主を連れてきたんだよ! 王都まで馬車を出してくれる約束だろ!」

「ああ、そんな話も聞いていた。それで、その聖なるチンコの持ち主とやらは?」

「あ、どうも……チンタローです」


 チンタローが歩み出て頭を下げる。建物の中は悪臭もいくらか和らいでおり、ようやく落ち着いて話ができるようになった。

 ベンジォはチンタローの顔を見るなり、小さくため息をついて書類に目を落とした。


「君が……? まぁいい。チンタローに、あと二名か。ミャーコ=ケモニャンコと……ん? モミーナ=パイデッカー!?」


 モミーナの書類を見ていたベンジォが驚いた様子で顔を上げた。


「あのあの……モミーナは私ですが、何か……?」

「失礼。あなたは、火弓叉衛門かゆみまたえもん殿のご息女か」

「は、はい! 叉衛門は私の父ですが……」


 苦虫を噛みつぶすようだったベンジォの顔が、不意に綻んだ。


「なんたる奇遇! 叉衛門殿とは、一度お手合わせいただいたことがある。まさか、ご息女にお会いできるとは!」

「えっ、父と……! あのあの、どうして私が娘だと……?」

「叉衛門殿から、エルフの里に奥方とご息女がいると聞いていたのだ。奥方はスィーナ殿、ご息女はモミーナ殿と。どちらも胸が大層……しっ、失礼! えぇと……とても美しいと自慢しておられた。透けるように白い肌、輝く金色の髪……叉衛門殿の仰っていた通りだ。それに、その緑の紐で飾った鎧。叉衛門殿もそのような鎧を身に着けておられたのでな」


 ベンジォは、モミーナの胸……ではなく、黒い鉄片を鮮やかな萌黄もえぎ色の絹紐で飾った萌黄糸威もえぎいとおどしの鎧を指して言った。

 鎧は胸元が内側から大きく押し出され、その爆乳が猛烈に存在感をアピールしていた。


「二刀流……叉衛門殿と同じか、懐かしい。叉衛門殿にお手合わせいただいたことは、剣士として光栄の極み。後にも先にも、叉衛門殿を超える剣士には会ったことがない。是非、軍の剣術指南にとお願い申し上げたのだが……お父上は御息災ごそくさいかな?」

「あっ……いいえ。父は五年前に里を出ていきまして。以来、行方を捜しているのですが。あの……ベンジォさんは何か、ご存知ではありませんか?」


 ベンジォが再び顔をしかめ、小さくうなった。


「なんと……左様であったか。私が叉衛門殿にお会いしたのは六年前、場所もアナルニアではない。私が修行で訪れたバゴーン王国だ。申し訳ないが、その後のことは知らぬ」

「そう……ですか……」


 うなだれるモミーナの肩にミャーコがそっと手を置く。


「落ち込むことないんだゾ。アナルニアに来てすぐお父さんを知る人に会えたんだから、これからもっと情報が集められるかも知れないんだゾ」

「そう……ですね。ミャーコちゃんのお兄さんのことも、知っている人がいるかも」

「うん! そうなんだゾ!」


 モミーナとミャーコが笑顔でうなずき合うと、ベンジォが席を立った。


「モミーナ殿。すぐに馬車を準備させよう。積もる話はあるが、まずは王都へ急がねばな」

「はっ、はい! ありがとうございますぅ!」

「うむ。この件がひと段落したら是非、手合わせを。チンタロー殿にミャーコ殿……先ほどは失礼した。魔龍討伐の成功を祈っている」


 チンタローとミャーコが笑顔でうなずく後ろで、タケヤがひとり肩を落とした。

 いつの間にかモミーナを主体に話が進んでしまっている。


「リーダーは、俺なのに……」

☆ 読者の皆様へ ☆


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ウンコ地獄と化したアナルニアの惨状に戦慄するチンタローたち!


次回もご期待ください! すぐに更新します!

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